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 Side:七尾はる



 流石に酷いとしか思えない。

 私は自分の借りているマンションの一室で憤(いきどお)りを感じていた。

 私もそこまで知っているわけではないけれど、それでも橘君がそんな事をする子じゃないのは分かっている。


 にも関わらず、強盗だとか強姦だとか、あるいは通っていた学校を破壊しただとかいう情報が流されている。

 どう考えてもあり得ないし、そもそもそこまで酷いなら探索者にはなれない。

 流石に犯罪歴がある者に認められている職業じゃないのよ、異界探索者は。


 しかも橘君はまだ中学を卒業してすぐ、つまり15歳か16歳でしかない。

 そんな子供を世間がイジメている、もしくは集団暴行をしているようにしか見えないのよ。

 そのうえ、その旗振り役は30や40の大人がやっている。


 見るのも悍(おぞ)ましいというか、醜すぎて嫌になってくる。

 テレビだって何を思ったのか、彼の家族構成などの情報を勝手に流しているし……

 それがさも正義かのようにやっているのだから、あまりにも気持ち悪くて吐き気がしてくるほど。


 私に対して色々な事をやっていたのもこういう人達なのだから、あれから何も変わっていないのがよく分かるわ。

 そもそも悪魔の人達がテレビ局を破壊したとはいえ、その中に居たロクデナシ達は今も普通に生きて同じ事をしてる。


 本当の悪魔はどっちなのやら、と思う光景でしかない。

 悪魔の人達は下らない事をする者が居たら、全力で潰しに行くもの。

 ある意味では非常に分かりやすい人達なのよ。

 人間というか、テレビやネットで無いこと無いこと囃(はや)し立てる汚さは持っていない。


 むしろ人間の方が遥かに汚くて醜くて悍(おぞ)ましい。

 これが現実なんだから、人間は悪魔以下だと言われるはずよ。

 現実に見るとハッキリ分かるくらいに人間の方が醜い。

 いえ、穢(けが)れていると言うべきなんでしょうね。


 かつて異界に挑戦していた頃なら、私が何かを言えばある程度聞いてもらえたんだけど………。

 今はアパートの管理人なだけだから碌な影響力も無い。

 それでも何とか助けられないものかな?



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:橘八重



 家電量販店まで来たのはいいが、周りから「ヒソヒソ」聞こえてくる。

 おそらくネットなんかで読んだ適当な情報を鵜呑(うの)みにしてるヤツだろう。

 どうでもいいから無視するけどね。


 それよりもビデオカメラを買って、ちゃんと証拠を残せるようにしておかないとな。

 そう思って色々と見ていくんだけど、ビデオカメラって高いのな。

 そのうえネットにアップするにはパソコンも要るしで、思っている以上にお金が要る事が判明。


 ネット接続に関しては、特殊な機器を用いればタダで出来るから良いんだけどさ。

 最上級のビデオカメラが一台で120万ほどするんだけど……高過ぎない?

 ちょっと引いて、っていうかドン引きしてる。

 一般の家電量販店で出していい値札じゃないだろ、120万って。


 「高いなぁ………とはいえ悪魔の人達が協力した特別仕様のビデオカメラなんだよ。

 これ以上のは今のところ無いっぽいから、これが一番良いんだろうけどさ。

 どうしよう?」


 俺が見ている一番高いビデオカメラはナノマシン搭載者用、つまり異界探索者用のビデオカメラだ。

 ポケットに入る程に小さく、体の中のナノマシンを介して自分の視覚や聴覚を記録する。

 つまり自分の目で見ている映像や、耳で聞いている音が記録できるという物になる。


 120万もする理由があるというか、120万で買えるという事すら安いと思えるほどだ。

 それに異界探索者用という事は、使うエネルギーは電気じゃなくてSDとなる。

 なのでいちいち充電する必要すらない、極めて便利な物なんだよなー。


 手で持つビデオカメラと違い、ポケットに入れて持ち運べばいいだけなので、使い方を知らない俺でも使える便利な物だ。

 しかしネットにアップするには加工というか、個人情報に配慮してモザイク入れたりしなきゃいけない。

 そしてそれにはパソコンが要る。


 俺は詳しくないのでよく分からないけど、ノートパソコンの一番高いのが79万って出てるな。

 これもメッチャ高い。

 とはいえ現状の最高モデルらしく、二年前のパソコンの3倍以上の性能を実現したらしい。

 どんだけ技術革新が早いんだよ、二年前の3倍っておかしくないか?


