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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
99/150

第99話「海外訪問」

三月になった。

国王が、ルシアンに海外訪問を命じた。

セルディア、ガルデニア、カルセン——三カ国を順番に回る、長い外交訪問だった。

合計で二ヶ月近くかかる行程だ。

「エレナを探す時間を、完全に奪うつもりか」

ルシアンは静かに言った。

「外交上、必要な訪問だ」

国王が答えた。

「ガルデニアとの関係修復、カルセンとの通商条約の確認、セルディアへの——」

「セルディアへの返答が目的か」

「そこで、婚約について正式に話し合いを」

「断ると言った」

「ルシアン——」

「変わらない」

国王が、少し疲れた顔をした。

「お前は、エレナへの気持ちをまだ持ち続けているのか」

「持ち続ける」

「彼女は——自分から去った」

「兄上が説得したからだ」

「彼女が選んだことだ」

「兄上に選ばせられたことだ」

静かな、しかし確かな言葉だった。

国王はしばらく黙っていた。

「……お前は、この外交訪問を断れない。国の問題だ」

「分かっている。行く」

「セルディアでは——」

「婚約は断る。それだけは変わらない」

ルシアンは出発の準備をした。

リーナがこっそりとルシアンに言った。

「殿下、エレナさんを探していただけますか。手紙でもいいので、今どこにいるか」

「探している。ただ——今は行先が分からない」

「エレナさんは、川のそばを選びます。静かな場所を選びます」

「知っている」

「……絶対に見つけてください」

ルシアンは頷いた。

出発の朝、ルシアンは庭に立ち寄った。

黒薔薇の株を見た。

春が近かった。蕾がつき始めていた。

「……咲くのを、見せてやれなくて、すまない」

誰にともなく言った。

エレナに向かって、言った。

それから、馬車に乗った。

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