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リアローフオンライン  作者: Mr. Suicide
第四章 異常な鍛冶師
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普通の祭り

 視界の全てが人、ひと、ヒト。普段も人が多い広場、それに輪をかけるように、多くの人々が行き交っている。このゲームは、景色がとてもきれいなことで有名で、中にはこの景色の中を旅するだけのプレイヤーも居るほどで。時には現実では定年退職し、気軽に旅行気分を楽しむために、リアローフオンラインの大地を踏みしめる人も居る。特にこの自由国家は、そのヴェネツィアを模した美麗な町並みから一、二を争う人気のある観光都市にもなっている。自由国家の中央に位置する広場は、この国の象徴として、ゲームのパンフレットの表紙を度々飾るほど壮観なものだ。

 今日は数ヶ月をかけて、シュタインさんやエリーゼさんが準備をした、スミスフェスティバルが開かれている。朝早くは、まだ人がまばらだったが、オープニングを行う頃には広場は多くのプレイヤーでごった返していた。開会式の始まる30分前になっても、なかなか人足が増えずに参加者皆でやきもきしたが、単に自由国家に来ようとする人が多すぎて、転送施設がパンクしただけだった。

 そんな理由で無事開催されたスミスフェスティバルは、独特な熱気をまとったお祭りとなった。行き交う人々は、各国の特色を持った装備や、武器を手にしていて、そんな人達を師匠は興味津々と言った様子で見ている。もちろん、師匠の打つ装備には及ばない装備が多い中、キラリと光る何かを感じさせる装備がちらほら見られる。しかし、普段は工房や、自分の国にこもりっきりの生産職のプレイヤーもかなりの人数訪れており、そんな人達の熱い眼差しが、このお祭りの独特な雰囲気を作っているのだろう。

 私達は、祭りの参加者の中でも一際大きなスペースを割り振られた。師匠はこんなにいらないだろうとこぼしていたが、私はこのスペースでも足りないのではないかと進言したが、これ以上のスペースを用意すると他の参加者で落選するプレイヤーが出るということで却下された。が、私の想像は間違っていなかったようで、開会式が終わってものの数分で長蛇の列ができてしまった。それこそ大慌てで列の整理や、整理券を作り始めている運営陣を見ながら、ほれみたことかと思って見ていたら、師匠が私の頭を軽く撫でた。


 「仕事だ」


 いけないいけない、と頭を切り替える。入れ替わり立ち代り露天の方へと押し寄せているお客さんを接客していく。自分の後ろでデモンストレーションが始まった。その瞬間空気が変わった。いつも以上に集中した様子の師匠が、仮設されたホドの前に座り、熱せられた鉄を一叩きした瞬間、甲高い鉄を叩く音が驚くほどによく響く。私は聞き慣れた音が響いたその時、まるで波紋が広がるように静寂が伝播していく。今さっきまでの喧騒がまるで嘘のように静まり返り、遠くのテントから聞こえてくる声がうっすらと聞こえるだけの静寂。今、ここに居る全員が、師匠を食い入る様に見つめている。

 商人も小声で商談を進めながら、やはり師匠の方に気が行っているようで、中には列に並ぶのを辞めて師匠の手元を見ようとかけていく人も見える。生産職であろうと戦闘職であろうと、今はなんの垣根もなく、皆一様に師匠の技に、迫力に圧倒されている。今まで自分や限定された人しか見ることができないのが、口惜しく思っていたし、もっと知ってほしいと思っていたのに。今こうして、その思いが実現して見ると、なんだか寂しいような、苛立たしいような。複雑な気持ちで接客を続けていると、師匠の周りから感嘆の声があがる。打ち上がった剣を仕上げて、徐ろに客に渡す。その剣を皆が回し見ていき、口々に賞賛する。皆、笑顔だ。


 「がんばろう……」


 しばらく経つと普段と違う環境や、お客さんの多さにも慣れてくる。精神的にも余裕ができて、徐々に調子が上がってくる。その時、もう何度目になるか、剣が打ち上がったようだ。師匠が休憩を取っていないことに気付き、慌てて師匠に駆け寄っていく。流石に17本も打っているのだから、いい加減休まなければ師匠も辛いだろう。


