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第97話「朝の空白」
朝、アグネスがエレナの部屋を訪ねた。
書類の確認があったからだ。
扉を叩いた。返事がない。
扉を開けると、部屋は片付いていた。
荷物がなかった。
机の上に、一枚の手紙があった。
アグネスはその手紙を見た。宛名は「ルシアン様へ」とあった。
アグネスは手紙を手に取り、廊下に出た。
執務室に向かった。
ルシアンはすでに仕事を始めていた。
「殿下」
「何だ」
「エレナさんが——また、いなくなりました」
ルシアンの手が止まった。
「……手紙があります」
アグネスが差し出した。
ルシアンは手紙を受け取った。
開いた。
読んだ。
二度、三度——読んだ。
部屋に沈黙が落ちた。
「……探します」
ルシアンが立ち上がろうとした。
アグネスが言った。
「殿下」
「何だ」
「今回は——」
アグネスが少し間を置いた。
「今回は、陛下が関与しています」
ルシアンの目が、鋭くなった。
「……また兄上が」
「王妃様も同席されていたと聞いています。エレナさんは、説得されたのだと思います」
ルシアンは手紙を見た。
忘れてください——その言葉が、目に刺さった。
「忘れない」
低い声で言った。
「殿下——」
「忘れない。絶対に」




