表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/20

7.もふもふの行方は





 光の先にあったのは、清流の秘境と言える場所であった。

 とても人が寄りつくとは思えない、草木に満ちた道をたどって辿り着く。そこはまさしく、神が住まうと言っても過言ではないように思われた。澄み渡った空気に、自然発生した魔力とは異なる『神力しんりょく』が満ちている。


「これは、すばらしいですね……」


 神力とは人体において生成される魔力とは異なり、自然の中で生成される力のことである。それはより神に、そして天族に近いモノであり、魔族に寄るほどに薄まっていく。要は魔力の対になるモノで、人間はその中間に位置しているのであった。すなわち、ここは人間や魔族の住まう場所よりも神に近いのである。


 アディアはそのことに感嘆の声を上げていた。

 が、魔族の俺にとっては……。





『……大丈夫ですか? リクさん』

「おえっぷ。ごめん、単純に神力に酔ってるだけ……」


 単純に、毒になるのであった。

 呼吸をする度に体内の魔力が薄まっていくのが分かる。

 吐き気にめまい、さらには脱力感を覚えるまでになっていた。


『あぁ、それなら私に触れていてください。多少は緩和されるかと』

「あ、あぁ。ごめ……おえぇ。はぁ、はぁ……」

『……私に吐かないでくださいね?』


 アディアに触れると、どうやら何かしらの保護を受けるらしい。

 俺は腰にある彼女に右手で触れ、しかし前かがみに左手で口元を覆っていた。たしかに緩和はされているが、それでもこれほど神力が濃いと苦しいらしい。

 息も絶え絶えに一歩、また一歩と歩を進めるのであった。


『あぁ。どうやら光は、あの洞窟の中に続いているみたいですね』

「う、うん。そうだな……」


 聖剣様に言われて俺は前を見る。

 すると彼女の言う通りに【索敵】の光は、深緑の苔に覆われた穴の中へと向かって伸びていた。ただ気になるのは、そっちに行けば行くほど神力が……。


「生きて帰れるのかな、俺……」


 そうボヤキながら、しかしここまできたら仕方ない。

 俺は重い足を引きずるようにして、その洞窟の中に突入するのであった。



◆◇◆



「あぁ、思ったよりも明るい。これなら、灯りは必要ないな……」

『何度も言いますが、私に吐かないでくださいね?』


 洞窟の中は【索敵】の光が通っていることもあってか、足元が見える程度には明るかった。そうなると目下のところ問題は、俺の身体の限界。先ほどから、やはりと言ったらいいのか、奥へ進めば進むほどに神力は濃くなっていた。


「これは、できれば長居したくはない、な……」


 そんなワケで、俺は最大限の速度で奥へと突き進んでいた。

 途中からアディアのことを杖にして歩きながらである。彼女は文句を垂れていたが、しかし次第に何も言わなくなっていた。うん、さすがに察してくれたらしい。


「これは、ヤバい……」

『そうですね。これより奥に進めば、リクさんの身体がもたないかも……』


 そうなのである。

 神力の濃度は魔族の俺にとって、とっくに危険水準に達していた。

 視界はかすみ始めていたし、何よりも動悸がヤバい。心臓が早鐘のようになっており、これ以上は命に関わると警告しているのであった。


『……残念ですが。諦めましょう? それか、日を改めてでも』


 だが、しかし。


「いいや。進もう……」

『リクさん!? 何を言っているのですか!?』


 俺の気持ちは、思いは、前へと向かっていた。

 それを口にするとアディアは、心の底から驚いた声を上げる。


『貴方は馬鹿ですか! これ以上進めば、自分がどうなるか分かっているでしょう!? そうでなくても、いまもフラフラじゃないですか!!』

「……………………へへっ」


 まるで責めるような、そんな彼女の声だった。

 だけども、それを聞いて俺は不思議と笑ってしまう。

 何故であろうか。いいや、その理由は自分が一番分かっていた。それは、



「だって、モモちゃんに何かあったら。お前…………泣くだろ?」



 そう。たったそれだけのこと、だったのだ。


『…………え? リクさん』

「お前、大好きなんだろ、もふもふしたの。それに可愛いモノとか、そういったのが好きなんだろ? だったら、泣くだろ。もし、何かがあったら……」



 もしここで諦めたら、アディアが悲しむから。



 モモちゃんのことを語る時のコイツは、とても嬉しそうだった。

 本当にああいうのが好きなんだな、と。見ていて和むほどであった。

 でも、もしもである。それが失われてしまっては、どうなるであろうか。答えは簡単だ。悲しむ。泣いてしまう。涙を流してしまうのであろう。


 それが、どうにも俺には許せなかったのだ。


「理由は、それだけだよ……」

『リクさん、貴方……ホント、馬鹿……』


 俺の言葉に、アディアは『馬鹿です』と繰り返す。

 勝手に言ってろ。そう思った。


「それじゃあ、行くぞ……!」


 そう思って、俺はまた一歩、進んだ。

 その瞬間であった。視界が、空転したのは……。


『リクさん!? リクさ――』






 最後に聞こえたのは、そんな必死そうな彼女の声。

 しかし、それを聞き終えるよりも先に。





 俺の意識は、闇の中へと落ちていくのであった……。





 


今日は三話更新。

19時にもう一話上げます!

<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