自傷癖な少年は神具を授かる
今回はオリジナル設定が多めです
ご容赦ください
いつの間にか僕の手中にあったナイフをまじまじと見つめた。
全体は燻し銀で作られており、十字型一番上には細かい魔法陣が組み込まれている。
「汝の血を一滴、捧げよ。 さすれば我ら汝に駆けつけん」
兄のラルスが告げた。
そして、ライオンであるマルスが咆哮をあげる。
世界の理すら捻じ曲げてしまいそうな力強さで叫ぶと小さな血色の石が床に落下した。
それを拾いあげると意識が見えない圧力に引き寄せた。
前世と現世の人格がごちゃ混ぜになる。
酷い吐き気と相反する高揚感。
自らの腕から血を流し、恐怖と父からの暴力と周りからの重圧を必死に受け止めようと足掻く自分。
今とは全く異なる日本人特有な黒髪黒目の容姿、年齢らしく低めの声、畳に二滴分の跡ができる。
実際に我が身へと起こったことなのに現実感が微塵もわかない。
「彼」が口を開くタイミングでまるでテレビの電源が切れたように視界が黒く染まる。
再び色を取り戻せば、そこは戦場。
絶え間なく続く悲鳴と飛び散る真紅の飛沫。
業火で死体すら残さず焼かれた場所には真っ黒な影がぽつりと残るだけ。
まだ小さな子どもの四肢を引き裂かれ、吹き出た血がぶくぶくと泡立つ。
子どもがこちらに視線を向ける。
「死んでしまえ」と口が言われた気がした。
三度、目に映る景色が変わる。
過去と今が交錯しているのか気持ちが悪くて仕方がない。
どこまでも続く灰色一色の世界。
ふと自分の手に注意を向ければ、不死族独特の血の気がない肌と人間だった頃の健康的な色が混じって言い表し方に困るような何とも言えないものになった。
極度の貧血になったときのように頭の中を勢いよく掻きまわされる。
悠久にも感じられる時間が過ぎ、少しずつ体調が回復していく。
どうやら能力の「永遠の癒し」で治癒可能な範囲まで持ち直したらしい。
声が聞こえる。
【……リア・サモネンよ、そなたに余の力を授けよう】
何者かも分からない相手の魔力を受け入れる行為は危険極まりない。
前世でいうと送り主不明のメールをパソコンで開けるようなものだ。
なのに、何の抵抗すらなく身体に染みわたった。
伴って不快感が消え失せていく。
力がみなぎる感覚、突然泣き出してしまいそうだ。
ふわりと温もりに包まれる、長らく忘れていた母親の匂いがする。
【余は《古代神具》。遠い戦の末に封じられた魂の成れ果て。望めば、そなたの牙とも鎧ともなろう。さあ、何を望む】
僕は、守る力が欲しい。家族を、仲間を守り抜くための。
だって昔はできなかった。
僕がいい子でいられなかったから母は愛想を尽かして家から離れ、妹は父に為す術もなく純潔を奪われた。
だから、だからこそ、僕は力を望む。
この魔力を不死兵を操り人間(邪魔者)を消し去り、みんなを守るために。
「《古代神具》よ、僕の意のままに姿を変えよ」
紅い石がまばゆい光を放ち、心臓の鼓動に合わせて脈打つ。
身体中が沸騰するかのように熱いのにかつてないほどの多幸感が爆発する。
淡い黒の粒子がゆっくりとしかし着実に形を成していく。
現れたのは革鎧。腕の部分は布製で関節を保護するように黒い宝石……ダイヤモンドだろうかで覆われている。胴部の革自体もかなり質がよさそうだ。武骨なデザイン故に素材の良さがよくわかる。
【余はこれより、リア・サモネンの武器となる。名を魔法鎧プリトウェン。ゆめゆめお忘れなきよう】
耳元の気配が消える。
どうやら、役目を終えたようだ。
僕のためだけに作られたオーダーメイドの鎧。
手を触れようとした瞬間に意識が書庫に戻ってきた。
自分以外誰もいないあらゆる所に散った血が飛んだ異質な空間。
そんなことに構わず、プリトウェンに手を伸ばす。
それを着ると身体全体に魔法を身に纏ったのが分かった。
次いで、強大な魔力の付与。
右の心臓――通称「魔心臓」が痛みを訴える。
負傷すれば魔法が金輪際使用不可になる魔族の急所。
そこに適応外の量を注ぎ込ませる、終わりは術師の死か完全な融合。
鈍痛が収まり、僕は生き残ったことを知る。
解析魔法を発動させ、その他の能力を確認した。
まず一つ、特殊魔法による絶対防御。
不死族の物理耐性の貧弱さを補い、高い魔法防御をさらに上昇させる。
次は装備者の能力の向上。
懐のタガーを引き抜き、首を無造作に切り付ける。
勢いよく流れ出る血も十秒程度で止まった。
これで生存率が飛躍的にアップするはずだ。
そして最後は僕の十八番、不死兵召喚に役立つ。
流石にここで行うと後処理が大変だから今度レノに手伝ってもらおう。
緩く伸びをして動作確認をする。
問題なしだ。
血塗れの書庫を出て厳重に鍵をかけた。
カビの臭いがする廊下を抜け、広いロビーを横切って青空が顔を出す。
軍の寮に着くとそのままベットに飛び込む。
今日は精神力を使い過ぎたみたいだ。
あっという間に意識は柔らかいスプリングに吸い込まれていった。
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