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『魔法学院のオトコの娘』 ~女子しか魔法を使えない世界でどうしてぼくが魔法学院に!?~  作者: 十草 九斗


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4.赤い瞳の同居人

 空気がひんやりとしていてとても心地がいい。シュリス学院での初めての朝だ。すっかり日は登っていて、カーテンを開けるとまぶしい光が差し込んでくる。

「エレネさん?」

 ルームメイトに声をかけるが返事はない。つい、彼女の寝顔をじっと見てしまっていることに気づく。慌てて目線をそらすが、改めて、自分の置かれた状況の異常さに溜息をついてしまうのだった。

「起こさなくっても、後から文句を言わないでくださいよ?」

 先に朝食をとってしまおう。食堂は一階にあるんだっけ。

「誰にも会いませんように」

そんなことを祈りながら、そろぉっと廊下に出る。

自分が男だとばれたくないというのもあるが……なによりも気まずい。とんでもない罪を犯している気がする。

「バレたら、命がないかもね……」



 食堂にはあまり人はいなかった。いま学生寮にいるのは入学式を控えている新入生くらいで、上級生の多くはまだ休暇中らしい。

「ん~、おいしぃ!」

 宮廷の料理もおいしかったんだけど少し上品すぎるというか、正直アレンさんのクッキーの方が楽しみだった。学院のパンやスープは温かくて純粋に味がおいしい。森で拾ってきたものを煮込んだぼくのなんちゃってスープとはわけが違う。パンもカチコチのものと違って、スープでふやかさなくても食べることができる。

 これが毎日食べれるなんて……素晴らしい!!

「このパンは部屋に持って帰ろうかな」

 ぐっすりと寝ているエレネさんの寝顔を思い浮かべて少し不思議な気分になる。

「寝顔を見るのは犯罪じゃないよね…」

 部屋に戻った時に誰かがいてくれるというのは悪くない感覚だ。とはいってもまだ新たな同居人にどのように接していけばいいのかは全然わからないんだけど…

「最初はどうなることかと思ったけど……」

 昨日は、色々な意味でひやひやした。



~昨日~


「ここがぼくの部屋か…」

 これでようやく休むことができる……シュリス学院に着いてすぐ休めると思っていたが、間違いだった。広すぎでしょ、この学校…古風な建築がいくつも建ち並ぶシュリス学院はまるで迷宮のようだった。図書館に迷い込んだりしつつ、入学の関係やらの書類を確認してもらい、ようやく寮の部屋に案内してもらった。空はもうすっかり真っ暗になっている。

「思ったよりも広いね」

 部屋を見渡してそんな感想がこぼれる。寮というものをあまり知らないが、少なくとも町の宿屋よりも快適そうだ。まあ、王宮の部屋はとんでもなく豪華だったけど……

 中には質素なつくりのベッドが二台置かれている。んんん???

「ベッドが…二つある?」

 そういえば、一人部屋とは一言も言っていなかったような……

「嫌な予感がするね…」

 もしもその予感が正しければ、女装をバレずに過ごすのが随分と難しくなっちゃうけど…

 慌ててあたりを見渡してみるけど、生活感は感じられない。

 ただの杞憂だといいんだけど。

 

 さらに部屋の奥に進むと、とびらが見える。

確かめようと近づいた瞬間、その扉は内側から開けられて……

「えっ!?」

「……っっ!!!!」

 ぼくの脳が仕事を放棄している間に、赤髪の少女は怖い顔をして、棒みたいなものをこちらに向けている……

 そう思った瞬間、ぼくの視界は真っ赤な閃光に覆われる。

「ちょ、ちょっとまっ!?」

 ぼくの体は宙を舞い、次の瞬間にはベッドに叩きつけられていた。落ちた場所がフカフカだったのは幸運だった。そうでなかったならきっと大けがをしていた。しかし、体からはすっかり力が抜けていしまったようで、指先すらピクリとも動かない。


「で、出ていきなさい、侵入者!!」

 たった今、それができなくなってしまったのだけど……だめだ、もうまともに頭が働いていない。

 そして意識がそのままベッドの中へと沈んでいってしまった。



 瞼が開く。視界に入ってきたのは木の天井だ。長年過ごした森の小屋のような郷愁を感じるが、すぐにここがシュリス学院の寮であることを思い出す。

「気づいたの?」

「わっ!?」

 先ほどの少女が覗き込むようにぼくの様子を伺っている。一連の出来事を思い出して思わずのけぞってしまうけど、少女の方は臨戦態勢というわけでもなさそうだ。むしろ心配そうな顔をしている。

