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6.もふもふを探して






 アコ村の西方の森というのは、先日のヌタクサ採集とは真逆の方向だ。

 俺とアディアが入っていた温泉のある方角であり、森を越えた先は山岳地帯となっている。もっと奥に行けば火山があるようだが、今回はさすがにそこまで行くことはないだろう。憶測だが、そう思った。


 うん、まさかね。そんなところまで行かない、よね……?


『よし、待ってて下さいね。モモちゃん! 頑張りますよ、リクさん!!』

「おっし、頑張って探しますか!!」


 俺は腰に下がった聖剣に同調する。


「さて、それじゃあ早速、と」


 そして、呟いてその場でしゃがむと、俺は短く呪文を唱えた。

 手にはタラズ氏から預かった猫じゃらし。それを草むらに置く。すると、そこを中心として小型の魔方陣が形成された。これは【索敵魔法】と呼ばれるモノで、本来ならば微かな痕跡から敵の居場所を突き止める際に使われる。


『ふむ……。やはり、森の奥の方へと進んでいますね』


 すると赤褐色の光が現われ、右往左往しながら前方に進んでいく。

 対象のモノがどのように行動したのかを示す光であり、つまりは光を追っていけばそこにモモちゃんがいるのであった。

 見た限りではアディアの言う通り、森の中へと向かっている。


「よし。行きますか!」


 俺は立ち上がると、大まかにその光にそって歩き出した。

 しかしアレだな。やっぱりペットとは言え、動物だ。進むのはどこも、人が足を踏み入れないような獣道ばかり。足に絡みつく草木に少しばかりの鬱陶しさを抱きつつ、歩を進めるのであった。


 さて、そんな感じでいると。


『モモちゃん。待っていてくださいね……』

「……………………」


 しきりに、聖剣さんは腰元でそう呟くのである。

 ただ探しているだけなのも退屈なので、俺は彼女に話しかけることにした。


「アディアって、動物――というか。もふもふしたの、好きなんだな」

『ん? どうされたんですか、急に』


 するとアディアは、小首を傾げていそうな声色で答える。


「いや。意外って程でもないんだけど、結構その、可愛い趣味してるんだな、と」

『はぁ、そうですか? 可愛い、ときましたか……』

「お、おう……」


 俺の言葉に、何言ってんだコイツ、と言わんばかりの反応であった。

 というか俺も俺で、何を言っているのだろうか。言ってから気が付いたけれど、かなり恥ずかしいセリフを吐いてしまっていた。しかし、そんな俺の気持ちなど知らないといった雰囲気で、彼女は何やら『う~む』と考え込む。そして、


