5.
「とんでもない暴挙ね」
それが赦され、できる程の実力が二人には……無愛にはある。
「あんた、【死月の災厄】がしようとしてることは、あんたも死ぬのよ!?」
「別に、死んだら死んだでだ。なんで【死月の災厄】が………無愛が、恐れられたのか。お前たちに教えてやるよ」
【死月の災厄】のみでは、あそこまで善戦するのは難しかった。だが、【死月の災厄】には、ずっと側にいる、自分の背中を安心して任せられる、兄がいた。
「【月】創設者が一人、【闇月の災厄】。光があれば影がある。俺の攻撃範囲は影があるところ全てだ」
【月】の名はそれぞれの能力に由来する。
【死月】であれば『死』に関する能力。
影夜の【闇月】であれば、『闇』に関する能力。
もっとも、それは【月】の持つ能力で表向きそうなっているというだけ。
「無愛、射程距離伸ばすぞ」
「青海、もらって、良い?」
「好きにしろ」
許可は取ったと、無愛は青海に近付いて別の場所に移動させる。
「青海!」
「焦んなよ。別に殺し合いしようなんて言ってねぇ」
「………どういうことだ」
警戒しながら聞く笙人と、笑顔で警戒などまったくしていない影夜。
「青海連れてかせたのは交渉のためだよ。互いに【月】と軍の交渉役。一対一がフェアだろ?」
「…」
「元々、俺らを軍に入れるために来たんだろ? 入ってやるよ。その代わり、条件を出す。───」
「…………!」
影夜が出したのは、条件とは言えない、ただ自分たちの目的を果たすためのもの。けれど、これを受け入れないという選択肢は。
「……分かった」
存在しない。
****
『無愛、戻ってこい。交渉した』
場所を移動し、膠着状態のところで影夜からの通話がきた。
「あっさり、だね。青海、人質に、でも、した?」
『いや、学校の奴ら』
「やっぱ、私、よりも、悪者、向いて、るよ」
『さっさと戻ってこい』
イラついてる様子で通話が切れた。
「…行く、よ」
「…………」
「交渉、したって、言ってた、でしょ。殺る気、はない。早く、して」
しぶしぶといった感じで無愛に近付く。そんな青海を無視し、学校の元いた場所に戻った。
「影夜、疲れた」
「もうちょい我慢を覚えろ」
何事もなかったかのように、いつものように会話をする二人。青海と笙人は少し戸惑った。
これが、本当にかつて対敵し、苦戦を強いられた相手なのかと。
「俺らは軍に行く」
「………何が目的?」
「軍の『ある施設』を潰す」
「どういうこと?」
「詳しくは後でだ」
その後は、二人の筋書き通りとでも言えるだろう。
戦闘は、無愛の体力切れで終わったことになっていた。
「隊長!」
「問題ないわ」
「えっと、これは……?」
「…………影夜、あの、恥ずか、しい」
現在、体力切れで動けないという設定だからか、姫抱きされ、首や耳まで真っ赤にして影夜の胸をドンドンと叩く無愛と、満足そうに抱っこしている影夜。
この状況を見て、誰があの【死月の災厄】なのだと思うのか。
「顔真っ赤」
「誰の、せい、だと……っ!」
叩いているものの、力があまりは入っていない。影夜がニヤニヤ笑っているのは顔を埋めていて見えていない。周りが顔を真っ赤にしている者がいるのも。