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Bush Pilot  作者: フラップ
第四章
22/27

4-9


 火山灰から脱出した後。

 高度は、あと400mを切っていた。慌ててプロペラのロックを解除。

 後ろの藤田に例のワイヤーを持たせて、引っ張ってもらう。藤田は回収しようとしていたが、そのまま捨てさせる。無理に引っ張ったら、手を切ってしまう。

 プロペラを風圧で回す。

 あと200m。

 バッテリーを繋ぐ。すぐさまエンジンを始動しようとする。

 しかし、エンジンの中に燃料が残っているかもしれない。少し我慢して、ホットスタートを避ける。

 ダメなことだとわかってはいたが、引き起こす。速度が下がっていく。

 何とかエンジンが回りだす。

 しかし、音が弱弱しい。

 回ってくれ、頼む。

 音は、低いまま持続。

 速度がつらくなってきた。

 徐々に、エンジン音が大きくなっていく。

 息を吐いた。

 その後、嘉手納と合流した。超音速で飛んできたらしい。交差するとき、水口が悲鳴を上げたほどだった。

 氷川は、機体を騙し騙し飛ばして、進入経路に乗せる。横を、F-35がついてくる。

 前は全く見えない。火山灰がサンディングしてしまった。カメラを振り回している水口のために、小さい側面の窓を開けてやった。側面の窓は何とか見えている。

 速度は速め。滑走路は、この機体にとっては無限にあるのと同じぐらい長い。

 何とか軸線に近づく。その前に、旋回を始める。

 軸線はあっただろうか。コンパスを見る。問題なし。

 「OK。完璧だ。本当は見えてるんじゃないか?」

 「見えてない。着陸する」

 着陸。すぐさま救急車が群がり、身動きが取れなくなる。爆音が聞こえたので見てみると、F-35がわざわざ横風状態の滑走路を使って降りてきた。降りていいのか?

タキシングを断念してエンジンを切った。

 機体を降りて、見てみる。救急隊員が腕をつかんだが、問題ないと断る。ジャケットを脱ぐと、汗をかきすぎて塩が浮き出ていた。

 水が飲みたい。

 機体は、様変わりと言えるほどに様子が変わっていた。

 まず、塗装がすべて剥げ、銀色の下地を丸出しにしていた。機体下面の緑色も、垂直尾翼のオレンジ色も、うっすらと残っているのみだ。それどころか、桁がないところはへこんですらいる。

氷川は舌打ちする。こいつは、多分もう駄目だろう。せいぜい、ゲートキーパーにするぐらいしかできない。壊れた飛行機なんて、スクラップか、それに近い晒し者ぐらいにしか使い道がない。無駄がない設計だといいうことだ。

 「ありがとうございます」いきなり話しかけられて、びっくりする。水口だった。彼女は微笑んでいる。笑えるとは、凄い。素直にそう思った。

 「いや、特に、そんなことを言われるほどの事じゃない」頭を掻く。「仕事だよ」

 「いえ、命の恩人、というものです」彼女の、命の恩人というノスタルジックな言葉が少し面白い。

 「君の命を助ける行動をしたのは、止めた時と、連れ帰ったときで二回だね」

 「やっぱり、居なかった方が良かったですか?」

 「…………」少し迷う。でも、結論は一つだった。「いや、君が居なかったら、死んでただろうね」

 「えへへ、お互い様ですね」

 何がお互い様だ、と思ったが、呑み込んだ。

 「ああ……」頷くような言い方。嘘をつくなんて大人になったな、と思う。でも、気持ちのいい嘘だった。嘘の方が綺麗だ。ずっと。

 「迷ったのは、これから君が無理をしないようにするためだ」という趣旨の言葉を思いついたが。それもまた呑み込んだ。

 少なくとも、彼女の微笑みをさえぎって言う自信は、彼にはなかった。その代わり、出てきたのはやっぱり逃げの言葉で。

 「大丈夫だとは思うけど……」彼女の全身を見る。「一応、病院に行った方が良い」

 「氷川さんもでしょう?」

 「俺は、報告があるから」エプロンにいた面々も、近づいてきた。

 「ありがとうございます」彼女はまた言った。

 「もう聞いたよ」

 「はい。もう言いました。でも、ありがとうございます」

 鼻から息を漏らす。

 「うん。お互い様だね」

 彼女は救急車に自分で乗って、運ばれていった。グロッキーになっていた面々はとっくのとうに運ばれていた。どう考えても一番深刻なダメージを受けたのはPC-6だが、誰も気にしていない。

 寿村がボトルを渡してきた。礼を言って、中の水を飲む。

 「ご苦労様」ナツが言った。「良かったわ。生き残っていて」

 「ええ。生還しました」

 「どうやって飛んでいたんだ?途中で降りたとか」中杉が聞いてきた。

 「いや、中でサーマルに乗って」

 中杉は目を丸くして、ほえーと、何とも気の抜けた声を出した。

 「どうする?」

 「どうするって?」

 「大人しく救急車に運ばれるか、普通に部屋に戻るか」

 「腹が減った」肩をすくめる。「食事を摂って、シャワーを浴びたら寝ます。治療は、多分必要ないかと」

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