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ヴァイオレット家、決死の「敗北作戦」

「……いいか、二人とも。我々の目的はただ一つだ」

父アルフレッドは、胃薬の瓶を聖剣のごとく厳かに掲げ、宣言した。

「領民を路頭に迷わせず、国家を混乱させず、それでいて――『ほどよく没落』する。これだ!」


作戦その一:父による『非情なリストラ(を装ったホワイト化)』


父は長年の採掘で深くなった坑道に目をつけた。

「……あんな危険な場所を掘らせるのは、我が家のコストに見合わん! 採掘量を大幅カットし、現場を縮小する。働きたいという工員を無理やり休ませ、私は『利益のみを追う冷酷な領主』として悪名を轟かせるのだ!」

(※実際は、過酷な労働から領民を解放し、給与据え置きで休日を倍増させただけの聖人君子である)


だが、結果は無残な「大勝利」だった。

話を聞きつけたアウレリオ殿下が「僕の愛する人の実家を困らせるわけにはいかない!」と爆走。

王室予算で最新の採掘魔法と安全装置を導入してしまったのだ。

さらに、恩返しに燃える聖女エレナが「今こそ聖なる力(物理)を!」と、より安全で掘りやすい場所に「新鉱脈」を爆速で発見。

「旦那様は俺たちの命を守るために、あえて採掘停止の英断を下してくれたんだ! そのうえ最新設備まで……一生ついていくぜ!」

領民たちは涙を流して一致団結。

最新技術×新鉱脈のコンボで、採掘量は前年比二〇〇%を記録。

「さすがは聖なる一族! 働き方改革の先駆者だ!」

と、父の胃には勲章という名の重圧がまた一つ加わっただけだった。


作戦その二:母による『強欲な成金アピール(を装ったチンドン屋)』


母はありったけの宝石をジャラジャラと身にまとい、夜会に乗り込んだ。

「見てちょうだい、この輝き! 笑いが止まらないわ、ふ、ふふ、ふ」

(※実際は、緊張で顔が引きつり、声が震えていただけである)


会場が冷ややかな沈黙に包まれる。手応えは抜群だ。

だが、固唾を飲んで見守る私の横で、アウレリオ殿下が感極まったように叫んだ。

「素晴らしい! これこそ、女神の祝福を全身で抱きとめる慈母の姿だ!」

その結果、母の重装備は『ヴァイオレット流・レイヤードスタイル』として社交界で大流行。

真似をして破産しかける貴族が続出したため、慌てた我が家が私物を譲渡したり、超低利で救済融資を行ったりした結果――。

気づけば、我が家を慕う貴族たちによる『ヴァイオレット派』という巨大派閥が誕生。

その中心には、なぜか一番のファンを自称するアウレリオ殿下が鎮座していた。


……もうダメだ。この家、何をやっても成功してしまう。


最終作戦:娘による『婚約破棄』


「……お父様、お母様。こうなったら、私の婚約破棄を突破口にするしかありません」

私は、ついに最終手段を提案した。

殿下に「リリアーナは婚約者の器ではない」と三行半を突きつけさせるのだ。

王族の影響力をフル活用して、華麗に失脚する。

これこそが最後にして最大の「敗北作戦」である。

「だが、あの重……いや、熱烈な殿下が、そんなことを承諾するだろうか?」

「大丈夫ですよ。最近は彼もお忙しいようで、こちらにはさっぱりいらっしゃいませんし」

そう、彼が私を溺愛(と周囲が呼ぶ状態)していたのは、単なる「初恋の熱」に過ぎない。

世界が広がれば、私への執着など霧散するに決まっている。

現に、嫉妬に狂った公爵令嬢に刃傷沙汰を起こされ、私が屋敷に引きこもってから一ヶ月、彼は一度も面会に来ていない。

代わりに届くのは、美辞麗句をこれでもかと詰め込んだ、もはや怪文書に近いボリュームの手紙だけだ。

ちなみに、我が家には彼が手配した「王城直通便」の配達員が常駐しているが、もっぱら返信に詰まった私の話し相手に成り下がっている。

「お手紙は毎日頂きますけど、あまりに詩的すぎて何を言っているのかサッパリですし」

あんな華美な言葉ばかりの量産型ポエムに、真実の愛があるとは思えない。

きっと、きっかけさえあれば、すんなり婚約破棄に応じてくれるはずだ。

そう。これこそが、我が家を救う唯一の道。

――絶対に負けられない「敗北」が、ここにある!

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