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EP44 真実の魔術師 <キャラ立ち絵あり>

 

 巨大な黒いマントは、奇妙な足取りで清也たちの傍へ歩いてくる。


 奇妙なことに、顔の正面は後頭部を覆うはずのフードですっぽりと上から覆われて、どの方向からも、中にいる人物をうかがい知ることはできない。


「すまないが、後ろを向いてくれないか?」


 清也が優しく呟くと、マントはゆっくりと時計回りにその場で回った。

 後頭部もやはり、フードですっぽりとおおわれている。


「このマントを見て、何か気づく人はいないか?」


 清也は真剣な顔で聞いた。


「何って、顔が両面ともフードで覆われて、見えなくなってるだけだろ?それが一体…………ハッ!」


 シンは今度も気が付いた、この黒いマントの些細ではあるが、異常な状態に。


「こいつ……裏表が分からない!」


 シンは驚愕している。確かに、靴の向きから顔の有無まで、人間の裏表を判別する全ての要素が、巨大な黒いマントによって、有耶無耶になっていた。


「察しがよくて助かるよ。だれか、このマントの裏表がわかる人はいるかい?」


 清也は少し機嫌がよくなってきた。


「そりゃ、お前が後ろを向けって言ったのだから、俺たちに見えてるのは後頭部だろ。」


 サーインはさも当然かのように答えた。


「それはどうかしら?ウフフ……。」


 黒いマントの中から声がする。

 くぐもった女性の声で、裏表どちらから発せられているのか分からない――。


「手伝ってくれてありがとう、熱いだろうから脱いでいいよ。」


 清也が心配そうに声をかけた。


「たしかにサラシの効果はあったみたいね。」


 中にいる女性はそう言って、黒いマントを瞬時に脱ぎ去った。

 マントを脱ぎ捨てた花は、”正面”を向いて微笑んでいる。


「いつもの私の格好だと、すぐバレちゃうもんね……///」


 花は大げさに胸を張ると、かなり自慢げなドヤ顔になった。

 清也の方も向いて、少し嬉しそうに笑っている。


「彼女には後ろ歩きでここまで歩いてきてもらったんだ。

 マントに覆われた人間ってのは、意外と裏表がわからないものなんだよ。

 おや、あんたは驚きというよりも焦ってる感じだな?」


 清也は驚いている人たちの反応を眺めて、ラドックスだけ様子が可笑しいという事を鋭く指摘した。


「でも、それが人狼と関係のあることなんですか?」


 戦犯はまだわかっていない。


「俺はこれまで、人狼は”左腕に傷が有る”奴なんだと思ってた。でも違ったんだ。

 あんたらに言ってもわからないと思うが、人狼はあのときマントを表裏逆に着て、フードを裏向きにかぶっていた。

 だから後頭部に顔が無いように見えたし、俺の剣が食い込んだのは奴の左腕じゃなかった!」


 清也はそう叫ぶとラドックスに向かって駆け込み、詰め寄った。

 そして目にも止まらぬ速さの抜刀で、そのまま右袖を斬りつけた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ラドックスの右腕、そこには巨大な一文字の傷跡があった――。


「やっぱり、俺が思った通りだ!」


 清也はガッツポーズをした。これはラドックスが人狼であるという、動かぬ証拠になると思ったからだ。


 しかし清也は、とある事を失念していた――。


「どこに傷があるんだ?」

 シンが不思議そうな声で聞いた。


 ラドックスの真の姿、それは清也以外の者の瞳には映っていなかったのだ。


「ハハハハハハッッッッ!!!!

 なるほど……あんたは腕の傷さえ隠蔽すれば、自分が人狼である事を隠し通せると、本気で思ってるわけだな?

 だとしたらお門違いも良いところだ。あんたが人狼だっていう証拠も、右腕に傷があるっていう証拠も、まだまだ残ってるんだぜ?」


 清也は不敵に笑い始めた。


「何がおかしいんですか!私は無実です!

