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EP70 作戦


「そろそろ、具体的なマスターウェーブ攻略法を考えないとな。」


 大地震の翌朝、直近の課題であった募金額が安定して来たことにより、シンは次の話題であり本題でもある要素へと、遂に切り込んだ。


「取り合えず、奴に関する情報を真偽はともかく、どんどん出してくれ。」


 シンがペンとノートを取り出し、辺りを見回しながら聞くとすぐに返事が返ってきた。


「牙がデカい」

「バカデカい」

「マジ強い」


「OK、デカい事と強い事以外で行こう。」


 シンは埒が明かないことを悟り、苦笑しながら遮った。

 しかし、その後には一切の返事がこなかった。

 漁師達はお互いを探り合うように目を見合わせていたが、それ以上の進展はない。


「え?これだけ?嘘だろ……。」


 シンは情報量の少なさに、正直なところ唖然とした。


「海竜全般に言えるんですが、雷撃と凍結の魔法に弱いです……たぶん……。」


 漁師の一人が曖昧な様子で言った。

 その様子から察するに、誰もマスターウェーブの弱点を知らないのだろう。


「マジかよ……てか、凍結はともかく雷撃魔法を使える奴って、この中にいるのか?」


 シンは顔を上げて問いかけるが、誰も返事をしない。

 実際のところ、漁師たちも雷撃魔法を練習はしてみたが、静電気さえ起こせなかった。


「まずは奴に関する調査が必要か……それに、雑魚海竜と同時に相手するのも得策じゃない。

 近辺の海竜たちは、ある程度先に始末しておいた方がいいな。」


 シンの中で、大まかな作戦の見通しが立った。

 それは二回に分けて海に潜り、一度目に有象無象を始末し、二度目に本命を討伐するという物だった。


 マスターウェーブに関してはまだ分からないことも多いので、一度保留にしたシン。

 しかし、彼の中では既に一度目の作戦は具体的に纏まっていた。


「よし、決めたぞ。一度目の戦いで海岸沿いに大量の雑魚海竜を集める。

 そして、魔法を使って一網打尽にする。その間に俺と花は、マスターウェーブに関しての情報を集めてくる。」


 シンは作戦を簡潔に纏めて発表すると、手元のノートに絵を描き始めた。

 そして、数分後にその絵を用いて具体的な作戦を説明し始めた。


「まず、シャノン海岸には巨大な入り江が一か所ある。

 ここに、大量の魚の血を投下して海竜どもを寄せる。

 そしてある程度の数が集まったら、魔法を使って水を逆流させることで、奴らを閉じ込めてほしい。いや、むしろ中に吸い込んでほしい。」


 シンはそこで言葉を区切ると、辺りを見回しながら語りかけた。


「海竜たちが中に集められたのを確認した後、俺と花はアトランティスに向かう。」


「アトランティス……って、まさかあの海底神殿ですか?」


 漁師の一人が不思議そうな顔で聞いた。

 漁師達にとって、海底神殿は完全に未知の領域だった。


「そうだ。どんな生物であっても、基本的には根蔵を必要とする。

 アトランティスがどれほどの大きさか分からないが、奴が噂通りの巨体なら並の海底洞窟じゃ入れないはずだ。

 その点、あの場所は一番可能性が高い。運が良ければ奴の弱点が見つかるかもしれない。

 それに居場所を特定できただけでも、二回目の戦いでは強気に出られる。」


 シンは淡々と、自分の考えを述べていく。

 しかし、彼が僅か数秒間で叩き出した発想は、漁師達には上手く理解できない。


「つまり、俺たちはどうすればいいんだ?」


 漁師の一人が痺れを切らして質問した。

 その顔には困惑の色が広がっている。


「集めた海竜を始末してくれ。

 そのためには、入江の外にも大量に人を集める必要がある。

 そうしないと、どれだけの海竜が集まっているのか分からないからな。

 一人一人を雇うんじゃなく、何とかして本部……というか本家に協力を要請して、数十人単位の海中兵を集める必要があるかもな。

 具体的な配置に関しては、準備が整い次第伝える。……何か質問はあるか?」


 シンは一しきり話すと、周囲に問いかけた。

 彼にも、漁師たちが困惑している事が分かっていた。


「本家に協力を要請するってのはどうやるんだ?」


「契約金、恐喝、接待、どんな手を使ってでも協力させる。

 それこそ、大陸中からこの町に人を集めて、大々的に開戦するのもありだ。

 そうすれば、本職であるサーペントの怠慢が悪評として伝わるしな。」


 シンは顔色一つ変えずに、高速で論理を構築していく。

 これは彼の生まれ持った知能の高さと、賦遊理威総長としての経験により培われた力だった。


 土壇場での彼の思考力には、花でさえ遠く及ばない。

 むしろ彼女は今、シンの放った何気ない発言に思考が支配され、何も考えられなかった。


(この町で接待って何するのかしら?ゴルフとか?)


「契約金ってのはどうやって集めるんだ?それに、接待って何するんだ?」


 漁師の一人も同じことを思ったようだ。


「この町で、何かデカいイベントをしよう。俺にはその道のツテがある。

 実業家をここに呼んで新しい産業を開拓したり、別荘地として開発したり、バザーを開くのも良いだろう。

 幸い、この町は景色もよくて土地が余ってる。いくらでも利用価値はあるさ。」


 シンはここまで言うと、少しだけ息継ぎをした。

 そしてすぐに、次の話を始める。


「接待に関してはまだ何も考えてない。そもそも、金を払えば大体の事は解決できるしな。まぁ、適当に料理人でも呼べばいいだろ。

 海運の拠点にしてもいいな。海竜を倒すことへの関心が上がる。」


 シンは旅の途中で、様々な実業家に恩を売ってきた。それが、今になって大きな意味を持ってきたのを感じた。

 彼は基本的に丁寧で、人懐っこい性格であった事から、好印象を持たれやすかったのだ。


「具体的な集客方法に関してはこっちで決めるから、お前たちは魔法の練習に専念してくれ。」


 シンはそう言うと立ち上がり、再び声を張り上げた。


「数多の人の思いが込められたこの戦いで、俺達に負けるという選択肢はない。

 奪われた海と未来、この町の希望をこの手で取り戻すぞ!!!」


 シンの力強い宣言に、男たちは大きくうなずいた。

 最初は絵空事でしかなかった破海竜の討伐が遂に、現実味を帯びてきたのだった。

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