 色々見てると頭がおかしくなりそうだが、3個で240円の単3乾電池を見ると安心する俺は、きっと根っからの庶民なんだろう。

 急に身近な値段が見えたんで冷静になれたけど、メッチャ高いのを買うか、それとも普通の値段のを買うかに悩む。


 「どうしたもんかな?

 それでも映像がちゃんと撮れるのを持っておかないと、好き勝手をされてしまうしな。

 こっちから反撃する為にも、ビデオカメラはちゃんとしたのを持っておかないといけない。

 じゃないと好き放題をされてしまう」


 俺は悩みに悩んだ後で銀行に行きお金を下ろすと、一番高かった二つを買った。

 自分の身を守る為だから仕方ない、俺も泣き寝入りとかする気は無いんだ。

 テレビの奴らが好き勝手に物語を作るなら、俺がその裏をネットに晒してやる。




 非常に高い買い物を終えた俺は、適当な食べ物と飲み物を買ってから家へと戻る。

 その頃には既にビデオカメラをポケットに入れて起動していたので、俺は心構えをしながらオンボロアパートに戻った。


 そんな俺に朝の調子で話しかけて来るテレビ局の連中。

 こいつらを見ていると急にバカにしか見えなくなってきたな。


 「いやいや、やっと戻って来てくれましたか。

 さ、こっちへ来てインタビューを受けてください」


 「そんな約束してませんけど?

 いつ、俺がインタビューとやらを受けるって言いました?

 勝手な事を言わないで下さい」


 「またまたー、朝も言ったでしょ。

 ……お前の根も葉もない噂が流れ続けるぞ?」


 「それがテレビ局の本性? それともあんたの本性か? どっちにしても醜いな。

 それより俺は部屋に戻りたいんでさ、そこ退(ど)いてくれる?

 阻止する権利なんて、あんたらには無いだろうに」


 「………調子に乗るなよ、ガキ。

 さっさと来ないと生きていけないようにしてやるぞ」


 「あらら、これが電波ヤクザと言われる所以(ゆえん)か。

 怖いねー、こうやって散々今までにも一般人を脅して潰してきたんだろう。

 昔からテレビ局の背後にはヤクザがいると言われてたし、それは今でも変わってないみたいだ」


 「………」


 俺を殺さんばかりに睨んでくるが、俺はそれを受けているだけだ。

 特に睨み返したりもしていない。

 周りで撮影している連中も居るし、わざわざこの程度のヤツを睨む価値も無い。

 数分こっちを睨んでいたが、何を思ったのか背を向けて中継車みたいなのに戻っていった。


 俺はテレビ局のヤツが退(ど)いたので部屋の扉の前に立ち、鍵を開けて部屋へと戻る。

 ようやく戻ってきたが、なんでこんな無駄な事をさせられてるんだか? そんな思いが無くならない。

 正直に言って面倒臭いなと思う。


 とりあえず畳の上にノートパソコンを置き、買ってきた弁当と飲み物を押し入れの上に置く。

 そしてノートパソコンを開いて、一つ一つ確認しながら触る。

 よく分からないというか、初めてパソコン類に触るので全く分からない。


 ちなみに<デーモン2003>というOS? というのが入っているらしい。

 何の事かサッパリ分からないが、電源つけて少し待つとそんなロゴが表示された。

 ちょっとドキドキしてくるが、まずは壊さないように慎重に使っていこう。


 家電量販店の店員が言ってたけど、知識の無い素人が適当にポチポチして使えなくなる事が多いらしい。

 なので適当にクリックするのとかは止めた方がいいって言ってた。

 なんでもフォーマットの意味も知らずにやる人が居たりして困るそうだ。


 俺も分からないので聞いたら、どうやらフォーマットって言うのは、中身のデータを全部消してしまう事なんだってさ。

 そうすると何も出来なくなるので絶対にするなと言われた。

 やるともう一度OSというのをインストールする必要があると言われたしね。


 よく分からないけど、フォーマットというのは絶対にしない。

 そう覚えておけば大丈夫なはずだ。

 それじゃ早速色々とやっていこう。


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