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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第四章 異常な鍛冶師
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普通の弟子

 掃除は好きだ。子供の頃から、部屋の中を片付けたり、母親を手伝って雑巾がけをしたり。掃除が、と言うより母親の喜ぶ顔が好きだったし、なにより大人と同じことをしている、ちょっぴり大人な自分が好きだったのかもしれない。料理は危ないしさせてもらえないし、お買い物は当然お金を使うし、事故の危険性もあるから行かせてもらえない。そうなると、母親の目が届く範囲ででき、そこまで危険のない掃除をよく手伝うのは、必然とも言えるのかもしれない。

 今日は、日頃使っている作業場を掃除している。あれはこっちにおいて、これはこっちに。これ、こんな所にあったのか。なんて事を考えながら、作業場の中を動き回る。身につけているのは、衣装や防具を作っている友人がくれた「新妻セット」だ。名前がどうにかならないのかと、抗議をしたが頑として受け入れてくれなかった。薄いピンク色をしたエプロンも、淡い色をした花がらの三角巾も、確かに凝っていて、可愛いのだが。いかんせん名前が、少し恥ずかしくなってしまう。


 「弟子」


 とりとめのないことを考えながら、作業場の掃除をしていると。店の方から、私を呼ぶ師匠の声が聞こえてくる。何か用事だろうか、私宛の仕事は来てないと言っていたし、今日はまだシュタイナーさんが開店してすぐ来てからは、未だお客さんは来ていない。


 「はい、どうかしましたか師匠」


 手に荷物を持っていたため、顔だけを出すような形で師匠に返事をする。師匠が椅子に座るよう、声をかける。荷物をおいて、手早く鏡を見て自分の姿を確認する。髪の毛の乱れもないし、顔に汚れもないのを確認して師匠と向き合うように椅子に腰掛ける。


 「上級金の扱いには慣れてきたか」


 「師匠のお陰で、随分慣れてきました」


 「ふむ……」


 そう呟いて、師匠は腕を組んだまま黙りこんでしまう。どうしたんだろうか、何かあったんだろうか、もしかしてこの間した仕事に不備でもあったんだろうか。いや、もしかしたら最近した失敗についての話かもしれない。ついつい鍛冶が楽しくて、師匠の素材を湯水のごとく使ってしまったことを怒っているのかもしれない。しかし、師匠が鍛えたインゴットが、私が鍛えたものと違いとても叩きやすいのが悪いんだ。


 「あの……どうかしたんですか?」


 子供の頃の癖で、両親など親しい人に怒られそうなときや、緊張している時についつい手を太ももに挟んでもじもじじてしまっていたが。最近では殆どと言っていいほどしなくなったこの癖が、師匠の前だとどうしてか出てしまう。師匠と一緒にいると、師匠が守ってくれるし面倒も見てくれる、はしゃいでいる時も、落ち込んでいる時も見守ってくれる。なんだか、自分が子供に戻ってしまった様な気分になる。情けない姿だし子供っぽい仕草なので、あまり師匠の前で見せたくないのだが、また無意識のうちにこの癖が出てしまったようだ。


 「属性武器、打ってみるか?」


 思いがけない言葉が師匠から飛び出してきた。属性武器は、鍛冶師にとっては2つ目の鬼門となる大きな壁だ。師匠は私の能力に見合わないようなことはさせない。つまり、私は属性武器が最低限打てる程度に、鍛冶の腕が上がったということだ。

 師匠の言葉をだんだんと、私の中に染みこんでくる。最初は全くの予想外だったから、理解できずにアホ面を晒してしまったが。意味を理解した瞬間、どうしようもない程の喜びが沸き上がってくる。


 「はい! 打ってみたいです! ほんとに打っていんですか!!?」


 「ああ、お前にはそれだけの技術がある」


 「やっと属性武器に入れるんですね! やっと!」


 返答を考えるまもなく、言葉がついて出た。自分の技術を師匠が認めてくれた。その言葉だけで、今までの苦しい気持ちも、悔しい気持ちも無駄ではなかったと思える。師匠に少しでも近付けた、いつかは師匠に並びたてる、自慢の弟子になりたい。その為の一歩、大きな大きな一歩を私はやっと踏み出すことが出来る。

