Debriefing
この後なんだけど、例のPC-6ターボポーターは、結局第七大が買い取った。残念ながら、スクラップとしてね。
あの機体、いま正門から入って右手に飾られてるんだ。トタンの屋根の下でね。ゲートキーパーってやつ。じつは、博物館に引き取ってもらうという案もあったんだ。確かに、博物館だったら、ちゃんとした整備も受けられる。でも、結局大学で受け取った。探してみると、へこみとか傷とかが多くて、奇麗に成形しなおすかって意見もあったけど、クリアの塗料でコーティングして、展示することになった。
伝統って言葉はあまり好きじゃないけど、Alley mur murにはこの後、伝統が一つ出来た。それは、当のターボポーターの操縦席につるされた、銀のキーホルダーを磨くこと。
あのキーホルダー、カメラに付け直すのを忘れちゃったらしくて、結局あのままだったんだけど、黒ずんできちゃって、磨いてるうちに「伝統」になっちゃったんだよね。多分、Alley mur murの新人も「なんて無駄な伝統だろう」って考えてるんじゃないかな。大丈夫。一番そう思ってるのは、間違いなく僕だから。
あのPC-6を見るたびに、あの日のことを思い出す。黒ずんだ銀色はキーホルダーと重なって、もうなんていうか、記憶のキーみたいになってるんだよね。
フライト前にも言ったけど、やっぱり実際に飛んでみないとわからない。飛んで初めて、飛んでいる人たちの気持ちが分かる。うぅん、言葉にすると安っぽいね。
……なんか嫌だね。
そうじゃなくて、空を飛ぶときの感覚、拍動、振動、そのすべてに、うーん、何かあるんだろうね。やっぱり駄目だよ。飛んでない時に、、飛んでる時のことを話すのは。
えーっと……。
飛んでる時のことを素直に書くと、
ヘッドレスト、圧迫
腿の、ラダーの振り子とリンク。
蒼
回転
否、単振動
長周期と、短周期
遅れる反応
早まる現象
腕は悶々としている
足はのうのうとしている
目は待っている
息は気づかないふり
見えるのではなく、見ているだけ
飛べるのではなく、飛んでいるだけ。
……えっと、やっぱりわからなかったかな。御免ね。悪かったかな。
でも、いつかきっと分かる。
やっぱり、飛べばだけどね。
それとも、もう飛びたい?




