52.
無愛がルシファーとミカエルの戦いを眺めている間に、青海と笙人はもうしばらくかかるだろうが、影夜たちはそれぞれに宛がわれたメノウの討伐が完了していた。
「お、終わりましたね」
「……いや、まだ来るぞ」
影夜が上空を睨み、出てこいと叫ぶ。すると、いつからいたのか、十八ほどに見える少女が現れた。
その少女が人ではないと一瞬で分かる。腕が人のモノではないのだ。多数の触手が本来腕がある場所から伸びており、ウネウネを奇妙に動いている。
「さっすが【闇月】。史がいても強いんだね!」
「なんで名前」
「無愛が教えたんだろ。能力も把握されてるはずだ」
「大正解。アタシと【可月】、【信月】が来てるんだけど、アタシは軍のこと知らないから教えてもらったの」
【信月】は敵だと思っていたが、無愛と行動を共にしているということは、少なからずその前までのこととは無関係。問題は、影夜の知らない【可月】という存在。
「【可月】ってのは新入りか?」
「うん。ちょっと前に入ったんだ~」
お喋りなのか、聞けば答えるため情報を抜き取るにはちょうどいい。
「史、捕縛するぞ」
「え、でもあの人…」
史が言いたいのは、メノウではないのかということだろう。影夜は無愛が何かしらを施したメノウではないかと考えているため、難しいだろうが捕縛してできる限りの情報を抜き出したい。
「アタシとやるの? いいねぇ、遊ぼうよ!!」
少女は触手を影夜めがけて放ち、圧死させようとする。だが、
「俺にそれは効かねぇよ」
「……あらま」
影夜の背後には影から伸びる黒い手。それが少女の触手を切断していた。
「……なるほどぉ。それが【暗闇】の能力か」
「そこまで無愛は教えてくれなかったか?」
「【月】は【月】を裏切らない。そう言ってたよ」
こうして敵対してる時点で裏切ってるのでは……? と影夜を史が見ると、なんとも言えない笑みを浮かべていた。
「そうか。ならあのバカに言っとけ」
「伝言ならいいけど」
「一回顔出しに来いってな」
影夜は史を引っ張り大きく後退し、何かを察知した少女も急いで後退した。……しようとしとした。しかし、
「っ!!!」
少女のいた場所を何かが大きく地面を抉り通った。
史が口を開けて言葉を発せないでいると、影夜が慧斗のだから気にするなと言うが、これは気にする気にしないの話ではない。
「行くぞ」
「この跡を辿るんですか!?」
返答せずに走っていく影夜に、全力でついていくが、どうしても体力に差があり史はしばらくして息切れを起こしてしまう。
「……ったく、結局お守りかよ」
「すみませぇえ!?」
「雑だが許せよ」
史を適当に担ぎ走り出す影夜。史は軽い方ではあるが男である。それを軽々と持ち上げ走るというのは、ミカエルの元に赴くとき史を背負いながら歩いたときとは違う。影夜にあるメノウの力故なのだろう。
「ったく、あと少しで当たるとこだったんだけど?」
「許容してください」
抉られた跡が終わっている場所には先ほどの攻撃で察知し合流した青海たちと、少し服が破けているものの目立った外傷のない少女と黒いローブを深く被った人物。そして、
「久しぶりだなぁ、【信月】」
「やってくれましたね。【闇月】、【慧月】」
自分の姿を隠す気のない人物──【信月】篠原信樹がそこにいた。




