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EP71 集客


 希望の槍募金が始まり、2カ月がたった。

 町全体が海竜との戦いに向け、心を一つにしている。


 定期募金も順調に徴収され、単発募金と合わせて800ファルゴまで溜まっていた。

 しかし、その頃になって、募金に必要な金貨そのものの枚数が不足して来た事を、シンだけでなく住民たちも感じ始めていた――。




「そろそろ、外部から人を呼んで金を落として貰わないとな……。」


 シンは頭を抱えながら、数人の漁師と話し合っている。


「思ったよりも、この町は価値が無いのかもですね……。はっきり言って辺境だし……。」


 漁師の1人が苦々しげな表情をしている。


 この2ヶ月間でシンは様々な資産家に手紙を送り、イベントや不動産に関して、彼らが興味を持ちそうな話を手当たり次第に持ち掛けたが、どれも後一歩のところで断られていた。


「何かデカいイベントで、人を集めることが出来れば検討する……だっけか?

 その、イベントに必要なのが資産家なんだがなぁ……。」


 シンは更に思考の迷路へとハマり込んで行く。

 客を集める事に関して、彼は見通しが甘かった事を痛感させられた。


「何か無いのか?金がなくても出来そうなイベントで、人が来そうな奴……。

 宣伝に関しては、請け負ってくれるって人がいるからさ。」


 シンはどんな意見でも欲しかった。

 彼には、何か画期的な案があれば、それを成功させられるという根拠のない自信があったからだ。


「大将、サーペントに関してはどうなりましたか?何か進展はありましたか?」


 漁師の一人が、沈黙に耐えることができずにシンに新たな話題を振った。

 その時の、酒場の内部は重力が増したかのような閉塞感に包まれていた。


「ダメだ……野郎の頭が硬すぎる……。

 結構上の方まで案が登ったらしいが、アイツがすべて揉み消しやがった!

 見てみろ、これが昨日届いた殿様(・・)直々のお返事だ!」


 シンは憤慨した様子で手元の、丁寧な装飾が施された封筒を開けると、金色の便箋を取り出して押し付けた。

 その便箋には、枠からはみ出すほど巨大な黒い字で、ただ一言だけが乱暴に書きなぐられていた。


<<High risk Low return.>>


「……要するにNOって事か!ふざけやがって!!」


 漁師は便箋を見るとすぐに破り捨てて、踏みつけた。


「それとは別に、こいつも来たぞ。」


 シンは似たような封筒をもう一枚押し付けた。


―――――――――――――――――――――――

 フューリー・リヴァイアサンの方々へ


 協力要請に関しましては大変申し訳ないのですが、今回は見送らせて頂くことが我々、サーペントの総意となっております。


 また、我々の許諾なしに、支部を名乗る新組織を立ち上げたことに関しましては、大変由々しき事態であると認識しております。

 この手紙発送後、2カ月以内に貴社への査察に参ることが決定しました事を、ここに通達させていただきます。


 サーペント・コンプライアンス統括部

―――――――――――――――――――――――


「取り敢えず、何とかしないとヤバい。

 協力を要請するなら、オッサンを個人的に丸め込む必要がある。

 雇ったサーペントの情報だと、内部でもシャノンで稼ぎたい奴は一定数いるらしいが、破海竜と総監命令が原因で、どうしようもないらしい。」


 シンはもし、査察までに総監を丸め込めないなら、密かに温めていた暗殺計画を、実行しようとさえ考えていた。

 漁師や花、挙句の果てには幼いサムでさえ、シンの計画をそれとなく感じ取っていた。


~~~~~~~~~~


 毎日のように深夜まで続く実りの無い会議に、嫌気がさしていた花。

 彼女は最近、シンよりも早く寝るようになっていた。


 ホテルに泊まるのは金の無駄という事で、この一カ月半は酒場の二階で寝泊まりする生活を送っている。

 あまり綺麗とは言えない古びた家屋だったが、花の懸命な掃除により随分とマシになった。


 料理はマスターが全て奢ってくれるので、シンも花も自分で料理はしなかった。

 しかし、花は自分だけが何もしないのは変だと考え、酒場で配膳だけの給仕をしたり、小規模な薬局を店の片隅で開く事で、サランと自分達の食事代を稼いでいた。


 その結果、二カ月前までは飲んだくれた()漁師たちがいる、物騒で小汚い酒場だったが、最近では一般の客も増え、大繁盛と言って余りある状態だった。




「花ちゃん!いつもの酒くれよ!」

「花ちゃんの薬飲んだら私の娘、すぐに元気になったよ!ありがとうねぇ!」

「歌ってよ、花お姉さん!」


 花は立っているだけで客を呼び寄せる。所謂、看板娘として親しまれていた。

 彼女はこの二カ月で老若男女、町に住む者を一人残らず魅了したと言っても、決して過言では無かった。

 彼女の根底にあった世話好きかつ、人懐っこい性格はこの数週間で一層昇華されていた。


(今日も、たくさんの人の笑顔が見れたな♪破海竜を倒したら、もっと笑顔になってくれるかな♪

 でも、人を集める事が必要なのよね……この酒場みたいに、たくさん人が集まるには一体どうすれば……ハッ!)


 そんな日々を送っていたある晩、一人で星空を眺めていた彼女のもとに、膠着した状態を一気に瓦解する天啓がもたらされた。


 シンでさえ全く思い付かなかったその案を、花は実現に向けて即座に行動を起こしたのだった。

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