 あなたこそ、私に罪を着せようとしている人狼なんじゃないですか!?」


 ラドックスがそう言うと、周囲もそれに同調し始めた。


「そうだそうだ!あんたこそが人狼なんじゃないか!?」


 戦犯は不自然に騒いでいる。その目に光は無く、まるで”眠っている”ようだ。


「言っても無駄か……。いいだろう、俺が人狼だと思う奴はかかってこい。近づくもの全てを凍らせてやる。」


 清也は冷たく言い放った。戦犯は動揺し静かになった。


「文句の有る奴は居ないようだな……。なら、事件の全貌を話すとするか。」


 清也は小さく咳払いをした後、深呼吸をしてから話し始めた。


「事の始まり、つまり旅団が初めて襲撃を受けた日の事から、順に話し始めよう。

 あの日、俺とサーインが水を汲みに行ってる間に、キャンプが大量の野犬に襲われた。

 あの襲撃は人狼によって、意図的に起こされたものだと俺は考えてる。

 何故そう思うのかというと、群れの中心にいた巨大な黒い野犬。あれが野犬ではなかったからだ。」


 清也はそう言うと、あの図鑑を取り出し掲げて見せた。


「あの巨大な個体は、決して森に近づかず、人間に敵意を向けないはずのモンスター。”ナイトハンター”だ!

 それが何故、森にいたのか?その答えはただ一つ!人狼によって操られていたからだ!

 そして、操られたナイトハンターは、人間に敵意を持たずに人間を襲撃できる!犬を率いる能力、”カリスマバーク”を使ってな!」


 清也がそう言うと、サーインは不思議そうに聞いた。


「でも、そんなことして何になるんだ?野犬に飯を食わせたかったわけじゃないだろ?」


「目的は……()()だ。それも数十人単位での。

 襲撃の翌日、キャンプ場は行方不明者の数に対して、遺体が少なすぎた。それに遺体を運び出している野犬もいなかった。

 それを知ったとき、俺たちは死体を運び出している奴がいるんだと思った。

 だが、翌日の失踪者の数で疑念を持って、最終日で確信したよ。人狼の目的は”死体”じゃなく”生きた人間”だとな。」


 清也は静かに言った。

 そして一呼吸を置き、誘拐の手口を詳細を明かし始めた。


「初日の誘拐で、野犬の襲撃の恐怖を民間人に植え付ける。

 そうすることであんたは、自然な流れで提案できるんだ。”いくつかの班に分けよう”ってな。」


 全員の視線がラドックスへ向いた。

 皆が少しずつ彼から距離を取るようにして、後退していく。


「あんたは物の見事に、誘拐に絶好な状況を作り出し、二日目に決行した。

 だから、()()()()()()()()()()()()前から四番目と、その後ろの五番目だけがいなくなったんだ。

 それにな、あんたが様子を見に行った後、誰も後方の二班を見てないんだよ!」


「待ってください!その程度で私が人狼だといいたいのですか?

