第51話「新たな使節」
五月の半ば、王宮に新しい使節団が来た。
今度は東方の国、カルセン共和国からだった。ヴァルドラ王国とは長く友好関係にあるが、近年は通商条件の見直しを求めてきていた。
エレナはその使節団の対応補佐として、初めてルシアンの正式な業務に同席した。
大広間の一角に設けられた応接室。ルシアンが正面に座り、エレナはその斜め後ろに控えた。
使節団は五人。代表は四十代の女性で、カルセンの外交官としては異例の——女性の団長だった。
「ヴァルトン・ミラ代表です」
女性が流暢なヴァルドラ語で言った。
「ルシアン・ヴァルドラです。こちらは補佐のエレナ・コール」
ルシアンがエレナを紹介した。
ミラがエレナを見た。興味深そうな目だった。
「噂は聞いています。王室特別称号を受けた方、ですね」
「はい」
「カルセンでも話題になりました。ヴァルドラで平民出身の女性が王室に迎えられた、と」
エレナは少し驚いた。
「遠い国まで」
「良い話は、遠くまで届きます。カルセンは女性の社会参加が進んでいる国ですから——あなたのような方の話は、特に注目されます」
会談が始まった。
通商条件の見直し、国境付近の取引規定、文化交流の拡大——複数の議題が並んでいた。
エレナは記録を取りながら、同時に議論の流れを追った。ルシアンの言葉が、時に短すぎて意図が伝わりにくいと感じたとき、エレナは補足した。
「殿下がおっしゃっているのは、通商量の上限を撤廃する代わりに、品質基準を統一するという提案です」
ミラがエレナを見た。
「補足が的確ですね」
「書類を整理しているので、内容を把握しています」
ミラが少し笑った。
「いいチームです」
会談が終わって、使節団が退出した後、ルシアンがエレナを見た。
「補足は余計だったか」
「出しゃばりすぎましたか」
「いいや。助かった。私は説明が不足することがある」
「知っています」
「知っていたのか」
「書類を見ていれば分かります。文章は的確なんですが、口頭だと短くなる傾向があります」
ルシアンが少し間を置いた。
「……直した方がいいか」
「私が補足するので、大丈夫です」
「一生補足するつもりか」
「できれば」
ルシアンが、低く笑った。




