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白雪姫 6


鏡の言葉に姫ははっとした。そうだ。小人役を猫たちにやってもらうように、暗殺者役も必ずしも人間に任せる必要はない。人よりも忠誠心の強い彼らの方が、ずっと口は堅く、信頼できる。



「お願いできますか?」


「ええ、勿論。お任せください」



継母と姫は鏡を壁から取り外し、割れないように慎重に魔方陣の中へと運んだ。



「暗殺者は、小人のように愛らしい姿では駄目よね。可愛い暗殺者だと姫を殺そうとしたと言っても説得力がないもの」



鏡をどんな人物にするか、という話になり継母が言う。



「そうですね。鏡さん、何かなりたい姿に希望はありますか?」



姫が問うと、鏡は弾んだ声で話し出した。



「ええ、ええ、あります。なりたい姿の希望。実はずっと憧れていた姿があるのです」


「えっと…それは?」


「大柄で伸長が高く、強面で、ダンディな男性です。歳は若くない方が良いですね。歳を上手く重ねてきた貫禄かんろくがあった方が良い。紳士的なヒョロヒョロの男性ではありませんよ。こう、ちょっとヤンチャで危険な男、といった感じです」


「大柄で背が高く…強面で…ダンディな…そして危険な男…ですか…」



妙に具体的であったので話を聞けば、魔法の鏡はずっとそういった男性に憧れていたらしい。しかし、永遠の命を授かり生まれ変わることもできない鏡は、ずっと鏡のままだ。そんな男性になりたいと思いつつも、今までずっと諦めていたのだそうだ。



「姫様が本当に猫たちを小人にした時は驚くとともに、歓喜したましたね。やっと理想の姿になれるんだと」


「魔法の鏡、貴方、それが本音ね?私が姫を手助けしているから自分も力を貸したいというのも嘘ではないんでしょうけど、そちらが本当の目的でしょう?」



継母は呆れたように言い、鏡はそれを否定しなかった。どうやら図星のようだ。



「まぁ、いいわ。紳士的な男性なら暗殺者役には向かないでしょうけれど、貴方の理想の姿は違うようだし」


「そうです!優しげな紳士などとんでもない!!人も殺しそうな危険な雰囲気を漂わせているけれど、魅力的な男!!それに私はなりたいのです!!」



鏡は力を込めて、自分のなりたい姿を主張する。姫は急に人が変わったように騒ぎだした鏡に呆気にとられた。しかし、具体的なイメージは決まったので、すぐに猫たちの時と同じように継母と呪文を唱え始めた。



「「我は魔力を受け継ぐ者。古より自然と関わり、深い交友を持つ者なり。我の魔力と引き換えに、陣に置かれし魂に、仮初の姿を与えたまえ」」



また部屋が光に包まれ、目を閉じる。しかし、今度は目を開けて成功したかを確かめる必要はなかった。



「あぁ!!これです、これ!!私の理想の姿!!」



目を開ける前に、そんな鏡の感動した声が聞こえたからだ。継母と姫はその瞬間に、魔法の成功を確信した。


魔方陣の中に、高伸長の男が立っていた。怪しげなマントを羽織り、鷹を思わせる鋭い目付きの屈強な男だ。髭を生やしているが、だらしなさはなく、それも彼に似合っている。顔は四十代ほどに見える。しかし、マントの下から見えるその腕はたくましい筋肉がついていて、遠目からだと若い男にも見えるだろう。


それが魔法の鏡の姿だった。



「まぁ…化けたわね」



思わず、といえ風に継母の口からそんな言葉が漏れる。猫たちが小人になった時も驚いたが、鏡も違う方向に随分と変わったものだ。



「あぁ!!私の理想の姿!!ツルツルの無機質な肌ではなく、健康的で筋肉のあるこの腕!!足!!何と素晴らしいのでしょう!!」


「白雪姫、鏡のことは放っておいていいわ。ああなると、暫くこちらの話が耳に入らないでしょう。少しすれば落ち着くでしょうから、それまで私たちは計画の準備を進めましょう。配役は決まったけれど、まだ細かいところが不十分よ」


「は、はい…」



自分の筋肉に惚れ惚れとする鏡を置いて、作戦会議を始めることにした。



「計画の詳細を決めていきましょう。まず悪役が姫を嫌っている理由を決めておきたいのだけれど」


「私のことが気に食わなかったから、では駄目なのですか?」


「それでもおかしくはないわ。でも、嫌いだからとすぐに殺そうとするかしら。嫌いといっても、どういうところが嫌いなのか、具体的に決めていた方が私としても演じやすいわね」


「確かに、そうですね」


「かといって、あまり深すぎる理由は駄目。例えば親の仇を殺した人間を民衆は責め立てることができるかしら。殺人は罪よ。それはいけないこと。でも親を殺されたらそれくらい相手を恨んでも仕方がないと、同情されるでしょう。そうなれば計画の主人公である姫の印象が弱くなる。深い理由ではなくて、もっと噂を聞いた人が呆れるような理由が良いわ」
















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