53.
睨み合う【月】に訪れる静寂。それを破ったのは、その場にいた者たちを上から見ていた無愛だった。
「何熱くなってるんだい?」
「……無愛」
「やぁやぁ、元気だった?」
かなりの高さから軽々と降りてきた無愛の強膜は、前に会ったときと同じ赤だった。違う点をあげるのであれば、目を隠すことなく追われている身でありながら出てきたことだろう。
「……本当に赤いのね」
「目のこと? そりゃあメノウだし、力を抑えてなければこんなものだよ」
受け入れると結構楽なんだよねぇ、とクスクス笑いながら話す無愛と自分たちの知っている無愛が合わずに混乱する音葉たちだが、青海たちが何も言わないのを見るに、こちらが本来の無愛なのだろうと理解する。
「……信樹、ルシファー呼んで」
「お帰りになるのですか?」
「今回はもういーよ。ある程度知りたいことは知れたから。遊びたいなら遊んでいいけ………っぶないなぁ」
無愛が視線をズラしたと同時に一気に近づき、能力で取り出したのか、剣を無愛に振るう影夜。無愛も間一髪のところで持っていたタガーナイフを取り出し防いだ。
「慧斗、青海中心に【信月】及び【可月】とその女を討伐しろ!! 女の方はメノウで複数の能力を確認してる!」
「一人で私の相手するつもりなの?」
「やるっきゃねぇだろうが」
かつて【月】を造った二人の子ども。忌避され、災厄と言われ、仲間を集め力を持つことになったモノたちの創始者。
【慧】と【信】は気づいている。【闇】は決して【死】を殺すことができず、それは自分たちもそうであるり、【死】を殺すことはもはや理論上不可能であることに。しかしその反対に、【死】は簡単に【闇】を殺せてしまう。【闇】だけではなく、どの【月】も、【死】の前ではみな等しく脆弱な生命でしかないのだから。
「【崩壊】」
「【造物】」
互いに能力の欠点は知っている。
無愛はまず【崩壊】を使い、【崩壊】を使用するためには自分に課せられている事象、もしくは発動時に対象に触れていなければならない。
影夜はほとんど戦闘を行わないが、する場合は【造物】によっての中距離が基本。触れたら死ぬ能力があることを考慮すればそれは正しい。
互いのことを分かっているからこそ、味方であれば心強い。反対に、分かっているからこそ、誰よりも強力な敵となる。
「どうするの」
「姫が遊んでおられるのなら、その間にこれらを排除するだけだろう」
「いつから血の気が多くなったのでしょうねぇ。【信月】」
「姫の命ならばどれだけ血で汚れることを厭わぬのが我らだろう」
あちらはやる気。問題は、信樹のみしか能力についての情報がないこと。
「隊長。【信月】を一人で討伐する許可をいただけますか」
「……いいわよ。ただし、絶対勝ちなさい」
「了承いたしました」




