42.
三人が街を歩き、別々に帰路に着こうとしたとき、さほど遠くない場所で悲鳴が上がった。
「朝からですか…」
「さっさと終わらすぞ」
「え、あの」
「あなたは急いで避難を」
それだけ言い、悲鳴が上がる方向へと走っていく二人。
史は言われた通り、逃げようとするが、問題が起こった。
「……」
掲示板の前で自分に話しかけてきた子どもらしき人物が、悲鳴が上がる方へと進んでいくのを見つけてしまったのだ。
「……ちょっと!」
もし本当に影夜の妹の無愛ならば、会わせてあげたいという気持ちが、逃げなければという恐怖に勝った。
史は子どもを追いかけ、被害の出た方へと走っていく。
人々は逃げ惑い、泣き叫ぶ声も聞こえる。
(どこまで行くんだ!?)
史が見失いかけたそのとき、子どもは立ち止まり、史の方へと顔を向けた。
「こんなところまで着いてきておバカさんだね」
「君は軍の、人の妹……なの?」
全力で走るなど久しぶりだったため、史は少し息が上がっていた。
「軍の人って、影夜?」
「やっぱり!」
「えー、それ知るためだけにお兄さんついてきたの?」
「お兄さんたちが心配してるよ。何があったかは分からないけど、とりあえず一緒に」
「逃げよう」と史が言おうとしたが、できなかった。声が出なかったのだ。
「ごめんねぇ。お兄さん」
子どもの後ろには、全長三メートルはあるであろうメノウ。メノウは子どもを攻撃する素振りはなく、史を見ている。
「バイバイ」
子どもが手を振り、メノウに攻撃命令を下すと、史に一直線に向かってきた。
殺されると諦め、史が目を瞑るが、いつまで経っても痛みは来ず、メノウの奇声が上がった。
「……!!」
メノウの返り血で血まみれの影夜と慧斗が、ギリギリのところで到着し、メノウを殺したのだ。
「……こちら新谷。避難途中の一般人を発見しました」
胸に着けていた機械に短く言い、子どもに目を向ける。
「…久しぶりだな」
「本当だね~。一年ぶりかな」
緊張感を持つ三人に対し、のほほんとした空気を纏う子ども。
「なんでここが分かったの?」
「複数のメノウの出現。そしてそのどれもがこの辺りから離れていきました。メノウが人間のいる場所からわざと離れていくことはあり得ない」
「なるほど。だからこちらに何かがあると踏んだワケね」
けれど、ここだとピンポイントで分かるはずがない。いくらメノウが巨大だとしてもだ。
「多少距離が離れてようが、関係さえ確立してしまえば位置程度は把握できる」
「あー、【共有】か。そっか。見落としてたや」
クスクスと笑う子どもは、どこかこの状況を楽しんでいるようだった。
「……いったい、どういうおつもりですか。メノウと手を組むなど」
「手を組む? んなワケないじゃーん」
「なら、なんなんだよ。そいつらは」
子どもの後ろには、十数体のメノウ。
「よくできてるでしょ? とぉっても苦労したの」
「お前、あいつの能力を…」
「便利なモノは使わないと」
風で揺れるフード。その下から一瞬だけ見えた強膜の色は、血を連想させるほどの深紅だった。




