EP21.5 吹雪の剣豪
ある日、東北で大きな合戦があった。
幕府に楯突く勢力と忠実な勢力との因縁の合戦であった。
戦いは終始反幕府派が有利に運んだが、突如吹いてきた吹雪により中断された。
休戦となっていたわけでは無いが、この吹雪の中、風上にある砦に攻め入ってくるわけがない。
そう考え、宴が始まろうとしていたその時だった。
風下から向かい風をものともしない凄まじい速度で駆け抜けてくる一匹の獣がいた。誰もがそれを雪原を住処とするニホンオオカミであると考えた。
しかし、実際は違った。それは1人の足軽であった。
吹雪の中、姿勢を低くし髪をなびかせ、刀一本で向かってくる姿は狼そのものであったが、確かに人であった。
見張り台の男がそれに気づき、警鐘を鳴らそうとした時、その足軽は信じられない跳躍を見せ、見張り台を瞬く間に制圧した。
そして、足軽は本陣へと乗り込んだ――。
三日が経ち、吹雪が止んだ。
忠実派が幕府の援軍を連れ砦に踏み込んだとき、そこには驚くべき光景が広がっていた。
刀や銃、大砲を握りしめた者たちは既に息絶え、年端も行かない子供や武器を持たぬ者は、食料の豊富な蔵に閉じ込められていた。
戦いは既に決していた――かに見えた。
忠実派が本陣に近づくに連れ、刃がぶつかり合う音がするようになった。
まだ、戦いは続いていたがそれはもはや合戦ではなかった。2人の男の文字通りの真剣勝負であった。
片方は足軽、もう片方は敵将であった。身分は違ったが腕は互角であった。
忠実派は助太刀に入ることができなかった。
なぜなら、その2人が人智を超えた勝負をしていたからだ。
2人の斬撃はぶつかり合い、捻れあい、一つの舞のように奇妙な様相を呈していた。
見ている物を見惚れさせる戦いの末に勝ったのは、足軽であった。足軽は敵将を討ち取る事はなく、峰打ちで捕らえた。
聞けば、その足軽は娘との結婚の条件として地元、福島の地主から、忠実派を助けるように言われて、吹雪の中を駆けつけてきたそうだ。
この事は忠実派の者すら知らなかったが、たった1人で100を超える武士を制圧した侍を、人々は”吹雪の剣豪”と呼び、称えた。
幕府は反幕府派を刺激せぬようにこの合戦を隠匿した。
しかし褒美として、負けた反幕府派の土地の半分と、まるで自分がその一部であるかのように吹雪を利用し、敵陣に切り込んだ姿を讃え、吹雪という姓を与えた。
福島に戻った剣豪は、約束通りに地主の娘と結婚し、子宝を授かった。
しかし、一年と経たない内に霞の中に消え、その後見つかる事は無かったという――。
".5"と付いている話は神話や伝説、回想を語る際に付けます。




