7.もふもふの行方は
光の先にあったのは、清流の秘境と言える場所であった。
とても人が寄りつくとは思えない、草木に満ちた道をたどって辿り着く。そこはまさしく、神が住まうと言っても過言ではないように思われた。澄み渡った空気に、自然発生した魔力とは異なる『神力』が満ちている。
「これは、すばらしいですね……」
神力とは人体において生成される魔力とは異なり、自然の中で生成される力のことである。それはより神に、そして天族に近いモノであり、魔族に寄るほどに薄まっていく。要は魔力の対になるモノで、人間はその中間に位置しているのであった。すなわち、ここは人間や魔族の住まう場所よりも神に近いのである。
アディアはそのことに感嘆の声を上げていた。
が、魔族の俺にとっては……。
『……大丈夫ですか? リクさん』
「おえっぷ。ごめん、単純に神力に酔ってるだけ……」
単純に、毒になるのであった。
呼吸をする度に体内の魔力が薄まっていくのが分かる。
吐き気にめまい、さらには脱力感を覚えるまでになっていた。
『あぁ、それなら私に触れていてください。多少は緩和されるかと』
「あ、あぁ。ごめ……おえぇ。はぁ、はぁ……」
『……私に吐かないでくださいね?』
アディアに触れると、どうやら何かしらの保護を受けるらしい。
俺は腰にある彼女に右手で触れ、しかし前かがみに左手で口元を覆っていた。たしかに緩和はされているが、それでもこれほど神力が濃いと苦しいらしい。
息も絶え絶えに一歩、また一歩と歩を進めるのであった。
『あぁ。どうやら光は、あの洞窟の中に続いているみたいですね』
「う、うん。そうだな……」
聖剣様に言われて俺は前を見る。
すると彼女の言う通りに【索敵】の光は、深緑の苔に覆われた穴の中へと向かって伸びていた。ただ気になるのは、そっちに行けば行くほど神力が……。
「生きて帰れるのかな、俺……」
そうボヤキながら、しかしここまできたら仕方ない。
俺は重い足を引きずるようにして、その洞窟の中に突入するのであった。
◆◇◆
「あぁ、思ったよりも明るい。これなら、灯りは必要ないな……」
『何度も言いますが、私に吐かないでくださいね?』
洞窟の中は【索敵】の光が通っていることもあってか、足元が見える程度には明るかった。そうなると目下のところ問題は、俺の身体の限界。先ほどから、やはりと言ったらいいのか、奥へ進めば進むほどに神力は濃くなっていた。
「これは、できれば長居したくはない、な……」
そんなワケで、俺は最大限の速度で奥へと突き進んでいた。
途中からアディアのことを杖にして歩きながらである。彼女は文句を垂れていたが、しかし次第に何も言わなくなっていた。うん、さすがに察してくれたらしい。
「これは、ヤバい……」
『そうですね。これより奥に進めば、リクさんの身体がもたないかも……』
そうなのである。
神力の濃度は魔族の俺にとって、とっくに危険水準に達していた。
視界はかすみ始めていたし、何よりも動悸がヤバい。心臓が早鐘のようになっており、これ以上は命に関わると警告しているのであった。
『……残念ですが。諦めましょう? それか、日を改めてでも』
だが、しかし。
「いいや。進もう……」
『リクさん!? 何を言っているのですか!?』
俺の気持ちは、思いは、前へと向かっていた。
それを口にするとアディアは、心の底から驚いた声を上げる。
『貴方は馬鹿ですか! これ以上進めば、自分がどうなるか分かっているでしょう!? そうでなくても、いまもフラフラじゃないですか!!』
「……………………へへっ」
まるで責めるような、そんな彼女の声だった。
だけども、それを聞いて俺は不思議と笑ってしまう。
何故であろうか。いいや、その理由は自分が一番分かっていた。それは、
「だって、モモちゃんに何かあったら。お前…………泣くだろ?」
そう。たったそれだけのこと、だったのだ。
『…………え? リクさん』
「お前、大好きなんだろ、もふもふしたの。それに可愛いモノとか、そういったのが好きなんだろ? だったら、泣くだろ。もし、何かがあったら……」
もしここで諦めたら、アディアが悲しむから。
モモちゃんのことを語る時のコイツは、とても嬉しそうだった。
本当にああいうのが好きなんだな、と。見ていて和むほどであった。
でも、もしもである。それが失われてしまっては、どうなるであろうか。答えは簡単だ。悲しむ。泣いてしまう。涙を流してしまうのであろう。
それが、どうにも俺には許せなかったのだ。
「理由は、それだけだよ……」
『リクさん、貴方……ホント、馬鹿……』
俺の言葉に、アディアは『馬鹿です』と繰り返す。
勝手に言ってろ。そう思った。
「それじゃあ、行くぞ……!」
そう思って、俺はまた一歩、進んだ。
その瞬間であった。視界が、空転したのは……。
『リクさん!? リクさ――』
最後に聞こえたのは、そんな必死そうな彼女の声。
しかし、それを聞き終えるよりも先に。
俺の意識は、闇の中へと落ちていくのであった……。
今日は三話更新。
19時にもう一話上げます!
<(_ _)>