 私が人狼に操れていた可能性もあるじゃないですか!」


 ラドックスが負けじと言った。

 しかし清也は、気にすることなく話を続ける。


「俺からの誘導に従う事にしたあんたは、最終日まで待った。

 そして、真夜中のキャンプ場で寝ている人を誘拐しようと、魔法陣の先へ向かうように操った。

 しかし、民間人よりも先に魔方陣を超えた俺に、まんまと阻止された。

 あの時、あんたは自分の姿を完璧に隠すために、顔の正面をフードで覆うようにマントを着た。

 そして、髪型や髪色を悟られないように、後頭部には仮面をつけた。

 よっぽど正体を知られたくなかったんだな。なにせ、”人の皮”を使って、完璧な仮面を作るぐらいなんだから。」


 あの時、清也の目に幻覚は映っていなかった。

 輝く瞳の力を発動した清也には、ラースの操る幻術が一切通用しないのだ。


 では何故、人間の後頭部を”のっぺらぼう”と見間違えたのか。その答えは簡単だ。”実際に人の皮を被っていた”に他ならない。


「デタラメを言わないでください!それが私だという証拠は、ないでしょう!」


 ラドックスは、もう何十回も聞いたようなフレーズを、延々と繰り返している。


「腕を傷つけられたあんたは、俺に復讐しようと思い、町に到着してからも俺を付けていたんだろう。

 そして彼が、俺たちの旅に不可欠な存在だと知り、殺しに行った……。

 彼には悪いが、あんたの殺意が俺はともかく、花に行かなくて内心ホッとしてるよ。」


 ついに清也の話題は、殺人事件へと戻ってきた。


「夜中のうちに彼を殺害したあんたは、身の潔白を印象付け、証言によって犯行内容を改ざん出来るようにした。

 知らないと思ったのか?アンタの部屋は、俺たちの部屋とはまるで場所が違う。故意に近づかない限りは、”廊下でバッタリ”なんて起こらないんだ。

 これこそが、アンタが”最も俺に犯行を見せたかった人間”であるという証拠!即ち、人狼だ!!!」


「待ってください!それが本当だとしても、部屋の鍵が閉まっていたのはどう説明するんです?

 中に入れたとしても、鍵を閉め直すには、鍵が必要でしょう?それを出来るのはシンさんだけでしょう!」


「あんた、何寝ぼけたこと言ってんだ?”腕が一本”あれば、鍵なんざ閉められるだろう?」


 シンは腕を組みながら言った。その目に疑いの色はなく、憎しみに満ちている。


「シンの言うとおりだ。俺たちは”中にいた犯人”が”外から鍵を閉めた”とばかり錯覚させられていた。扉を勢いよく開ける音によって……。

 だが実際には”中に生きた人間はいない”うえに、”鍵は内側からけられた。”さっきも言ったが、この事件のキーアイテムは……。」


 清也は一呼吸おいて、震えながら息継ぎをせずに言い切った。


「手首を紐によって縛られ!止血された状態でナイフを持ち!宙に浮いている、二本の切断された腕だ!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「う、嘘でしょ……。」


 花は明らかに顔色が悪くなっている。


「彼を殺害したあんたは、二本の腕とナイフを部屋に置いて出た。

 そして、内側にある腕に鍵を閉めさせたんだ。彼を殺害するように見せかけた後に、あんたは腕とナイフを操り、換気扇に押し込んだ。

 そして換気扇の奥で、腕は高速回転するファンによって粉砕され、ナイフはファンを通り抜けて、反対側に落下した。そんなところだろう。」


「そんな事……出来るわけないだろう!一体、どうやって腕を宙に浮かすというんだ!」


 ラドックスは、敬語を忘れるほどに怒り猛っている。


「じゃあ逆に聞かせてもらおうか!あの人形劇のタネを!

 この犯行をできるのは、アンタぐらいなんだよ!もしあれに、確かなトリックが有るなら!俺はアンタに土下座でもしてやるよ!!!」


 清也も負けじと叫ぶ。その様子はもはや議論ではなく、口論と化していた。


「それは……企業秘密だ……。」


 ラドックスは急に大人しくなって俯いた。


「みんなには見えないだろうが、アンタの右腕に傷があるというのが、最大の証拠……。

 部屋に残された血痕、あれはアンタの腕から流れたものじゃなく、切断された腕から流れ落ちたものだ。

 あんたは、腕に深い傷を負いすぎて、満足に断面を縛れなかったんだ!だから、そこから生乾きの血があふれ出た!!!」


 そのままの流れで、清也は畳みかける。




「この世には、超人的な能力を身に着ける方法がいくつかある……。

 その中の一つが”転生者として女神から授かる”だ!」


「俺が転生者だと……お前は言いたいわけか。」


 俯いたままラドックスが聞く。

 その声はいつもの低く穏やかな掠れ声ではなく、荒々しさと冷たさが両立したような、透き通った声だ。


「あんたは知らないのかもしれないが、”ハーメルンの笛吹き男”は童話じゃないんだ!

 あれは、ドイツのハーメルンに伝わる伝承なんだよ!それが、この世界で語り継がれてる訳がないんだ!!!」


 清也は言い切るとラドックスを指さし、勝ち誇った顔で宣言した。


「潔く正体を明かせ!あんたが……大勢を誘拐し、彼を殺害した人狼だ!」






 ラドックスは俯いたまま小刻みに震えだし、ついに顔を上げて笑い出した。


「クフ……フハハハハ!なんだよ!薄ら馬鹿かと思ったら、とんだ名探偵じゃないか!