 師匠がカウンターに置いてあるレシピ集を見ている、多分私に見合った武器を選んでくれているのだろう。


 「全長170のパルチザンだ、材料は好きに使え」


 「パルチザンですか」


 「ああ、デザインはオーソドックスでいい、装飾はそのうちだ」


 師匠の言葉もそこそこに聞きながら、私は鍛冶の準備にかかる。初めて打つ属性武器は、絶対に雷属性の武器にしようと決めていた。何故なら、師匠が雷属性の武器をよく使っているからだ。相手が麻痺状態になるので、そこが便利で使っていると言っていたけど。師匠が剣をふるうたびに迸る電撃が、師匠の装備と相まってすごくカッコいいのだ。


 「フッ……フッ……」


 早々に準備を終えた私は、すぐに鍛冶を始めた。最近では私専用となりつつもある、通常のホドで、雷鋼鉄を鍛えていく。明らかに上級鋼鉄とは違う感覚に、戸惑いながらも鎚を振るう。

 ビリビリとした痛みが、私の腕を駆け巡る。師匠はいつも、この痛みに耐えながら鎚を振るっていたのだろうか。我慢強い方だと思う私でも、痛みに顔をしかめてしまう。早く終わらせたくて、ついつい手に力が入ってしまう。アシストを感じながら叩いているのに、一向に鍛冶が進んでいる感じがしない。男と言えばいいだろうか、なんだか雷鋼鉄が全く言うことを聞いてくれない様な気分だ。他の材料ならこんな事はないのに、何故だろう。少しづつ、少しづつ、焦りが手にも出てくる。このままではいけない、このままでは失敗してしまう。今まで何度も感じた、失敗の足音が聞こえてくる。


 「……ッ!」


 「痛むか」


 「……はい」


 一際大きな火花が散り、私の腕にも強い痛みが入る。音も澄んだ音ではなく、どことなく鈍さのある音で。失敗がいよいよもって頭をちらつく。


 「力で叩くな、技術で叩くんだ」


 強張った肩に、師匠の大きな手が乗って、私の肩をゆっくりともみほぐす。その感触と暖かさに、強張った肩が元に戻っていく。


 「力めば余計な動作が多くなる」


 師匠の体が私の背中に密着し、師匠の右手が私の手を鎚ごと握る。今までに無い師匠の指導に、一瞬お緊張が走るが、師匠の言葉で一瞬にしてまた鎚に集中する。


 「自分を信じるんだ、今までの努力を信じろ」


 力任せじゃない、でも手を抜いているわけじゃない。適切な力で、適切な場所に、適切なタイミングで鎚を振り下ろす。


 甲高い金属音。


 全身にその音が響いて、鳥肌が立ちそうなほどに響いて。同時に師匠の世界を見たような気がした。こんなに気持ちのいい音に囲まれ、自分の思い描いたとおりに鉄が姿を変えていく。


 なんて楽しいんだろう。


 体の奥底から、喜びや安心が入り混じった感情が湧き上がってくる。もっともっと打っていたい。もっともっと鍛冶をしたい。もっと師匠と鍛冶をしたい。


 気付けば鍛冶は終わっていた。


 「よくやったな、初めてで成功とは」


 「成功……ですか?」


 「ああ、成功だ」


 「本当にですか?」


 「嘘をつく必要は、ないだろう?」


 仕上げを変わってしてくれていた師匠が、不意に私に成功を告げた。あまりにあっけなく言うものだから、つい聞き返してしまう。師匠は気を悪くした様子もなく、ニヒルな笑いを浮かべながら私に答えを返す。


 やった……やった……やったやったやった……っ!


 「いやったああ!!」


 嬉しくて嬉しくて、感情が爆発して自分を制御できない。気付けば師匠の顔が横にあって、太い腕が腰に回る。そのことを理解もせずに、ひたすらに感情のままにうごいてしまう。


 「やりました! やりました師匠!!」


 「よくやったな」


 師匠の落ち着いた声が私の耳元で響く。


 耳元?


 「すっ……すみません!すぐに降ります!」


 まさか嬉しすぎて師匠に抱きついてしまうとは、あまりに子供っぽい自分に自己嫌悪してしまう。色々を言い訳をしている私を、師匠が優しい目で見守ってくれている。


 今日は、いい夢が見られそうだ。

砂糖吐きそうなMr. Suicideは愛・地球博を応援します


あと結婚してないから安心して

僕はいつまでも皆のMisterだから

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