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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
70/150

第70話「冬の光」

十二月になった。

二人の間に、以前の空気が戻ってきた。いや、以前よりも——少し違う空気になった。

すれ違いを経たからか、二人の言葉が少し変わった。

ルシアンが、以前より早く「疲れた」と言うようになった。エレナが、以前より素直に「助けてほしい」と言うようになった。

小さな変化だったが、エレナにはそれが大きかった。

「今年も色々ありましたね」

執務室で、エレナが言った。

「ああ」

「来年はもう少し、穏やかだといいんですが」

「穏やかにはならないかもしれない」

「それは、どうして」

ルシアンが少し間を置いた。

「来年は——お前に、もう一つ変化が来るかもしれない」

「何ですか」

「まだ言えない。でも——覚悟しておけ」

「良い変化ですか」

「私はそう思っている」

「では、楽しみに待ちます」

ルシアンがエレナを見た。

「怖くないのか、分からないまま待つのが」

「あなたが言うんだから、大丈夫です」

「根拠がない」

「あなたへの信頼が根拠です」

ルシアンが少し間を置いた。

「……お前は、私を信じすぎている」

「信じる量は、自分で決めます」

「裏切ったら、どうする」

「裏切らないと知っているので、考えていません」

ルシアンが、エレナを見た。長い沈黙。

それから、静かに言った。

「裏切らない」

「知っています」

「……約束する」

「知っています」

「同じことを言うな」

「同じことだから、同じことを言っています」

ルシアンが、低く笑った。

冬の光が窓から差し込んで、執務室を温かく照らした。

庭の黒薔薇は、冬を越えようとしていた。枯れてはいない。ただ、静かに春を待っている。

光を知った花は、冬も越えられる。

エレナはそう思いながら、ルシアンの隣で書類を整理した。

来年、何が来ても——一緒に向かう。

それだけで、十分だった。

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