0083
Side:橘八重
タワーマンションに戻ってきた次の日、俺は一人で服などの買い物に出かけた。
まずは鞄を買いに行くんだが、ちょっと大きめの鞄を持つ事にしたので安くて丈夫そうなのを探す。
それなりに色々と見回った結果、安くて大きな鞄を発見。
それを購入した。
それなりに大きいものの、自衛隊が使うような大きさは無い。
登山家が使うような物よりも少し小さいが、それでも十分な大きさの物だと思う。
俺の身長が169センチ、ギリで170無いんだけど、その俺の尻の下まである。
もう少しで太もも位に来そうなほど大きい。
ちなみに上は首の上辺りまでなので、本当に大きいのがよく分かると思う。
それでも異界では疲れにくかったりするので大丈夫だ。
虚界からは全力で持ち上げれば運べるだろうし、危険はまぁ………賊とか以外は無いと思う。
魔力で体を強化とか出来ればいいんだけど、そんな都合の良い力は無い。
色々な異界探索者が試してきた結果、漫画やアニメにある身体能力を強化するなんて事は出来なかった。
もしかしたら出来る人は居るのかもしれないけど、おそらく黙っているだろうし説明はしないと思う。
賊みたいな連中が居るし、何より自分の身を守る為には黙っておいた方が良いに決まってる。
有名になりたいなんてヤツはバラすのかもしれないけど、そんな事をしたらどんなトラブルに巻き込まれるか………。
本当に悪魔よりも人間の欲の方が問題だわ。
「よお、お前最近話題になってるヤツだろ?
ちょっとその服とか鞄とか置いていけよ」
「オレ達が言ってるんだから分かってるよな?」
俺の目の前にはチンピラっていうかチーマーな奴らが5人ほど目の前を塞いでる。
周りの人間は見ないフリをしているが、こんなのは日常だ。
誰だって自分が可愛いのは当たり前なんだから、関わらないに決まってる。
「何を言ってるのか、よく分からないんだけど?
犯罪者だと言いたいのか、それとも白昼堂々と追い剥ぎをやるバカだと言いたいのか。
どっちなのかは残念ながら俺には分からないな」
「あぁ? テメーマジでふざけてるみてーだがよ。
今すぐ殺すぞ? コレが目に入んねえのか?」
「何ならよく見えるようにテメーの目に刺しこんでやろうか?」
「それ以前に、コレは異界に行く際に着ているローブなんだが………そんなチャチなナイフで切れると思ってんの?
どう考えても無理なんだけど、その程度の事も分からないのか?」
そう、俺は服を買いに来ているにも関わらず、わざわざローブを着こんできているんだ。
当然こういうヤツを警戒しての事なんだが、その警戒が正しかったんだとよく分かる。
こいつらを見ていて、つくづくそう思うよ。
「はぁ、分かってねぇゴミだ、な!!」
突然やってきたつもりだろうけど、正直に言ってヴァンパイアよりも遥かに遅い。
狼男よりも遅いし、なんだったらサボテンよりも遅い。
そしてこんなヤツの攻撃に当たるほど俺はマヌケじゃない。
「バカか、よっと!」
「ぐぁっ!?」
俺はナイフを突き込んできた右手の外側へと攻撃をかわし、右足の脛を蹴飛ばしてやった。
そもそもこの程度で止めてやってるんだから、感謝してもらいたいもんだ。
「ぐぅぉぁぁぁぁぁぁ! いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「おい、どうした! 大丈夫か!!!」
「くそぉぉぉぉ!! さっきので骨が折れちまったんだ!!
警察、警察を呼んでくれ!!」
「おお、警察だな!! すぐに呼んでやんよ!!」
バカどもは俺の方を見てニヤニヤし始めたが、俺は完全に無視している。
なぜなら、これはまたエルトアリアさんがキレるパターンだからだ。
俺自身は日本人だから日本の法に従う必要があるだろう。
でもエルトアリアさんは従う必要が無い。
そして俺はそもそも悪い事をしているなんて思っていない。
なぜならナイフをチラつかせて脅してきたのは向こうだし、刺そうとしてきたのも向こうだ。
ついでに言えば警察が不公正な判断をしても、何の問題も無い。
せいぜい俺が長期に渡って拘束されるくらいだ。
その間に警察は激怒した方に壊滅させられるだろう。
どうせこんな奴らに味方する連中じゃ先は知れてるんだから、むしろ今の内に壊滅した方がいい。
その方が世の為、人の為だ。
「どうした! 警察に通報すんぞ!!」
「いいよ、早くすれば?
