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0014




 Side:橘八重



 俺はウェルモネヌさんに言われた通り、家を出て再び歌舞伎町に行く為に電車に乗る。

 それ自体は構わないんだが、頭が働かないなりに考えておかないといけない。

 向こうはサキュバスやインキュバス。

 こっちの心なんて簡単に読んでくる。


 つまり隠し事が出来ないんだ。

 俺には隠す事なんて無いんだけど、かと言って心を覗かれて納得なんてする訳が無い。

 でもなー……そう思った時にふと気づく。

 拳に魔力を纏(まと)ってたけど、あれを体というか心にやれば読心を防げるんじゃ………?


 ただの当てずっぽうだけど、何もしないより余程いいと思う。

 とはいえ魔力を使えないから、SDを纏(まと)うしかないんだけどね。


 何故これを思いついたのかと言うと、あの記憶の男性悪魔。

 妙な事に胸の奥か何かに魔力を纏(まと)ってたんだ。

 追体験の時には気にならなかったけど、よくよく思い出してみるとおかしい。

 だってそこに魔力を纏(まと)っても防御にならないんだ。


 防御にするには肉体に纏(まと)わなくちゃいけない。

 にも関わらず胸の奥の方だけなんだから、どう考えても変なんだよな。

 そして俺は、それこそが心を読ませない為の方法なんじゃないかと考えた。


 つまりサキュバスやインキュバスは、心を読まれない為に当たり前のようにやってるんじゃないかってね。

 自然な事だから、あんな戦闘の最中に胸の奥なんかに魔力を使ってたんだ。

 そう考えると辻褄が合う。


 強引だし何の根拠もないけど、それでも可能性があるのがこれぐらいしかない。

 仮に咎(とが)められたら、記憶の男性悪魔もこうしていたと言えば言い訳は済む。

 それが事実である以上、俺の心もそう言うからな。

 読まれたって問題ない。


 歌舞伎町に着いた俺は、すぐに鳥居に入ろうとして止められた。


 「おいおい! お前倒れてたヤツじゃねえか!

 なんでまた異界に行こうとしてやがる。

 明後日ぐらいまで大人しく寝てろ」


 「すみません。行くのは異界じゃなくて虚界です。

 アロハヌスさんに虚界まで来るようにと言われまして」


 「アロハヌスぅ? なんで第四位魔性貴族のアイツらが、お前を呼ぶんだ?」


 「あー、そのー……言っていいのか分からないので……」


 「んん?

