第43話「糸が繋がる」
ガロン・ベックは、思いがけなく正直だった。
「私は商人です。誰とでも取引する。それは私の仕事です」
お茶を一口飲んでから、ガロンが言った。
「ガルデニアとの取引も、公爵との取引も——ビジネスです。特別なことは何もない」
「先ほど公爵の側近と会っていましたね」
「見ていたんですか」
「市場に来れば、誰でも見えます」
ガロンが少し笑った。
「鋭い。……実は、最近少し困っているんですよ」
「何がですか」
「公爵から持ちかけられた話が、どうも——最初に聞いた内容と変わってきていて」
エレナは耳を立てた。
「最初は、通商条約の改定に協力してほしいという話でした。私が王都の商人組合に影響力があるので、そこを通じて国王陛下に働きかけてほしいと。対価として、ガルデニアとの独占取引権を与えるという条件で」
「それが、変わった?」
「今は——ルシアン殿下を失脚させることに協力しろ、と言ってくる。それは通商条約とは別の話です。私は商人ですから、政治的な争いに巻き込まれるのは本意ではない」
エレナはしばらく考えた。
「ガルデニアが関与していますか」
ガロンが少し間を置いた。
「……ガルデニアの商人組合から、同様の打診が来ています。公爵と歩調を合わせるよう、ということで」
「つまり、ガルデニアと公爵は連携している」
「そう見えます」
エレナは頷いた。
「一つお願いがあります。今日の話を、文書にしていただけますか。署名付きで」
ガロンが驚いた顔をした。
「それは……私が証言者になるということですか」
「そうなります。危険かもしれません。でも——公爵があなたに要求してきていることも、今後さらにエスカレートする可能性があります。早めに切り離す方が、長い目で見れば安全です」
ガロンはしばらく考えた。
「……殿下は、商人の味方ですか」
「少なくとも、公爵よりは」
エレナは真剣な目で言った。
「あなたの証言が、国を正しい方向に向けると思います」
長い沈黙の後、ガロンは紙と羽ペンを取り出した。
その日の夕方、エレナはルシアンに報告した。
ガロンの署名入り証言書を差し出すと、ルシアンが静かにそれを読んだ。
「……よくやった」
「少し強引でしたが」
「強引でなければ取れなかった。これで、ガルデニアの関与が証明できる」
「後はどうなりますか」
「国王に報告する。外国が絡んでいる以上、国王が直接動く」
ルシアンはエレナを見た。その目に、温かいものがあった。
「お前は——侍女の仕事を超えたことをする」
「問題ですか」
「問題ではない。ただ——」
「ただ?」
「もっと安全な場所に、置いてやりたい」
エレナは少し笑った。
「今の場所で十分です」




