EP37 惨劇
翌朝、清也は朝早く起きると着替えて黄金の魔術師に会うために部屋を出た。
すると、部屋を出ると廊下にラースがいた。
「ラース、なんだか久しぶりだね。」
清也は眠そうに言った。
「おはようございます清也さん。朝早いんですね。」
ラースはハキハキとしている。
「あぁ、黄金の魔術師に逃げられたくないからな。」
清也は不愛想にそう言うと、ラースの横を通り抜けようとした。
「ちょうど良い!私も彼を訪ねようと考えていたんですよ!
昨日の夜は、寝ていらっしゃったのか返事がなくて……。」
どうやら清也に付いてくる気のようだ。
「僕と花の個人的な関係についても彼に話したいから、僕と彼が話し始めたら、去ってくれるかい?」
清也は内心で鬱陶しく思いながら、嘘も方便のつもりで言った。しかしこれは、真っ赤な嘘でもない。
「もちろんですとも!お二人の関係に水を差す気はありませんよ!」
「じゃあ行こうか。」
二日酔いの上に、面倒くさい付き添い人が増えた事で、清也は頭が痛くなって来た。
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清也とラースは受付を介さずに、魔術師の部屋に向かった。
事が起こったのは扉の前に立ち、紙に文を書こうとした時だった――。
「誰か!たすけてくれぇー!や、やめろ!近寄るな!私が何をしたんだ!やめてくれ!」
切羽詰まった断末魔が、部屋の中から響き渡る。その声は、明らかな異常を感じさせる。
「おい!大丈夫か!どうしたんだ!」
清也は扉を力任せに叩いたが、中からの返事はない。
「大丈夫ですか!扉を開けてください!」
ラースも扉を殴り付けながら、清也の後に続く。
「たっ!助けてくれっ!」
中からの叫び声は大きくなる。清也は扉を蹴り破ろうとしたが、びくともしない。
「ポストから覗いてみましょう!」
ラースの提案で扉に開けられた穴を覗いてみると、恐ろしい光景が広がっていた――。
穴が小さいため体は見えなかったが、何者かの腕がナイフで横向きに座らされた男の喉を切り裂いた。
椅子に座らされた男は、豪華な服を自らの血で濡らし、ぐったりと俯いている。腕はその後、穴からは見えない四角に入った――。
「医者を呼んできます!」
ラースはそう言って走り出した。
「じゃあ、僕は鍵を貰って来る!」
清也は受付に向かって走り出した。
(まずい!あいつに死んでもらっちゃ困る!まだやらなきゃいけない事があるんだ!)
受付に着くまで、清也の頭の中に有るのはこれだけだった。
「109号室の鍵を貸してください!」
「申し訳ありません。あのお部屋には既にお客様が宿泊して……。」
そこまで言って清也に遮られた。
「呑気なことを言ってんじゃねぇ!人が死にそうなんだぞ!」
清也は耐えきれずに言った。
「わ、分かりました。鍵はお客様にお渡ししてあるのでマスターキーを使いましょう。」
清也の圧に押された受付の女性は、足元を探り始めた。
1分ほど探した後、埃を被った小さな木箱が出てきた。
箱は古いからなのか、少しも開く気配がない。
「貸せっ!」
清也は箱をひったくると、剣の柄で箱を叩き割った。すると中から小さな鍵が出てくる。
その時、魔術師の部屋の方から、扉が勢いよく扉が開けられたような音がした。
「ヤバいっ!逃がすかよっ!」
清也はそう言って鍵を持ったまま、109号室に向かった。しかしそこに、人はいなかった。
「どこ行ったんだ!?」
清也は追いかけようかと考えたが、人命を優先すべきだと思い、鍵穴にマスターキーを入れた。
しかし――。
「あ、開かないっ!なんでだ!?」
錆びついたマスターキーは鍵穴に合わない。鍵を回す事すら出来ないのだ。
「おい清也!どうしたんだ!?」
後ろからシンの声がする。かなり慌てているのか、いつになく声が大きい。
「魔術師か襲われた!マスターキーが錆びてるせいで、扉を開けられないんだ!」
「な、なんだって!?」
シンは目を見張った。そして、ポケットから一本の鍵を取り出して、鍵穴に差し込んだ。
すると黄金に彩られた重々しい扉は、いとも容易く開け放たれた。
「おい!しっかりしろっ!」
シンは黄金の魔術師に駆け寄り、首筋に手を当てた。
「し、死んでる……。」
真の言葉を聞いた時、清也は目の前が真っ暗になった。
この旅はここで終わる。魔王は倒せないし、仲間が揃うことは決してない。
この世界に破壊者がいたとしても、戦うことができるかも分からない。
「そこをどいてっ!」
後ろから声がした。ラースと白衣の男が立っている。おそらく医者だろう。
シンと同じように首筋に手を当てて、迷うことなく「ご臨終です……。」と俯いて言った。
「ちょっと待て……この部屋、鍵かかってたよな?」
清也は青ざめた表情で言った。
「あぁ、俺が鍵を開けるまでは…………ハッ!」
シンも気が付いたようだ。
「これは!密室殺人だ!」
清也とシンは同時に叫んだが、医者とラースの視線はシンだけに注がれていた。
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市長と、この町の保安官がすぐに駆けつけて来た。
清也とラースは事件の目撃者として取調べを受けた。
「~ということなんです。マスターキーは入りませんでした。それで、シンの鍵で開けてもらったんです。」
清也の取り調べは、10分ほどで終わった。
「ご協力ありがとうございました。
犯人はまだ捕まっていませんので、お気を付けてお帰りください。あと、あなたの連れを名乗る女性が来ていますよ。」
保安官はそう言って、書類に目を落とした。
清也が荷物をまとめ、部屋を出ようとしたとき、保安官助手らしき人が部屋に走りこんできた。
「保安官!大変です!被害者のダイイングメッセージらしきものが見つかりました!」
よほど急いで来たのだろう。すごい息切れだ。
「一体なんて書いてあったんだ!?」
保安官も待ちきれない様子で聞いた。
「被害者が座らされていた椅子のすぐ近くの床に”人狼はシン”と被害者自身の血で書かれていました!」
それを聞いた清也は、血相を変えて事務所から全速力で飛び出した。
「清也!いったい何があったの!?」
出口で待っていた花は心配そうな顔で聞いた。
「一緒に来て!シンに一刻も早く会わないと!」
清也は花の手を掴み、走り出した。
(シンは本当に人狼なんだろうか?いや、ここまで狡猾な男がダイイングメッセージなんて残させるわけがない!
人狼であるなら逃げようとするはず。人狼でないなら……。)
ここから先は、花にも聞こえるように声に出した。
「次に狙われるのは彼かもしれない!」




