0079
Side:橘八重
ゆっくりと記憶の精査をしていると眠たくなっていたのか、気づいたら寝ていたようだ。
エルトアリアさんに起こされて起きたが、何故か妙に不機嫌だったのが気になる。
いや、そこまで不機嫌じゃないのかな? 起こしてくれたぐらいだし。
それはともかく、何故か俺は今アロハヌス家で朝食を頂いている。
久しぶりに会ったアロハヌス家の方達は特に変わりないようだったが、エルトアリアさんの不機嫌に当てられているようだ。
「別に我は不機嫌ではない。ちょっと色々とあっただけだ」
「言葉使いが<魔王様モード>になってるのにですか?」
「そもそもこの言葉使いは不機嫌な時に出るものではない。
我の本来の話し方に過ぎぬ。
それより昨日は何故気絶していたのだ? また人間どもがそなたを狙ったのではあるまいな?」
「確かに襲われはしましたけど、それと気絶は関係ないです。
気絶した原因は<記憶の宝珠>を使ったからですね」
「<記憶の宝珠>を?
何故あんな物を異界の中で使うのだ。外に出てから使えばよかろう」
「ご尤もと言う他ないんですが、あの時は使ってみたいという考えしかなく、それで使った後に酷い頭痛と吐き気に襲われまして。
で、慌てて帰還転移をして帰ってきたわけです。
なんとか帰って来れてよかったですよ。
虚界に戻ってきたという記憶が無いので、おそらく帰還転移が始まった段階で気を失ったんだと思います」
「危険な事をするものだ。
ご先祖様の仰るように、戻って来てから使った方が良かろう。
とはいえ<記憶の宝珠>を使って頭痛と吐き気に見舞われるというのは聞いた事が無いがな。
もしかしたら特殊な<記憶の宝珠>だったのかもしれん」
「中の記憶って、どんなものだったんだい?」
唯一のインキュバスであるエージュラさんが興味津々って感じで聞いてきたので素直に答える。
特に知られても問題も無いし、全く別の宇宙の話って感じだからね。
俺もよく分からない。
「宇宙船という物の艦隊と、宇宙怪獣なるよく分からない生き物の戦いですか………。
確かに訳が分かりませんね?
それよりも問題は<記憶の宝珠>で見られている事に気づいていた事でしょうか?
かつてあったという事は過去の出来事のはず。
にも関わらず過去の者が未来の者を知覚しているなど……」
「先程、魂の扱いが上手い者だと言っていましたから、<記憶の宝珠>の中に自我が残っていたのかもしれません。
その自我が過去の記憶と交錯して、そのような発言になった可能性はありませんか?
正確に過去の記憶を見ているという保証もありませんし」
「本人の記憶を追体験しながら、実は本人も記憶を追体験している可能性がある?