っていうか、何でまだしてないんだよ。早くしろよ」
「なんだと!?」
「俺は警察がお前らの味方をしようが何でもいいんだよ。
どうせ最悪でも拘置所に2~3日突っ込まれる程度だからな。
そもそも足は折れてないし、脛を蹴った程度。それで重罪にするのは不可能だ。
だったら放っておけばいい」
「はあ?
何言ってるのか分かんねーが、テメーはこれで異界探索者じゃなくなるんだぞ!
それでもいいってのか!!」
「だからいいって言ってるだろ。さっさと警察に通報しろよ。
しないならこっちからするぞ? それが嫌ならさっさとしろ」
俺は呆れたようにチンピラというかチーマー連中に言ったんだけど、なんだか急にお互いに目線を交わし合ってるな?
いったいどうしたんだ?
「…………おい、予定と違うじゃねーか。
どうなってんだよ?」
「んなこと知るかよ。
それより、アイツが通報しろっつってんだからやっちまえよ。
警察にパクらせりゃいいだろ、そしたら調子に乗ってるあのバカを凹ませられるんだ」
「それ以前にナイフを持ち出してんのをどうするんだよ?
警察に見つかったら、オレ達の方が悪いって事にならねーか?」
ならねーか? じゃなくてなるっての。
こいつらもしかして、中卒の俺より頭が悪いのか?
そもそも俺はタワーマンションに武器類は置いてきているし、防具であるローブを着ているだけだ。
スパイクシールドも危ないので、盾すら持ってない。
「そっちの相談はどうでもいいけど、通報しないなら俺からしておくぞ?
そもそもナイフを突きつけて脅した時点で犯罪だし、ここし〇むらの前だからな?
あそこ見たら分かるが監視カメラ付いてるだろ。
つまりお前らの映像って撮られてるんだよ」
俺がそう言うと、チンピラと言っていいかチーマーと言っていいかな連中は、一斉にし〇むらの入り口上に付いている監視カメラを見た。
入り口の方を映すようになってるし、この角度なら完全に映っているだろう。
「げっ!? マジじゃねーか!
何で監視カメラの位置を調べてねーんだよ!!」
「うるせぇ!
文句あんならテメーが調べりゃいいだろうが!!」
そんな不毛なやりとりを始めたので、俺はそいつらに関わりなく通報した。
「はい、こちら緊急通報センターです」
「あ、こっちは新宿の〇〇にある、し〇むらの前です。
チンピラっていうかチーマーの連中がナイフで脅してきました。
っていうか、一度は刺しに来ています。
かわしましたけど」
「はぁ、新宿の〇〇にある、し〇むらですか……。
随分と落ち着いているようですが、嘘の通報ですと罪に問われますよ?」
「そう思うならそれで構いませんよ。
ただし俺はエルトアリアさんに問われたら、真実を話すだけですので」
「エルト、アリア………ですか?」
「ええ、俺の名前は橘八重と言います。
やっぱり警察はクソだって分かったんで切りますね。じゃ」
俺はそう言って通報を切ると、面倒になったのでし〇むらを後にした。
バカな連中はまだ揉めていたので、面倒になった俺はさっさとその場を去る事にしたんだ。
それにしても、警察含めて碌なもんじゃないな。
やっぱり悪魔の人の方が何倍もマシだわ。
電車に乗って別の区の店に行くか。
その方がまだマシだろうし、こんなクソみたいな場所に来ても仕方ない。
新宿ってろくな所じゃないな、歌舞伎町があるのも納得だわ。
その後は電車に乗ってさっさと移動し、隣の渋谷で買い物をする事に。
ここもチーマーが多いイメージあったけど、こっちでは一切襲われなかった。
渋谷は言われているほど酷くないのか、それとも偶然か。
どっちかは分からないけど、俺は服が買えただけで十分だ。