『憧れ、なのですかね……?』


 そう、小さく言った。


「憧れ? 動物というか、もふもふに?」

『そうですね。私は結局のところ剣ですから、柔らかい感触のモノには憧れを持ってしまいますね。まぁ、単純に可愛いから好き! というのも、あるのですが』

「ふーん、そうなのか。でも……」


 何やら少し、寂しげな声色のアディアさん。

 そんな彼女のそれに耐えかねて、俺は思わずこう言ってしまった。



「アディアも、可愛いと思うけどな……」



 無意識に。

 それこそ、思ったままに。


『――――――――――っ!?』


 瞬間、悲鳴のような何かが頭の中に響き渡るのであった。


『かわ、かわっ、かわい……っ!?』

「…………カワイ? カワイ、って誰だ」


 そして、しどろもどろに言葉を繰り返すのである。

 俺は意味が分からずに首を傾げた。


「あぁ、たしか向かいの家の人が東方出身の方だったな!」


 そして、ようやく結論にたどり着く。

 しかしどうして、ここでその人の名前が出てくるのであろうか。


『……………………』

「……………………?」


 結果的に、双方揃って無言になってしまう。

 この微妙な空気は、しばらく続くことになるのであった……。



◆◇◆



「……っと。少し開けた場所に出たな」


 さてさて。

 そんな会話からしばらくして、俺とアディアは森を抜けた。

 すると出たのは、ぽっかりと空いた円形の広場。広さとしては半径十余メイルといったところか。不自然に出来たその場所の中央に向かって、光は伸びていた。


『モモちゃん! モモちゃんは、いずこに!?』

「落ち着けって。そろそろ途切れるはずだから、このあたりで……」


 俺はゆっくりとした足取りで、それを辿る。

 アディアはガクガクと、今までにない程に振動していた。


『モ、モモちゃん、ハァハァ……』

「………………」


 おそらくは、本人も無意識に発している声だ。

 俺はとりあえず、それを聞かないようにして進むのであった。


「あれ? 途切れてる」


 すると、何ともおかしいことに。

 そこにいるはずの猫が、いなかった。光もそこでプツリと切れている。


『モモちゃん!? リクさん、モモちゃんはいずこに!? ハリィアップ!?』

「いや。これは、どういうことだ……ん?」


 その異変に、別の世界に意識を飛ばしていた彼女も気付いた。

 そして、そんな風に俺のことを急かしてくる。だが理由を聞かれても、俺にだってそんなことは分からなかった。ただ一つ、発見したモノを除けば……。


「血痕? それに、これって……」


 俺はあるモノを拾い上げながら、ぼそりとこう言った。


「首輪、だよな。えっと裏側には『モモ』って、書いてある」


 広場の中央。

 そこには、血痕があった。

 裸の地面に残されたそれはすでに乾いており、今日になって出来たモノではない。そのことはすぐに分かった。そして同時に、その近くには『モモ』と書かれた首輪。それって、つまり……。



『はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』



 俺と同じ結論に至ったのか、アディアは声を張り上げた。


『ちょっと待てぇ! どういうことですか、リクさん!?』

「待て、落ち着け! まだ、そうと決まったわけじゃ……」

『そうって、なんですか!? まさか、モモちゃんが魔物にでも襲われたとでも!? ……い、嫌アアアアァァァァァァァァァァ!?』


 絶叫する聖剣様。

 頭の中に直接、響き渡るそれによって瞬間のめまいに襲われた。

 だがしかし、俺はぐっとこらえてこう言う。これはおそらく、彼女ほどモモちゃんに入れ込んでるわけではない俺だから、気付いたことであった。


「だから、落ち着けって言ってるだろ! ほら、この血は猫のじゃない!」

『……ふえぇ?』


 俺が断言すると、ようやく落ち着いたらしい。

 アディアは涙目といった感じの声を発しながら、黙り込んだ。

 そのタイミングを見計らって、俺は鼻で再度確認を取りながら言った。


「これは、魔族の血だよ。これでも俺は魔族だからな、ニオイで分かる。それと、ここで【索敵魔法】が途切れたのは、この首輪が目標に設定されたからだ」

『そ、それは、本当……ですか?』

「嘘ついてどうなるんだよ」


 俺はそこで再び、今度は拾った首輪を使用して【索敵魔法】を使用する。

 すると、赤褐色の光が別方向に伸び始めるのであった。


「ほら、な?」

『ほ、本当ですね! リクさんも、たまには役に立ちますね!』

「たまには、ってなんだよ。たまには、って! って、言ってる場合じゃないな」


 アディアの言葉にツッコみを入れながらも、俺は気を引き締める。

 どうやら、俺の様子に彼女も感付いたらしい。


『そうですね。少なくとも、モモちゃんの身になにかあったのかも……』

「そういうこと。それじゃ、急ぐか!」


 そう。そうだった。

 少なくとも、何らかの事件に巻き込まれた可能性、それは否定できない。

 したがってここからは、より慎重かつ速やかに行動するべきなのであった。俺はやや駆け足で、光を辿って行く。だけども、思ってもみなかった。





 


 その先で、あんなモノと遭遇するなんてこと……。




 


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