EP21 身上
清也の中で、抜け落ちたパズルのピースが高速でハマっていく――。
調合系の回復職、学者のような語り方。そして、薬について習っていたという発言。
清也と同じように、”1ヶ月前に転生した”という境遇。
その全てのパーツが、1つの肖像画を作り上げた。
あの日、エレーナに会い転生をさせてもらう前、清也は1人の女性に話しかけられた。
どこかで会ったことのあるような、美人で茶髪の女性だった。
そして何より、目の前にいる女性と同じような、美しい桃色の瞳をしていた――。
「花、君はもしかして、転生した日の僕に話しかけた?」
「い、いや……清也と話したのは、採石場に行った日が初めてだよ?」
「そうじゃ無いよ。女神様に呼び出されたとき、虹色の水を流す噴水の前で、僕に話しかけなかったかい?"ここがどこか分かりますか?"って」
花はハッとした表情になった。真相を理解したようだ。
「あぁっ!!あなた、もしかしてあの時の!?」
「そうだよ。あの時、君に話しかけられた男だよ!」
清也は満面の笑顔で言った。
「じゃあ!私たちの使命は同じだから!」
花が言うと、清也はそれに続けて言った。
「僕たちはこれからも一緒だ!」
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時刻は既に5時を回っていたので、夕焼けを眺めながら2人は改めて自己紹介をする事にした。
だが今回の自己紹介は、主に前世での話になった。
「私の名前は楠木花。薬学部を出て、薬剤師の免許を持ってるわ。
母さんも父さんも元気だったけど、今はどうかな……。取り敢えず、トラックに跳ねられて死んじゃった。
死ぬ直前に誰かに押してもらったんだけどあの人は元気かな……。」
花は夕焼けに照らされた空を眺めながら、遠い目をして言った。
「実は、僕もトラックに轢かれて……ってあれ?
もしかして花が跳ねられたのって、西新宿一丁目交差点!?」
清也は驚いて聞く。なんだか、とても嫌な予感がする。
そして、それは当たっていた――。
「え!?なんで知ってるの!?」
花も驚いて聞き返した。その返事を聞き、落胆せずにいられない。
どうやらあの時、命懸けで助けようとした女性は、助からなかったらしい。
転生できただけ、マシだと考えて打ち明けることにした。
「君を押したのも、僕だ……。なんてこった、君は助からなかったのか……。」
清也は消え入りそうな声で言った。
普通に考えて、押せば必ず助かるほど、世の中の事故は甘くない。
助かる場合も有るだろうが、必ず助かると思い込むのは、アニメの見過ぎだったと実感した。
「清也、やっぱり優しいのね……♡
ごめんなさいね……巻き込まれる感じになっちゃって……。」
花はそう言うと、少しだけ顔を曇らせたが、清也ほどでは無かった。
「僕は良いんだ。君を助けられなかったのは残念だけど、お陰で花と話せてるからね!」
清也は無理に、元気な様子を装う。
しかし、落胆は隠せない。たった一人の命さえ助けられない自分の無力さを、改めて思い知らされたからだ。
「じゃあ!僕の方もいくよ!僕の名前は吹雪清也。
自慢じゃないけど、吹雪カンパニー社長の一人息子だよ。」
清也は気を取り直して、自らの身の上を話し始めた。
彼は"吹雪カンパニーの一人息子"という肩書きに、未練は無いつもりだった。
しかし、見苦しいと分かっていても、何故か見栄を張りたくなる。
それは即ち、花に少しでも良く見せたいと言う、幼稚な思考の結果であった。
しかし清也とて、そんな事には気付いている。
(いつか……!この肩書きに頼らなくても、人に誇れる男になってやるんだ!!!)
決して声には出せない願望ではあったが、それが今の彼を突き動かす原動力であった。
そこまで聞いて、花は驚いた顔をして聞き返した。
「えっ!?あの吹雪カンパニー!?スキー場とか運営してる?」
「うん、そうだよ。まぁ、僕は親の七光りで入社しただけで能力なんてない、ただのバカだけどね。」
清也は、事実をしっかりと付け加えた。
現状に不満はあるが、隠したい自分の姿にこそ、向き合う価値があると思ったからだ。
「そんなことないよ!清也は剣術の筋がいいと思う!
それに、清也には優しい心と、勇気、咄嗟の機転があるじゃない!
昨日だって私を庇ってくれたし!ちょっと怖かったけど、とってもカッコ良かったよ♡」
花は少し紅くなった。もはや、清也への好意を隠す気がない。
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。
剣術の筋に関しては、僕の先祖が関係してるかもね。」
清也は先祖を称える事は、やり方さえ間違えなければ、自分を誇示する事には繋がらないと思った。
そのため比較的躊躇なく、まだ花に語っていなかったとある人物の話題を持ち出した。
「どんな人だったの?」
花は興味津々だ。
「子供の時、一言一句覚えさせられたから、教えてあげるよ。」
そう言って清也は300年前の東北を生きた、1人の剣豪の伝説を語り始めた。