「まず謝罪をさせて。さっきはごめんなさい」

「え、えーと…」

「あんなに強くするつもりはなかったの。でも、部屋に戻ったら知らない人がいて、それでとても動揺したのよ」

 その割には迷いのない一撃だったような気もするけど…

「と、とにかく顔を上げてください。どこもケガなんてしてませんし。それに勝手に部屋に入っちゃったのはこっちですから」

「それでも……」

「あの、よろしければお名前を伺っても?」

「……それもそうね。私はエレネよ。エレネ・スカーレット」

エレネ・スカーレット。それがぼくの同居人の名前だった。



「あなたは、私のルームメイトということでいいの?」

「た、多分そうです。この部屋を案内されましたから」

 さっきのおねえさんも二人部屋だって初めに教えてくれればよかったのに……

「ぼ、わたしはリアって言います。エトバ王国から来ました」

「そう……」

「これからよろしくお願いするわ、リアさん」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

「ねえ、これだけは聞いておかないといけないの。……見た?」

 ぼくが目覚めてからは至って温和な雰囲気だったスカーレットさんだけど、今は視線にものすごい圧を感じる。

「え?見たって何を……」

「……」

 少しの沈黙が二人の間に流れる。

「あのぉ、スカーレットさん?」

「…私の体を見たのかを聞いているわ」

「そ、それは!?」

「正直に言って」

 こ、この人は何を思い出させようとしているのだ!?

「…見て、ません……」

 少なくとも大事なところは……少し思い出してしまったじゃないか。顔が熱くなるのを感じる。もしかしたら吹き飛ばされるのも当然だったかもしれない…

「…信じるわ」

 ぼくの邪心を知るよりもないエレネさんは、ひとまずは納得してくれたようだ。

「本当に良かったの。あなたを殺してなくて」

 殺すとか、物騒な言葉が聞こえた気がするが気のせいか?冗談を言っている 雰囲気でもないのが余計に怖いんだけど!?

「ほ、本当に見てませんからね!」

 まさか、ぼくが男だということに気づいている?それならこの反応もわかるけど…

 いや、それならそのことを追及されているはずだ。

(まだバレてない!)

 今はそう信じるほかなかった。



「この話はもういいの」

「それで、いつ切り出そうか迷っていたのだけど……」

 先ほどまでの真剣な眼差しとはうって変わって今度は困惑の色を浮かべている。

「あの珍妙な生き物は一体?」

「ふぁ~あ…」

「シュバルツ!? 何でここにいるのさ!」

 見れば、ぼくの癒しのぬいぐるみ? シュバルツがトランクの上で退屈そうに寝ころんでいた。

「あなたが寝ている間にこの子が出てきて…」

「どうしようかと思ったの」


「ちょっとこっちに来て!」

 ベットから飛び起きて、素早くシュバルツを抱える。そしてエレネさんには聞こえないような声でシュバルツを問い詰める。

「一体どういうことか説明してくれるよね!?」

「オレはリリーに頼まれただけダゾ? ちょくめいってやつダナ!」

「そんなこと、知らされて無かったよ?」

「オレはリアのお目付け役ってワケさ」

「えぇ……」

 それについては、ぼくのことを一応は信頼してくれるという話でまとまったと思ったんだけど。それに、シュバルツが僕のお目付け役?シュラウスはこのぬいぐるみのことを随分と高く買っているみたいだけど、あの王女がそんな任務を託すのだろうか。

「そうだ。ガッコウに着いたらリアに手紙を渡せって、リリーが言ってたぞ」

そういってシュバルツは体ごとトランクの中に入って、中のものをあさり始めた。

「ちょっと!散らかさないでよ。ぼ、わたしの荷物なんだから」

「お、あったあった。ホラ、これが手紙ダ!」

 わたされた手紙には百合の紋章の封蝋で閉じられている。中を開くと気品の感じられる字で次のように書かれていた。


 (無事にシュリス学院には着いたかしら?学院での生活にはいろいろと大変なこともあるでしょうけど、私からのサプライズプレゼントを気に入って貰えたなら嬉しいわ。貴方、あの毛並みを相当気に入っていたみたいだから。)