 「師匠、休憩しましょう」


 ギルドの職員に、休むことを告げている師匠を横目に、また接客へと戻る。気が付くと、師匠の近くに女性が陣取り、いろいろと鍛冶について話を聞いているようだ。女性はずいぶんと興奮した様子で、師匠もそれをどう受け止めているのか、優しい笑みを浮かべて、言葉は少ないが的確に、質問に答えていく。普段自分がしているようなことと一緒だし、師匠は優しいから誰にでも同じように反応するし、しかも同じく鍛冶の道を志す人間ならなおさらだし。だから私は全く気にしてないし、この妙な気分は決して、その、嫉妬ではない。


 断じてない。


 「楽しそうですね」


 思わず拗ねた子供のような声を出してしまった。その言葉を聞いた師匠は、少し困ったような顔をした。


 「すまんな、店番を代わろう。他の鍛冶師と話してみろ、きっと発見がある」


 「え……っ!」


 まさか自分に、話しの矛先を向けてくるとは思わなかった。話していた女性は遠慮がちに、こちらに視線を投げかけてくる。その瞳には、どことない羞恥心と、期待が含まれているような気がする。


 「あの、私……その……」


 「はっ、はい」


 女性は顔を真赤に染めながら、一生懸命に言葉を探している様子だ。たっぷり時間をかけて決心した用で、次の言葉を紡ぐために、ゆっくりと深呼吸をしている。なんとなくその姿が、師匠に弟子入りを志願した自分の姿と重なった。


 「わっわ私、あっアリスさんが憧れの人で!それで!鍛冶を始めたんです!!」


 「へっ……?」


 「あのっ、私が初心者の時に!は、初めて買ったのがあっあああアリスさんの打ったロングソードで!それで!そのっ!」


 「おっ落ち着いて!だっだだ大丈夫だから!!」


 落ち着いてと言いながら、私自身も予想外のことを言われて、大いに焦ってしまった。二人して大慌てしながら、女性の話を聞いていく。なんでも初心者の頃に、右も左も分からない中ゲームをしていたそうだ。強くないながらも、一生懸命ゲームを楽しんでいたそうだが、一部の心ないプレイヤーに罵倒にされ、こういったゲームも初めてだったから酷く落ち込んだそうだ。そんな時にせめて装備だけでもと立ち寄った、シュタイン商店でたまたま私の打ったロングソードを買ったらしい。今まで使ってきた武器が、本当に同じ武器なのかという程に使いやすかったらしい。それからは、私が打つ剣を進んで買って、順調にゲームを楽しむ中で、自分の武器を作った人に会ってみたくなったらしい。そして、私が打つ姿に感動してくれた。師匠に、この武器を打った人に会いたいと告げた時、師匠は嬉しそうに鍛冶場に案内して、私が打っている姿を見せたのだ。一心不乱に鎚を振るう私の姿を見て、直ぐ様自分のハウスに戻り鍛冶の道に飛び込んだらしい。

 夢の様な事だった。ついさっきまで、機嫌が悪かったのが嘘のように、今はとても素晴らしい気分だ。熱いものが胸にせり上がってくる。その後も色々なことを話したり、アドバイスしたり、有意義な時間を過ごすことができた。


 「どうだった」


 「とても、勉強になりました!……あと、懐かしかったです、昔の自分みたいで」


 本当に、いい時間になった。誰かに教えるという、今までに経験したことのない事を体験することができた。そしてなにより、自分が作ったもので、誰かを感動させることができた。自分の頑張りを見てくれる人が、自分の作品を待ち望んでくれている人が、この世界に居る。それがただただ、嬉しかった。


 「独り立ちの時期かもしれんな……さあ鍛冶の続きだ」


 師匠の何気なくつぶやいた一言が、私の心の深くに落ち込んだ。

うん、8時363分だね。

間に合った、間に合った。

間に合ったね。



ね!!!


追伸

サブタイ間違えてた、変更しました。

弟子→祭り に変更。

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