 そうだよ、俺が奴を殺してやったんだ!お前には、信用されてると思ったんだがなあ!」


 顔を上げたラドックスは、これまでとは雰囲気も姿も別人となっていた。




 中年の者特有の落ち着きから来る、穏やかな微笑みを湛えた、シワの有る顔。

 それは、冷ややかな狂気を帯び、薄笑いを浮かべた、整った若い男の顔になっている。

 丸みを帯びた温かい目も、全てを見下すかのような、冷たく鋭い目に変わっていた。




「いつ、俺がお前のことを信用していると思ったんだ?

 最初に会った時から、俺はあんたを信用できる気がしなかったさ。」


 清也は初対面の時に感じた不気味な雰囲気が、再びラドックスから溢れ出てくるのを感じた。


「そうか……ならもっと力を隠す練習をしないとな。

 そういえばお前、俺のことを殺したいんだったよな?

 良いぞ。万全とはいいがたいが、今ならお前を殺してやっても良い……”俺に追いつけたらな!”」


 ラドックスはそう叫ぶと、目にも止まらぬ速さで走り出した。


「逃がすかよっ!」


 清也も一目散に後を追う。


「待って清也!一人は危険だわ!」


 制止の声もむなしく、清也は出て行ってしまった。

 花達も、慌てて後を追おうと外に出たが、直線のはずの道で何故か迷ってしまい、先に進めなかった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 数分間の追走の末、清也は一人で崖の近くにラドックスを追い詰めることに成功した。


「もう逃げられないな!」


 清也は今度も勝ち誇ったように言った。


「まだ気づかないのか?お前以外の奴は、俺を追うことさえできてないんだ。……この意味が分かるか?」


 ラドックスが意地悪く笑った。その顔は、以前の柔らかい面影を残していない。


「お前と俺の一騎打ち、真剣勝負ってことだろ?」


 清也は自信満々に言った。


「真剣勝負……?フハハハ!笑わせないでくれ!お前は今まで、俺の何を見てきたんだ!?」


 ラドックスは盛大な嘲笑を浮かべながら、指を奇妙に重ね合わせ、不思議な構えをとった。


 嫌な予感がした清也は剣を抜いた。

 しかし、まだ一度しか振るっていないフローズンエッジの刀身は、既に輝きを失っていた。


「これは一体!?」


 清也が剣に気を取られていると、ラドックスが叫んだ。


「隙を見せたな!アホが!」


 我に返った清也が足元を見ると、光の縄のような物が絡みつき、足を地面に固定している。


「し、しまった!」


「よくも”計画”の邪魔をしてくれたなぁ!!!死ねぇっ!清也ぁっ!」


 ラドックスはそう叫ぶと、指先に光の粒子のような物を集め、エネルギー弾として発射した。


「くそっ!動けない!動け!動けよっ!!!」


 清也は必死に足を動かそうとするが、まったく動く気配がない。

 エネルギー弾が少しずつ加速し、近づいてくる。観念した清也は最後の賭けとして、叫ぶことにした。


「俺はここだ!手を貸してくれ……!」


 大きく息を吸い、全身全霊でその名を叫んだ――。




「黄金の魔術師!!!!!」


 清也が叫ぶと同時に、エネルギー弾は更に加速し迫ってくる。


 もう駄目かと思い、目をつぶろうとしたその時だった――。




 空中に巨大な黄金の盾が現れ、エネルギー弾を反射した!


「今だっ!」


 背後から、男が叫ぶ声が聞こえる。

 その直後、ラドックスの体は突如として伸びてきた蔦に絡みつかれ、空中に固定された。


「馬鹿な!黄金の魔術師は殺したはず!まずい!う、動けない!うぉあああッッッッッ!!!!!」


 自分が放ったエネルギー弾が反射し、それに直撃したラドックスは、そのまま崖の下へと落ちていった――。


 清也は足の拘束が解けると同時に、振り向いて言った。


「やっぱり君が……”本当の黄金の魔術師”だったのか……。」


 遂に正体を明かした”黄金の魔術師”は、格好つけるように髪を弄ると、疲れたような笑みを浮かべながらピースサインをした。


挿絵(By みてみん)


「言っただろ?”コイツを持ってる”って。」


 シンは親指と人差し指で小さな輪を作り、清也と花に見せつけた――。

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