「そ、そんなことで…」


(ここからは真面目な話よ。これはシュラウスの考えでもあるのだけど、あの子はマナに対しての感度が非常に高いの。私たちはシュバルツとアーツには、なにか関係があると踏んでいるわ。だから、追加の任務としてあの子についても調べてもらえるかしら)

(追伸:これは経験則なのだけど、急に大金を持つと人は過ちを犯すものよ。だからあなたの財布の管理をシュバルツに一任するわ。お金が必要な時はあの子と交渉して頂戴。楽しい学生生活を祈っているわ。リリー)


…ぼくに秘密にしてトランクに忍ばせる意味があったのだろうか。



「話は終わったの?」

 説明をして、とエレネさんの目が訴えている。

「え、えーと」

「この子は、お気に入りのぬいぐるみで…」

「あら、ぬいぐるみが喋るのね」

「オレはテンサイだからな!」

「シュバルツは少し静かにしてて!」

「その封蝋、エトバ王室の印……あなた達、一体何者?」

「これは…色々と事情があってですね」

「あなたも訳ありなの?」

「あなたも?」

「……今のは失言だったの、忘れて」

「こほん、ここは大陸中の神秘が集まる場所だもの、生きてる人形の一体や二体はいても驚かないわ」

「それに、あまり詮索をしないのはお互いのためなの」

「それは…そうですね…」

 なんだか、少しだけ距離をおかれてしまったような気がする。

「それと、私のことは下の名前で呼んで頂戴。スカーレットという名前、あまり好きではないの」

 似合っている名前のように思ったけど、何か理由があるのだろうか。だがしかし、詮索はしない約束だ。


「もう遅いから私は寝るわ。おやすみなさい、リアさん」

 もう一つのベッドに向かいながら木の棒をひと振りするエレネさん。すると先ほどまで部屋全体を照らしていた明かりが消えて、月明りだけが部屋の中に差し込む。

「な、何ですか、今のは!?」

「簡単なアーツよ」

「へぇ、エレネさんはもう魔法を使えるんですか?」

「……少しだけよ」

 それでもすごいと思うのだけど、それともぼくが何も知らなさ過ぎるのかな?

 エレネさんが手に持っている木の棒を見て、この部屋に来る前に渡された学生用品リストの存在を思い出した。その中でひときわ目を引いたのが”聖杖”だ。自分が魔法の杖を振るう姿を想像したが、なんだか滑稽だった。

「寝れないのカ?」

「さっきまでのびてたからね……」

「ねえ、シュバルツ。なんだかぼく随分と遠くに来ちゃったよ…」

「心配はないぞ!オレがついてるからナ!」

 ぼくの胸のうえでどや顔を決めるシュバルツ。

「うん、頼りにしてるよ」

「おう!まかせろ!」

 シュバルツを撫でていると不思議と心が癒される。ほんと、王女様は素晴らしい贈り物をくれたものだ。旅の疲れもあったのだろう、ぼくはしばらくしてから再び深い眠りについた。これがぼくの一日目だ。



~朝食後~


 朝食を食べ終えて部屋に戻ると、ちょうどエレネさんが着替えを終えて浴室から出てきたところだった。昨日のことがあったから一瞬奇声を発しそうになったけど、すんでのところで声を飲みこむ。大丈夫、今度はちゃんと服をきているし、ふき飛ばされるようなこともない。

「やっと起きたんですか?」

「あなた…朝が早いのね」

「もうとっくに日は登ってますよ…」

「そう…ね」

 声を出しながらながら大きいあくびをするエレネさん。

「そうだ。これ、食堂からもらってきたんです。良かったら食べます?」

「…ありがとう」

 エレネさんはあまり寝起きがよくないのだろうか、さっきからだいぶふわふわしてるように思う。昨日の件で少し怖いイメージを持っていたけど、気のせいだったのかも知れない。

「ねえ、リアさん。今日は買出しに行かない?」

「え?」

朝食を食べて目がさっぱりしたのか、昨日と同じようなきりっとした目を取り戻していた。

「これよ」

 エレネさんが指をさしたのは、例の買い物リストだ。

「まだ必要なものを買ってないでしょ? 私も色々と買うものがあるから、あなたがかまわなければ…」

「は、それはもちろん構いませんけど」

「エステリオンの町を案内してあげる」

 そういう彼女の口元は少し笑っているように見える。昨日は散々な出会いだからどうなることかと心配したけど、ひとまず何もなかったことにしてくれるようだ。これは、デート…ではないよな…


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