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『魔法学院のオトコの娘』 ~女子しか魔法を使えない世界でどうしてぼくが魔法学院に!?~  作者: 十草 九斗


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5.杖とコーヒー

 ということことで、一時間後

 ぼくとはエレネさんと聖都エステリオンの中央通りに立っている。昨日も通ったばかりだけど、街についたときには日が傾いていたし、すぐに渡し船に乗ったからゆっくりと街をみる時間はなかった。


「すごい綺麗!!」

 おもわず声が漏れてしまうくらいに、その町並みは洗練されていた。白を基調にした建物が整然と並んでいて街自体から神々しさを感じるようだ。さすがはエステル教の総本山…

「ここは人魔大戦の末期に造られた計画都市なのよ」

「へぇ。そうなんですね」

 エレネさんの話も耳半分に、ぼくの目はキョロキョロとあたりを見渡してしまう。いかにもお上りさんといった具合だろう。

「……その子、連れて来たのね」

 ぼくのカバンから顔を出すシュバルツを見て、エレネさんがボソッとつぶやいた。

「あはは、、いろいろと事情がありまして…」

 置いていこうとしたけどゴネられてしまった。ぼくが自由に買い物をするためには、このぬいぐるみとの交渉が肝になることだろう。

「リアの財布のヒモはオレが握ってるのさ!」

「…そんなことがあるの…」

  満足げなシュバルツとは対照的にいまだ警戒気味なエレネさん。こんな珍妙な生物をみたらそれが当然の反応だとは思う。

「まずは…そうね、杖を買うのがいいと思うの」

「エレネさんはもう持ってましたね」

「杖はプリエスタの命よ。いいお店を知ってるの」


 エレネさんに連れられてやってきたのは 、大通りから一つ奥に入ったところにある宝石店だった。

 ショーウィンドウにはキラキラと光る色とりどりの装飾品がこれ見よがしに並んでいる。小さな石一つで僕の一年分の生活費よりも値が張るのだろう。そんなきらびやかな内装とは対照に、ドアの上には古びた金属の看板に、小さく「鍛冶屋シュミット」と文字が刻まれているだけだった。

「大戦中から店を持つ老舗なのよ。ヴァルカン鋼加工の専門で、昔はヴァルカンソードをつくっていたそうよ」

「へえ、それで鍛冶屋なんですね」

「杖を買った時に店長さんが教えてくれたの」

 宝石店には何度か入ったことがある、しかし合法的なものはこれが初めてで…やや罪悪感を覚えながらリアさんに続いて小さい戸をくぐった。店の中は思ったよりも地味で、宝石店というよりかは雑貨屋の雰囲気に近いかもしれない。すぐに店主と思われる初老の紳士が奥の方からでてきた。

「これは、これは、シュリスの学生さんですな?」

「こ、こんにちは」

「おや、そちらのお嬢さんとは先日もお会いしましたかな?」

「ええ、この杖はとても馴染みがいいわ。今日はこの子のを探しに来たの」

「かしこまりました。すぐにご案内します」

 そういって今度はぼくの方に向きなおす店主さん。

「杖の選定にはしばらく時間がかかると思うの。その間に私は自分の買い物をしてくるわ」

「それではお客様、こちらへどうぞ」


「改めまして、わたくしはこの店の主をしております、エダート・スミスと申します。リア様、でよろしかったですかな?」

「は、はい!」

「ではリア様、プリエスタの杖についてはご存じですか」

「あんまり、というか何も…」

「構いませんよ、それでしたら順を追って説明いたしましょう」

「ありがとうございます」

 こうしてスミス老による講義が始まったのだったが…


「ということで、この結晶によってプリエスタの魔力は増幅され、ヴァルカン鋼でできた杖を通して放出されるという仕組みなのです」

「た、大変勉強になりました……」

 たしかに、何も知らないと言ったのはぼくだったけど、小一時間かけて魔法の杖の歴史を語られてしまった。ちなみに半分くらいしか理解はできなかった。

「当店は古くからヴァルカン鋼の鍛錬を行ってきましたが、現在はマナタイトの加工から行っております。もしすでにマナタイトをお持ちでしたら、お好みの石で杖をお作りすることも出来ますが

…」

「えっと、これがその結晶ですか?」

 首から下げていたペンダントをスミスさんにみせてみる。ついているのはすべてのはじまりの石、あの日行商からくすねた透明のクリスタルだ。結局この石の代金は後日王女が支払い、王女から下賜される形で今もぼくの手元にある。

「おおぉ、見事な輝きです。いい石をお持ちですな」

「はは……ありがとうございます……」

「ふむ、ただそちらのマナタイト結晶は杖に使うには少し純度が高すぎるようですな」

「やはり、杖用の結晶でお作りしましょう。高純度のマナタイトは貴重ですから、是非大切になさってください」

「わ、わかりました」

 ショーケースに並ぶマナタイトの価格を眺めて少し背筋が凍りそうになる。これは……もしあの時シュラウスに見つからずに石を売ることが出来ていれば数年は暮らすことが出来たかもしれない……

「では、次はヴァルカン鋼の種類や杖の長さなどを決めていきましょう」

「お、おまかせで、お願いします……」

それから再びスミス老によるレクチャーが続き、杖を買う頃にはだいぶ疲れていた…

しかし、購入した杖を手に取ってみると、なかなか興奮してくる。本当に魔法使いになったような気がしてくるね。



「いい杖が買えたみたいね」

 ちょうどいいタイミングでエレネさんが買い物から戻ってきた。

「はい、とっても……親切な店長さんでした。」

「話は長かったけどナ」

 ぼくから財布を回収して再びモフモフの中にしまい込むシュバルツ。一体どういう仕組み!?

「察するわ……」

 きっとあの店主はエレネさんのときもたっぷりと講義をしてくれたのだろう。

「ところで、エレネさんは何を買ってきたんですか?」

「これ」

 エレネさんは手に持った袋の中から、何か箱のようなものを取り出した。取っ手がついているように見えるけど…

「なんですかこれは?」

「コーヒーミルよ。豆も買ったの、焙煎したてよ」

「エレネさんはコーヒーが好きなんですか?」

「これを飲まないと一日が始まらないわ。前に使ってたのはおいてきてしまったから。でもいい買い物ができたの。この街のお店はどこも品ぞろえが良くて…」

「喋りすぎたわ」

 少し恥ずかしそうにするエレネさんをみて思わず可笑しくなる。

「ふふっ」

「なにか変?」

「いえ、ただ、楽しそうだなって」

「そう見えるの?」

「そう見えます」

 きっとこの姿がエレネさんの本来なのだろう。初対面こそあんな風だったけど、これから少しずつ仲良くなれたらいいなと、そう思った。

「……なんだオマエら?」

「……次に行きましょう。あそこの角に書店があるから…」


 結局、リストを消化したころにはあたりはすっかり暗くなってしまっていた。

「すみません。遅くまで付き合ってもらって」

「いいの。それに…私も少し楽しかったわ。誰かとこうやって買い物するの初めてよ」

 そういって微笑む彼女の横顔が街灯の光の下に照らされる。笑った顔には子供らしい無邪気もあってとても可愛い。

(ぼくはいまなんて!?)

「帰ったらコーヒーを淹れるわ。リアさんも飲む?」

「い、いただきます!」

 部屋に戻った後、かつてなくウキウキした様子のリアさんに淹れてもらったコーヒーを飲んでみたのだけど、世の中の人はよくあんなに苦いものを飲めると思った。



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