その種族は魂の扱いに長けていたから、その事に気づいて託した。
とも考えられますね」
「そもそも異界の中は分からない事だらけ、更には魔力が豊富であればある程に、こっちを殺しに来る危険地帯。
何れは我らも入らねばならぬとはいえ……」
ああ、やっぱり魔力が多いほどに危険地帯になるのか。
それで地球人類を中に入れたがっているならよく分かる。
中の情報も無いのに、最高位悪魔の人達が行くのは危険だ。
どんな地形に送り込まれるかわからない。
もしかしたら地形で殺しに来るかも。
そう考えると、碌に魔力も持っていない人間を送り込むのは正しい。
その中でも実力のある連中が、ゆっくりと異界を解き明かしていくだろうし、そうなると中の情報もかなり出揃ってるはずだ。
そしたら悪魔の人達も安全に中に入れるはず。
朝食を御馳走になった後、俺はグラドウェムさんに中庭へと連れて行かれ戦闘訓練を受けさせられた。
俺が弱い事が原因ではないんだけど、あの後で<追っかけ>の連中の話をしたのが原因だ。
それと中林とかいう奴らの話もだけど。
その前に一度タワーマンションへと戻り、10分ほど経ってから戻ってきている。
理由は動画の為で、早めに真実を明るみにしておく必要があったからだ。
特に女性が一人、既に戻っている可能性が高いからでもある。
そいつが無いこと無いこと喚き散らしている可能性が高い。
だからこそ、こっちも反撃の意味で動画を流しておく必要がある。
それを流したから戻って戦闘訓練を開始したわけだ。
魂の扱いに関しての知識と経験は手に入れたが、そうそう簡単に俺も使えるようになるわけじゃない。
結局は努力をしないと意味が無いからなぁ。
それとヴァンパイアだ。
アレにちゃんと勝てるようにならないといけない。
少なくとも、かろうじて反応できるっていう程度じゃ話にならないだろう。
きちんと戦って勝利できるようにならないと危険すぎる。
たまたま上手くいっただけ、それじゃ先には進めない。
進化の事もあるから更に先へと行きたいし、装備の事もあるから早急に強くなる必要がある。
2つ目の地形から厳しいし、なんといってもSPがまだまだ低い。
今の最大SPは57だけど、トップ層は500を超えているって聞く。
とてもじゃないけど比較にならない。
なので練習して腕を磨き、更には何度も挑戦してSPを多く持たないと先へは進めないだろう。
なので戦闘訓練は絶対に必要だ。
…
……
………
地球が夕方になったらしく、俺は一旦向こうへ行く事になった。
タワーマンションで休む事も必要だし、夜にも戻っていないというのは色々とマズい。
それに七尾さんも居るだろうしな。
グラドウェムさんが送ってくれたので、先ずはエレベーターでコンビニへ。
飲み物と適当なサンドイッチとお菓子を買ったら最上階へと戻った。
そして部屋のドアチャイムを慣らすと、ちょうど七尾さんが弁当を食べているところだったようだ。
コンビニのヤツじゃなくて、弁当屋のヤツ。
高いけど出来たてを渡してもらえるから、こっちの方が美味しいんだよなー。
高いから俺は買わないけど。
「おかえり。
妙に遅かったというか、戻ってこなかったけど………何かあった?」
「実は……」
アロハヌス家でもやった説明をすると、七尾さんにも呆れられた。
普通は異界の中で<記憶の宝珠>を使ったりはしないらしい。
俺って一回目も二回目も異界の中で使ってるんだよなぁ。
そういえば一回目の後に安全な所で使おうと考えたような……?
「とにかく異界の中は常に危険だから、決して中で<記憶の宝珠>を使っちゃ駄目。
後は荷物を入れる為の背負えるタイプの鞄は持って行った方がいいわ。
中で何を得られるか分からないからね」
「確かに言われてみればそうですね。
明日買いに行ってくるかな?」
「それにしても<追っかけ>はともかく、中林の一味がね……。
私が引退する少し前に名前が聞かれるようになった子達だったけど、そんな事をしていたとは思わなかったわ」
「今まで泳がされていたのか、それとも本当に見つからなかったのかは分かりません。
少なくとも連中が他の人も襲っていたのは間違いないと思います。
こいつも、何ていう言い方をしていたので」
「うーん………となると、動画に映らない抜け道があるという事よね?
もしくは動画部分を抜き出して、改竄してから戻してる?
それを見られてもバレないでしょうし……」
「そうなると、間違いなく他の悪魔が関わってるって事になりますけど」
「その可能性はあるんじゃないかしら?
だって「魔王様」が、他の悪魔の人達が人間を使って攻撃してくるって言ってたじゃない」
「それは、まあ……確かに」
迂遠な方法ではあるんだけど、疑心暗鬼にさせる為にそんな事をしてるんだろうか?
七尾さんの言う通り、確かに悪魔の人なら抽出とか書き換えとかは自在だろう。
そもそもあの人達が作ったものだし、その辺りの事は難しくないはずだ。
それをしてどうするんだ? とは思うけどね。




