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地上の地下トレイン

カフェの次は池袋に出て東急ハンズで猫グッズの買い出しをした。ピトはこれまでなんと人間のトイレで用を足していたわけだけれども、却って大変だろうと思い、猫用のトイレを買ってやることにしたのだ。トイレの他にも爪研ぎやらユウリの趣味で鈴付きの首輪まで。


「ピト、似合うよ」


赤い首輪に小さな銀の鈴。ピトのことになるとやたら積極的なユウリ。僕がピトを警戒する理由はこの辺にもある。猫と張り合ったってしょうがないとは思うけれども、齢百年を越しているかもしれない老獪なやつだと想像すると僕の気持ちも少しは分かってもらえるだろう。


池袋からはなんとなく丸ノ内線で寮まで帰ることにした。


「ピト、かわいそう。人間より賢いのに」


まあ、否定はしない。けれども動物は動物だ。電車の中ではケージに入れて移動しないといけない。


後楽園のあたりで地上に出る。

僕はどうして地下鉄がお日様の下を堂々と走るのか未だによく分からない。

まあ、東京の街並みを眺めることができるのでありがたいとは思うけれども。


後楽園〜という車掌さんのアナウンスをぼんやり聞いていると、ガクン、と電車が急激に減速した。


「お、とと・・・」


思わずつり革につかまる。

ユウリはつり革につかまった僕のシャツの背中をさらに掴む。


「あっ!」


電車のブレーキの慣性がことの他長く続いたため、ユウリが思わず手提げケージを床に落とす。

ケージの扉が開いた。


「あ? ピト⁈」


後楽園駅に停車して開いたドアめがけてピトが駆ける。そのままホームに飛び出して行った。


「ユウリ!」


ユウリはケージをそのままにしてピトを追い電車を降りた。僕はドアが閉まりかけたところを半身になってほとんど挟まれながらなんとか外に出た。


ピトの姿はもう見えない。かろうじてユウリの後ろ姿を捉えた。


「なんでこんなにうじゃうじゃ人がいるんだ」


ダッシュとブレーキを繰り返しながら僕は人々をすり抜けて走った。まさかなぎ倒して突進するわけにもいかず、とにかくユウリの後ろ姿を追った。


決して背の高い方ではないユウリを何度も見失いそうになりながら頑張って追う。いつもながら足が速い。


気がつくと東京ドームの前に出ていた。


ダフ屋が、


「患者kneeのチケットあるよー」


とダミ声でがなっている。混雑の原因はこれか。


けれどもアイドルのコンサート前の人口密集とは別に、向こうに人の輪ができている。ざっと100人近くが背伸びをしながらざわざわとなにがしかを取り囲んで見物している様子だ。

その輪の最後列にちょうどユウリが辿り着いたところのようだ。僕もユウリに追いつく。


「どうなってんの⁈」

「わかんない。でも、多分ピトはこの向こうに駆け込んでったと思うの!」


背伸びして見れないなら、と僕はしゃがんだ。

それでも見えないのでほぼ地面に顔を擦り付けるようにして群衆の股の間から輪の中の様子を覗き込んだ。


「あ、ピトいた!」

「ほんと⁈」


ユウリも姿勢を低くして覗き込む。


僕ら2人がまず確認したのはユウリの白いスレンダーな躯体。


それからその対角線上に、鉄製のぶっとい鎖を右手に持ったさっきの男が立っている。


その鎖の先には・・・


「え・・・あれって、まさか・・・」


人間の身長よりも大きな、けれどもしなやかな黒い物体が四つん這いになっている。


「クロ?」


ピン、と張った鎖の先に、黒豹が唸っていた。




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