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EP36 紅月

 

 宿に向かう途中、清也はこれまでを思い返し感慨に耽っていた。


(16日間、本当に長い旅だった。この世界に召喚されてからはだいたい50日間だ。

 黄金の魔術師に会うことができれば、この世界に召喚された転生者が全て揃う。……魔王を倒す冒険はこれからだ!)


 清也は魔王を倒す決意を固めた。

 花も道中で、同様に感慨に耽っていた。


(清也、一体なんて言おうとしたんだろう?やっぱり……ちょっと急ぎすぎたかな……。)


 宿屋の前に着くと、二人は途端に緊張し始めた。


「若くてイケメンな人だと良いね!」


 清也が笑顔を浮かべながら言った。


「小太りのおじさんかもよ。」


 花は興味がなさそうである。


「普通、思い浮かべるの逆じゃない?」


「転生前の顔なんて覚えてないんだし、しょうがないわよ。」


 そう言うと、花は大げさに肩をすくめた。


 緊張がほぐれたところで二人は宿屋に入った。中はかなり豪華な作りになっている。

 受付に近付くと、従業員と思われる女性に話しかけられた。


「いらっしゃいませ。当ホテルは現在、お部屋が一つしか空いておりません。同室での宿泊でよろしいでしょうか?」


 女性は微笑みながら聞いた。


「同室で結構です!」

「泊まりじゃないんです。」


 二人は同時に違うことを言い、顔を見合わせた。

 先に意見を述べるのは清也だ。


「ここより安い宿があると思うけど。」


「2週間以上野宿したのよ?たまには少し高い所に泊まっても良いんじゃない?

 それに、お金は黄金の魔術師さんに借りれば良いじゃない。」


 花の考えは、かなり女性的な考えだ。

 清也にはよく分からないが、争うほどの事でも無いので従う事にする。


「まぁ、そうか……とりあえず先に彼に会おう。」


 花との相談を終えた清也は、従業員に向き直る。


「ここに、黄金の魔術師と呼ばれる方はいらっしゃいますか?」


「一番奥の部屋に泊まっていらっしゃいます。あのお客様を訪れる方宛てに、伝言を預かっています。

 もし、私に用があるなら"紙に書いて扉の郵便口から入れろ"との事です。」


 従業員はそう言うと、通常の業務へと戻って行った。


「紙……どういう事かしら?」


「大富豪だろうからね、狙われないようにしてるんだよ。」


 清也は納得のいく答えを言ったつもりだが、すぐに"少ししか黄金は出せない"という彼の能力を思い出して、少し不安になった。


「ねぇ、彼は少しの黄金しか出せないんじゃ……。」


 花も気付いたようだ。見合わせた顔は、どちらも不安げである。


「人違いじゃない事を祈ろう。」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一番奥の部屋。

 その扉は金色に飾られていて、いかにも大富豪がいそうな部屋といった感じだ。

 扉には、他の部屋には無い横長の窓が空いていて、ポストのようにも見える。


 扉横の机に置いてあるメモ帳とペンを使い、小さな手紙を書く。


「僕は吹雪清也。魔王を倒す旅をしているものです。あなたは、私と同じ使命を持って転生したのでは無いですか?

 僕の旅に同行して欲しいのです。会って話は出来ませんか?」


 するとすぐに返事が来た。

 答えは、二人が全く予想していないものだった。


 その紙には、「私はその質問に"答えることができない。"」と丁寧な字で書かれていた。


 間髪入れずにもう一枚が出てきた。「また明日来て欲しい。」と書かれている。


 清也と花は共に落胆した。しかし断られたわけでは無い。

 出来るだけポジティブに、今後を考える事にした。


「えぇと、花って成人してるよね?」


 清也は恐る恐る聞いた。女性に年齢など聞いてよいか、彼には分からなったからだ。


「うん、まだまだ若いけどね。」


 実年齢までは教えてくれなかった。"若い"という事を強調する所が、清也には可愛く感じられる。


「じゃあ、今から飲みに行こうか。」


 清也はそう言うと、花を連れてシンのいる酒場へ向かった。


~~~~~~~~~~~


 酒場は大勢で賑わっているが、中心付近の席は空いていた。周囲を見渡したが、そこにシンはいなかった。


「とりあえず飲もうか。」


 清也はそう言って赤ワインを注文した。


「えぇ私も同じのを」


 花も注文した。


 二人とも酒に弱かったので、ワインを飲むとすぐに酔った。

 普段はあまり飲まないので、お互いに知らなかったのだが、かなり酒癖が悪かったーー。


「でもよぉ……あいつが来てくんないと、話にならんっよなぁ!」


 清也が大声で叫ぶ、今にも倒れそうだ。

 アルコールで理性のタガが外れたのか、普段の温厚な様子が消し飛んでいる。


「質問に答えれないってどういうことよ!来ないなら来ないって、言えば良いのに!」


 花は怒っている。2人とも多かれ少なかれ持っていた不満が、一気に爆発し始めた。


「魔王討伐なてぇ、金持ちになちまったら、やりたくないかぇ!」


 清也は舌が回らなくなってきた。完全に泥酔している。

 これではもはや、ただのオッサンである。


「それは一体誰でしょう!?」


「黄金の魔術師さんでーす!あっはっはっはっは!!!!!」


 清也は完全に酔っている。花の調子良い問いかけに対して、大声で合いの手を乗せた。


「そうよね。」


 花は妙に淡白な口調でそう言って、どこかへ步いて行った。


 結局、清也は泥酔した花と共に、店外へ摘み出された。

 酒も飲まずに大声で喚き立てら客など、店側も願い下げである。


「あしたもういちどたずねよう。にげられないようにあさいちばんに。」


 清也は自分でも、何を言っているのか分かっていない。

 しかし、思考は少し冷静になったようだ。


「えぇ、そうね。……ホテルに行こっか?」


 花はそれとなく誘ってみたが、清也はそもそも聞いていなかった。




 二つのベッドに分かれて、二人は熟睡した。

 天窓から見上げた満月が、紅く輝いている事に二人とも気付かなかった。

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