笑顔の思い出
「なあ、みんな。今度の休み、遊園地に行かないか?」
俺の提案に、京子たちが顔を見合わせた。
「遊園地? 急にどうしたの?」
京子が不思議そうに尋ねる。
「最近、いろいろあっただろ。これから先も、簡単にはいかないと思う。だからこそ、一度みんなで息抜きしたいんだ」
警告の手紙が届いてから、俺たちの周囲には緊張が続いていた。仲間を守るための準備も必要だし、異世界への研究を諦めるつもりもない。
だけど、ずっと張り詰めたままでは、いつか心が疲れてしまう。
「たまには何も考えずに楽しもう。みんなでさ」
「いいわね! 私、遊園地なんて久しぶり!」
京子が笑顔で答える。
「拙者も、皆と出かけるのは賛成でござる!」
「私も行きたい!」
美穂も勢いよく手を挙げた。
「私も楽しみ。美穂ちゃんと一緒に回りたいな」
佳苗も嬉しそうに微笑んだ。
徹は、以前のメッセージのとおり、当分は合流できないらしい。今回は五人で出かけることになった。
当日、遊園地に到着すると、美穂は入口から大はしゃぎだった。
「わあっ! すごい! あっちにも乗り物があるよ!」
「美穂ちゃん、走ると危ないよ」
佳苗が美穂の手を握る。
「だって、早く遊びたいんだもん!」
「ふふっ。じゃあ、まずはどこに行こうか?」
「メリーゴーランド!」
美穂は迷わず答えた。
俺たちは最初にメリーゴーランドへ向かった。
馬にまたがった美穂は、回り始めると満面の笑みを浮かべた。隣の馬に乗った佳苗も、いつもより少しだけはしゃいでいる。
「佳苗ちゃん、楽しいね!」
「うん! 美穂ちゃんと一緒だと、もっと楽しいね」
二人の笑顔を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。
京子も楽しそうに手を振っていた。
次はジェットコースターに向かうことになった。
ところが、目の前にそびえるレールを見上げた瞬間、俺は足を止めた。
「……なあ、別の乗り物にしないか?」
「え? 知也、怖いんでしょ?」
京子がニヤニヤしながら俺を見る。
「べ、別に怖くなんかないぞ!」
「じゃあ乗れるわよね?」
「当たり前だ!」
しまった。つい意地を張ってしまった。
結局、俺と京子、佳苗の三人で乗ることになった。
発車してすぐに急上昇が始まり、頂上に到着したと思った次の瞬間、車体が一気に落下した。
「うわあああああっ!」
自分でも驚くほどの声が出た。
隣では京子が笑っている。佳苗も楽しそうに声を上げていた。
その後も急旋回や急降下が続き、俺は最後まで叫びっぱなしだった。
ようやく地上に戻ると、足に力が入らない。
「知也さん、かなり叫んでたね」
佳苗が笑いをこらえながら言った。
「そ、そんなに叫んでないだろ!」
「ふふっ。聞こえてたわよ」
京子まで笑い出した。
「もう二度と乗らない……」
「怖かったのね?」
「違う! あれは声を出して楽しむ乗り物なんだ!」
「はいはい」
京子は楽しそうに笑っていた。
そういえば、健三と美穂はどこに行ったのだろう。
俺たちは二人を迎えに、お土産コーナーへ向かった。
店内に入ると、すぐに二人の声が聞こえてきた。
「おおおっ! こ、これはルルリちゃんではござらんか!」
「わああっ! 本当だ! ルルリちゃんだよ、健三さん!」
嫌な予感がした。
商品棚の前では、健三と美穂が並んで大興奮していた。
「美穂殿、この衣装の細部をご覧くだされ! 実に見事な再現度でござる!」
「本当だ! こっちのキーホルダーも可愛い!」
「おおっ! それも見逃せませんな!」
「ねえねえ、こっちにはぬいぐるみもあるよ!」
「なんと! これは素晴らしい!」
二人はすっかり意気投合している。
「……ねえ、知也。あの二人、いつからあんなに仲良くなったの?」
京子が呆れたように尋ねてきた。
「さあな。でも、共通の趣味があるのはいいことじゃないか?」
「そういう問題かしら……」
京子は大きなため息をついた。
「健三! そろそろ行くぞ!」
俺が声をかけると、健三が勢いよく振り返った。
「ま、待たれよ! 知也殿! まだ見ていない商品があるのでござる!」
「さっきから十分見ただろ!」
「これだけは譲れませぬ! この限定ルルリちゃんを、拙者の目で確かめねば!」
「健三さん、また今度ゆっくり見ようね!」
「美穂殿まで、そのようなことを……!」
「ほら、行くわよ!」
京子が健三の腕をつかんだ。
「おおっ! 京子殿、せめてあと少しだけ!」
「駄目よ。みんな待ってるんだから!」
「ルルリちゃーん! 必ず迎えに来るでござるぞー!」
健三は何度も商品棚を振り返りながら、京子に引っ張られていった。
「健三、別れを惜しむ相手が商品ってどうなのよ……」
京子の呆れた声に、俺も苦笑するしかなかった。
次は観覧車に向かうことになった。
ところが、乗り場の前まで来ると、健三が急に足を止めた。
「拙者は高いところが少々苦手でござる。四人で楽しんできてくだされ」
「えっ、健三さん乗らないの?」
美穂が尋ねる。
「うむ。皆が楽しんでいる間、拙者はここで待っておりますぞ」
「じゃあ、行ってくるね!」
美穂は佳苗と手をつなぎ、俺と京子も一緒に観覧車へ乗り込んだ。
ゆっくりと上昇していくゴンドラからは、遊園地の景色が広がっていく。
「わあっ! あんなところまで見えるよ!」
