5.もふもふ事件発生
それは、本当に何気ない会話からだった……。
「そういえばアディア。お前、人間の状態だったら一緒に食事できるんじゃないのか? ユリアに変な気を遣わせたりしないでさ」
ある日の夜、自室にて。
ふと先日の出来事を思い出した俺は、そう聖剣に問いかけた。
人間の状態であれば、より生活しやすいのではないか、と。それに、そうすれば気を遣わせた結果、砥石を用意してもらうコトもなくなる。
『あぁ、いえ。私は本来的に剣の状態でないとダメなんです』
しかし彼女はそう言って、その案を拒絶する。
「ん、その心は?」
『簡単に言いますと、人化は物凄くエネルギー……つまりは魔力を消費するのです。あの時はどうしても自分で行動したかったために人になりましたけど、ね』
「ふむ。なるほど、な……」
そういうことなら、仕方ないのかもしれない。
何故か俺は少し残念に思いながら、彼女の言葉に頷くのであった。
『まぁ、私のコトは自立行動もできるペット、とでも思って下さいな』
「ペット、って。お前……」
すると、そんな例えを口にする。
俺は呆れてツッコみを入れようとしたのだが、
『そうだ、ペット! いいですよね!?』
「はぁ? 急にどうしたんだよ」
なにか、変なスイッチが入ったらしい。
急に声色を変化させ、アディアは興奮気味にそう話し始めた。ベッドの傍らに立て掛けた彼女に目をやると、微かにだが震えている。これは、身悶えているのか?
俺は思わず引いてしまった。正直、怖かった。
しかし、こちらの反応など知らぬといった風に聖剣さんは語る。
『もふもふ! もふもふはいいですよね! そして、もふもふと言えば斜向かいの家にいる猫ちゃん! 名前はモモちゃんでしたっけ? もう、可愛すぎです!!』
「お、おう……」
……なんだろう。
これ、人化してる時だったらメチャクチャ鼻息荒くなってるんだろうな、と。その姿が容易に想像できた。そして嫌がる猫を抱きしめ、頬ずりをしている様子が。
それはそれで、不思議とアリかなと思えた。何故かは分からんけど。
『そんなわけで、明日はモモちゃんに会いに行きましょう!』
「……結論はそこかよ。別にいいけどさ」
と、そんなこんなで会話は無事、着地するのであった。
ついでに空白だった明日の予定も決まったし、良しとしよう。
俺はベッドに横になって目を瞑る。
そして、ゆっくりと眠りに落ちていくのであった……。
◆◇◆
『なん……だと……?』
そんなワケで、翌日である。
アディアさんの第一声は、そんな驚愕に満ちたものだった。
俺と彼女は昼になるのを待ってから、斜向かいに住むタラズさん宅を訪ねたのである。近所というコトもあり、彼らは温かく出迎えて下さった。
だが問題はそこからで、目的であるモモちゃんの所在なのであるが……。
「いつから、帰ってきてないですか?」
「そうだねぇ。一昨日の夜、かな。西の森の方に行くのが目撃されたのが、最後かねぇ。心配で心配で、一日二食しか喉を通らないよ……」
『なんと。おいたわしや……!』
……いや。割と普通に食えてね?
そんなツッコみが喉まで出かかったが、どうにかこらえる。
とにもかくにも、今日のところは空振りだったらしい。それならば仕方ない。今日のところは引き返すことにしよう。と、そう言いかけた時だった。
『ミスター・タラズ! 私たちにお任せください!!』
アディアさんが、元気よく声を張り上げたのは。
見ると俺の腰にぶら下がった彼女は、激しく振動をしていた。
「おいおい。アディアさん? 何を勝手に……」
『何を言っているのですか!? これは世界救済なんて霞むほどに大きなことですよ! モモちゃんの身になにかあったら、私も食事が喉を……』
「いや、アンタに至っては食べる必要もないからね!?」
聖剣さんの矛盾に満ちた発言に、とうとう我慢できなくなった俺。
タラズ氏のいる目の前で、思わず声を荒らげてしまった。ビクリと肩を弾ませる老人。俺はそれを誤魔化すように苦笑しつつ、彼から少し距離を取った。
そして、壁にアディアを立てかけてしゃがみ込む。
「あのな、アディア? せめて、俺に一言してから提案してくれよ」
『いやいや。今回は可及的速やかに行動に移す案件であると、そう判断しました』
「そう判断しました、って。実際に動くのは俺なんだけど……」
真剣に語りかけるものの、返ってくるのはそんな息巻いた言葉だけだった。
どうにも、この聖剣さんはもふもふに目がないらしい。
『もしリクさんが行かないなら、私一人で探しに行きますよ? 人化して』
「はぁ? でもアレって、魔力を消費するんじゃ……」
『モモちゃんのためなら、関係なしです!!』
「お、おう。さいですか……」
ちなみに補足すると、だ。
魔力というのは、人体にて生成される力である。
しかし、俺が思うにこのアディアという聖剣、剣であるために自ら魔力の生成は出来ないと見た。だから燃料が切れたらそれで活動終了、という可能性もある。
「…………ふむ」
だとするならば、危険な橋をわざわざわたる必要はない。
そう思う俺なのであった。
「よし。分かった、俺がやるよ!」
なので、彼女の要望を進んで受け入れることにしたのである。
まぁ、なんだかんだ言ってアディアには愛着がわいてきているらしい。彼女に万が一があったとしたら、俺は平常心を保つことは出来ないと、そう思った。
この感情の名前を、俺はまだ知らないけれども……。
『では、決まりですね♪』
「よし、行くとしますか!」
と、いうワケで。
何とも突拍子もない話ではあるが、本日の予定は変更になった。
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