第70話「冬の光」
十二月になった。
二人の間に、以前の空気が戻ってきた。いや、以前よりも——少し違う空気になった。
すれ違いを経たからか、二人の言葉が少し変わった。
ルシアンが、以前より早く「疲れた」と言うようになった。エレナが、以前より素直に「助けてほしい」と言うようになった。
小さな変化だったが、エレナにはそれが大きかった。
「今年も色々ありましたね」
執務室で、エレナが言った。
「ああ」
「来年はもう少し、穏やかだといいんですが」
「穏やかにはならないかもしれない」
「それは、どうして」
ルシアンが少し間を置いた。
「来年は——お前に、もう一つ変化が来るかもしれない」
「何ですか」
「まだ言えない。でも——覚悟しておけ」
「良い変化ですか」
「私はそう思っている」
「では、楽しみに待ちます」
ルシアンがエレナを見た。
「怖くないのか、分からないまま待つのが」
「あなたが言うんだから、大丈夫です」
「根拠がない」
「あなたへの信頼が根拠です」
ルシアンが少し間を置いた。
「……お前は、私を信じすぎている」
「信じる量は、自分で決めます」
「裏切ったら、どうする」
「裏切らないと知っているので、考えていません」
ルシアンが、エレナを見た。長い沈黙。
それから、静かに言った。
「裏切らない」
「知っています」
「……約束する」
「知っています」
「同じことを言うな」
「同じことだから、同じことを言っています」
ルシアンが、低く笑った。
冬の光が窓から差し込んで、執務室を温かく照らした。
庭の黒薔薇は、冬を越えようとしていた。枯れてはいない。ただ、静かに春を待っている。
光を知った花は、冬も越えられる。
エレナはそう思いながら、ルシアンの隣で書類を整理した。
来年、何が来ても——一緒に向かう。
それだけで、十分だった。