美穂は窓の外に夢中だった。
「本当だね。あっちにはさっき乗ったジェットコースターも見えるよ」
佳苗も楽しそうに景色を眺めている。
「こうして見ると、遊園地って広いのね」
京子も窓の外を見ながら微笑んだ。
俺たちは景色を楽しみながら、ゆっくりと一周した。
観覧車から降りると、待っていた健三の姿が見えた。
「おかえりなさい!」
美穂が駆け寄る。
「ただいま戻りましたぞ!」
健三の両手には、いつの間にかお土産の袋が増えていた。
「……健三、また買ったの?」
京子が袋を見て呆れた声を出す。
「いや、その……。先ほどは時間が足りなかったゆえ、少々確認をしておりましてな」
「確認って、何を?」
「ルルリちゃんの魅力をでござる!」
「もう、健三ったら!」
京子が呆れる一方で、美穂は袋の中を覗き込んでいた。
「わあっ! こんなに買ったの?」
「美穂殿、こちらをご覧くだされ!」
健三が袋から取り出したのは、ルルリちゃんのぬいぐるみだった。
「美穂殿に進呈いたす。今日の記念でござる!」
「えっ! 私に?」
「うむ。気に入っていただければ幸いでござる」
「わああっ! ありがとう、健三さん! すっごく可愛い!」
美穂はぬいぐるみを抱きしめた。
「健三さんって、やっぱり優しいね!」
「おおっ! そう言っていただけるとは、拙者も嬉しいでござる!」
「おい! さっきまで呆れてたのは誰だよ!」
俺が突っ込むと、美穂は何事もなかったように笑った。
「うんうん、そういう時ってあるよね!」
「おい! さっきまでの話はどうなったんだよ!」
京子も佳苗も笑い出した。
その後、少し休憩してから園内を歩いていると、徹のことが話題になった。
「徹さんも来れたらよかったのにね」
美穂が少し残念そうに言った。
「そうね」
京子も頷いた。
「次はきっと来るさ。そしたら美穂がちゃんとエスコートしてやれよ? アイツきっと遊園地苦手だから」
「うん、私に任せて! たーっぷり楽しませてあげるから!」
「美穂殿に任せたら、拙者も安心ですな」
「うんうん、そうだね」
佳苗も笑顔で頷いた。
そのとき、美穂が園内のキャラクターを見つけた。
「あっ! ルルリちゃんだ!」
大きな着ぐるみのルルリちゃんが、子どもたちに囲まれて手を振っている。
「健三さん、佳苗ちゃん! 一緒に写真撮ろうよ!」
「おおっ! それはぜひお願いしたいでござる!」
「うん、行こう!」
三人はルルリちゃんのところへ駆けていった。
俺と京子は、近くのベンチに腰を下ろした。
「今日はありがとね。楽しかった」
京子が俺に微笑みかける。
「おおっ! でもな、まだパレードもあるぞ」
「ええ、そうね」
しばらくすると、近くを通りかかった遊園地のスタッフが目に入った。
「あの、すみません!」
京子がスタッフを呼び止める。
「よろしければ、写真を撮っていただけませんか?」
京子は自分のスマホをスタッフに手渡した。
「さあ、知也撮るわよ。笑って」
「おうっ!」
京子は俺の腕を取ると、ぴったりと寄り添った。
スタッフがカメラを構え、シャッターを切る。
「ありがとうございます!」
スマホを受け取った京子は、画面を確認した。
「うん、いい写真!」
「やっぱり、俺という存在が写真のクオリティを上げるんだな」
俺は腕を組みながら、うんうんと頭を上下させた。
「ぷっ、何を言ってるのかしら? ここはモデルの私がいるからでしょ?」
「それだと俺の手柄がないじゃん」
京子は声を出して笑った。
「おかしな知也ね」
京子はもう一度スマホの画面を眺めていた。
画面には、俺の腕に寄り添って笑う京子が写っている。京子はその写真を、しばらく嬉しそうに見つめていた。
やがて健三たちも戻ってきて、俺たちはパレードを見るために場所を移した。
音楽が流れ始めると、色鮮やかな衣装をまとったキャラクターたちが、笑顔で手を振りながら進んでくる。
「わああっ! ルルリちゃん!」
美穂は大きく手を振った。
「おおおっ! ルルリちゃーん!」
健三も負けじと手を振っている。
「健三さん、すごい声!」
「美穂殿も負けておりませんぞ!」
二人は顔を見合わせて笑った。
佳苗も楽しそうに手を振り、京子はそんな二人を見ながら微笑んでいた。
俺は少し後ろから、みんなの様子を眺めていた。
パレードが終わると、あっという間に帰る時間になってしまった。
「もう終わりなの? まだ遊びたい!」
美穂が名残惜しそうに言った。
「また来ればいいじゃないか」
「絶対また来ようね!」
美穂はみんなの顔を見回した。
「そうね。今度は徹さんも一緒に来られるといいわね」
京子が笑顔で言う。
「拙者も異存はござらん!」
「私もまた来たいな」
佳苗も頷いた。
「よし、次もみんなで来よう。約束だぞ!」
俺たちは笑顔で頷き合った。
美穂の満面の笑顔。佳苗の優しい表情。ルルリちゃんに夢中になっていた健三。京子と一緒に撮った写真。
今日一日、みんなと過ごした時間が、心の中に残っている。
これから先、また大変なことが待っているかもしれない。俺たちには、まだやるべき研究もある。
それでも、こんな時間を何度でも過ごしたいと思った。
異世界もきっと楽しいだろう。だけど、今日のことは一生忘れないだろうな
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