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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
88/150

第88話「答え」

川の音が、静かに続いていた。

ルシアンが、エレナを見上げたまま待っていた。

エレナは、その顔を見た。

床に膝をついて、自分を見上げている男。王弟が、平民の前に膝をついている。それがどれほど——この男にとって、大きなことか。

エレナは少し間を置いた。

「……私は」

「ああ」

「重荷になるかもしれません」

「ならない」

「なるかもしれない、という話をしています」

「聞いている」

「あなたの選択が、国に影響することもある」

「知っている」

「それでも、と言いますか」

「それでも、と言う」

エレナは、ルシアンを見た。

この男は——変わった。コルヴィン村で初めて会ったとき、感情のない彫像のようだった男が。今は——床に膝をついて、エレナを見上げている。

その変化の全部が、この一年半の記憶と重なった。

「……一つだけ、条件があります」

ルシアンが少し目を細めた。

「言え」

「もう、一人で決めないこと。遠ざけないこと。どんな問題が来ても——一緒に考えること」

「……それだけか」

「それだけです」

ルシアンが、立ち上がった。

エレナの両手を取った。

「約束する」

「本当ですか」

「お前が証人だ」

エレナの目に、涙が浮かんだ。

「……泣くな」

「嬉しいので」

「毎回——」

「毎回本当のことを言っています」

ルシアンがエレナを引き寄せた。

「答えを聞いていない」

「……生きます」

エレナは言った。

「あなたと——生きます」

ルシアンの腕が、エレナをしっかりと包んだ。

川の音が続いていた。冬の、静かな川の音。

この瞬間を、エレナは生涯忘れないだろうと思った。

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