 ………お前さんは異界に行ったのが初めて、となると中で鉢合わせはまず無いな。

 となると………アロハヌス家は次期当主が行方不明だったはずだ。

 つまり<記憶の宝珠>でも手に入れたか?」


 「………」


 「図星かよ。

 上手く心を隠せているようだが、それも記憶から手に入れたな?」


 「は、ははははははは………」


 完全にバレてる。

 隠せてはいるようだけど、普通に見抜かれてるじゃん。

 駄目だ、こりゃ。


 「心を隠せても自分でボロを出してちゃ意味ねえな。

 ま、それなら仕方ねえ。

 あのジュデアル・アロハヌスの最期だ。家の者も聞きたいだろうさ」


 「お知り合いですか?」


 「ああ。オレの名はデヴィラド・グルデスタ。

 第一位魔性貴族グルデスタ家の者だよ」


 「第一位!!」


 「まあな。とはいえ当主は姉貴だから、オレはフラフラ遊んでるだけだ。

 それはそうと早く行った方がいいぞ。

 ウチは割と寛容だが、アロハヌス家は色々と厳格でウルセー家だからな」


 「あ、はい。それじゃ、行ってきます」


 「おお、気を付けてな」


 挨拶の後、俺は急いで鳥居の中心にあるピンク色の波紋に飛び込んだ。


 「………大丈夫かねえ、あいつ。アロハヌス家は面倒臭い事で有名だぞ。

 最悪を考えて女王陛下に情報を上げておいた方がいいな。

 あいつは記憶からだが上手くSDを使い熟しているみたいだし、このまま生き残ったら伸びるヤツを殺されても困る」



  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 虚界へと来た俺は、周りをキョロキョロしながら歩く。

 ウェルモネヌさんは来たら誰かを迎えに出すと言って


 「うわぁ!?!!?!」


 いきなり目の前にメイド服の女性が現れたので、俺はのけぞるように驚いてしまった。


 「貴方が次期当主様の記憶を見たという人間ですね?」


 「あ、はい。そうですけど……」


 そう返事をすると、いきなりメイド服の女性に両肩を掴まれる。

 いきなりだったので驚いたが、その一瞬後には大きな屋敷の前に立っていた。


 「えっ? どういうこと?」


 「こちらです。ついてきて下さい」


 そう言ってさっさと歩いていくメイドの女性。

 恐ろしいほどに無表情で、そういうキャラってアニメとかに居るけどさ、リアルに居たら普通に怖いだけだ。

 冗談でも何でもなく、常に無表情って怖いんだよ。

 マジで。


 俺は言われた通りについていき、そして屋敷の中に入った。

 西洋的な屋敷だけど、バカでかいのは貴族だからだろうか?

 とにかく粗相をすると殺されかねないので、出来得る限り愛想よく答えてさっさと帰してもらおう。


 そのまま屋敷の中をついていくと、とある廊下にズラッとインキュバスの人とサキュバスの人が並んでいた。

 執事と侍女というかメイドって感じだけど、なんでこうもズラッと並んでるんだろう? 物凄い圧迫感がある。

 何というか、既に貴族のマウンティングが始まってる感じだ。


 コンコン


 「お客様を、お連れしました」


 「入れ」


 「失礼いたします」


 ガチャッ


 そういう挨拶があって扉を開けるのは分かるけど、マジもんの貴族だって改めて分かった。

 正直に言って庶民とは次元が違う感じだ。

 豪華なシャンデリアとかじゃなく、何かの魔法的な灯りがそこかしこに浮かんでて、部屋をボンヤリと幻想的に照らしてる。


 その割に壁にはガラスなのかクリスタルなのか分からない物が付いていて、それが光を反射して余計に部屋を美しく照らしている。

 キラキラじゃない所が上品で、これが貴族なんだと分かる部屋だ。

 足元にはよく分からない絨毯とかカーペットが敷いてある。


 「貴方があの子の記憶を拾ってくれた子ね。私は正妻のフューディテよ。

 娘が愚かな事をしたようでごめんなさい。

 トムネアス家のお嬢さんから抗議が来て発覚したのよ。

 呆れるやら何やらと言ったところね」


 「は、はぁ………そうなんですね」


 「そちらの国には貴族が居ないと聞くし、その辺りは分からないから仕方ないのだろう。

 挨拶が遅れたが、我がアロハヌス家当主のシャルヴィオ・アロハヌスだ」


 「あ、はい。俺うぇ!? 女性!?」


 「そうだが? 何か問題があるのか?」


 「い、いえ、女性当主なのに正妻の方が、あの、その………えぇ?」


 「ああ、そういう事か。

 人間は男と女でしか子を為せないから不思議に思ったわけだ。

 我らのような悪魔は男と女でなければ子を為せぬほど、軟弱な存在ではないのだよ。

 君達がSDと呼ぶ物などがあれば子は為せるのだ」


 「な、なるほど。

 そうなんですね……知りませんでした」


 「うむ、素直に教えを受けるはいい事だ。

 さて、他の者も挨拶を」


 その後は色々な人から挨拶を受けたが、名前を覚えるのが大変だよ。

 側室の名前はベヌフォムという方で、その長女がポラセール、次男がエージュラという名だった。

 ちなみにこの長女が次期当主の有力候補みたい。


 悪魔が当主を決めるのは実力主義で、弱い者は絶対に後を継ぐ事が出来ないらしい。

 ある意味で徹底した実力主義。

 それこそが悪魔の貴族家だった。


 「さて、挨拶も終わったし、そろそろあの子の事を聞かせてもらおう」


 御当主様、つまりシャルヴィオさんに言われるがまま、俺はあの時に見た光景を出来るだけ思い出しつつ細かく語る。

 自分が追体験した事だからこそ語れる部分もあり、質問を色々と受けたが、その度に一つ一つ答えていった。


 「肉と骨で出来た戦車な。

 戦車というのは地球という所の資料で見た事がある。が、異界の中に左様な場所があるとは聞いた事が無い。

 あのバカ息子め、どこまで奥に行っていたというのだ?

 それとも運悪く、早くにそんな場所へと連れて行かれたか?」


 どうやら、あのグロテスクな空間は貴族家でも知らないようだ。


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