0125
Side:七尾はる
「ええ、そうよ。
貴女の口からそれとなく、多少でいいから伝えてちょうだい。
詳しい話が聞きたいなら、SCCに居る私の所まで来るように。
そうエルトアリアに伝えてくれれば、あの子なら来るはず。
そろそろあの子に真実を教えておかなければいけないのよ。
また魂が穢れたら、おかしな事を始めかねないし」
「おかしい事………実験とかですか?」
「そう。あの子が最強なのも様々な実験から知り得た、様々な情報を持つからでもあるの。
そしてその情報を元に作られた物も、他の悪魔にとっては忌むべき物となっているわ。
虚界十三傑は気にしてないけれど、それ以外の高位悪魔は気にしてるの。
自分達を羽虫のように滅ぼすエルトアリアを」
「それは………貴女もですか?」
「私? 私はそんな事なんて思わないわ。
そもそもエルトアリアが長老方を滅ぼした日、あの日に私も滅ぼされると思っていたもの。
なぜかエルトアリアは私に何もしなかったけど、私は長老達に近かったからね。
本来なら滅ぼされていても不思議じゃないのよ。
その長老達の実験内容も知っているくらいだし」
そういえばそうね。
でも魔王様は何もしなかったんだから、それでいいんじゃないの?
そもそも話を伝えるのは分かったけど、それと私の進化にいったい何の関わりがあるんだろう?
「ああ、それね。
伝えてくれるなら、進化の手がかりを報酬として渡そうかと思って。
エルトアリアなら気づかないでしょうけど、私は貴女の進化に必要な物は分かってるから」
それは確かに魅力的だ。
私はそれなりに早く<進化の部屋>には到達していた。
にも関わらず、まったくといっていい程に進化の兆しもなかったのよね。
これでようやく進化できるかもしれないとなると、断る理由はどこにもない。
「断らないって事は伝えてくれるという事ね?
それじゃあ、こっちの部屋に来てちょうだい」
そういえばこの豪華な部屋、横に扉があったのよね。
つまり部屋がもう一つあるというわけで……いったい何の部屋なのかしら?
ガチャッ!
「……………ベッドルーム?」
「かつてここがテレビ局だった時に、性接待なんかに使われていたそうよ。
ここなら外部に情報は洩れないし、知っている者は知っている公然の秘密だったみたいね」
なるほど。
女子アナの性接待とか言われるのは、こういう所で行われてたのか。
外部に洩れたりしないし、都合が良いのでしょうね。
それはともかく、この部屋に何故連れて来られ!?
「うむっ!? ちょっ、きゃぁっ!! なにをす、あむっ!?」
ちょっと冗談でしょ!?
ベッドに押し倒された後でキスされて……って、ちょっと、そこは!?
…
……
………
「なかなか、良かったわー。
随分と溜め込んでたようだから、美味しそうって思ったのよねえ。
予想通りで本っ当に美味しかったわ、御馳走様」
「うう………お嫁に行けない」
「人間ならそろそろ危ない歳なんだから、駄目なら貰ってあげるわよぉ?
貴女、予想外に好い味出てるし」
「あ、味って言われても……」
「まあ、悪魔にしか分からない比喩的なものよ。
それはともかく、行為の最中に契約印を刻んでおいたから、これで進化への鍵は手に入ったわ。
後は貴女がどうするか次第ね」
「えっ? <共魂の契約印>ですか?」
「違うわよ。
これも古くて特殊な契約だけど、魂を一つにするあの契約とは違うわ。
これは<卑欲の契約印>という、肉体同士を強く結びつける契約よ。
簡単に言うと、お互いの性欲を解消する間柄という契約ね」
「ええっ!?」
いや、私そんな事を求めてないんですけど?
「あんなに煮詰めてグズグズになっていたような欲求不満を抱えておいて、いったい何を言っているのかしらね、この子は?」
…………まあ、女も二十台の後半にもなれば色々とあるものだし、独り身なら仕方がないと思うんですけど?
「まあ、そうでしょうけどね。
っと、それはともかく貴女に必要だったのは、魔力に馴染んだ肉体よ。
だからこそ<共魂の契約印>ではなく<卑欲の契約印>を結んだんだもの。
私の肉体と近くなれば、それだけ魔力に馴染んでいくわ」
「はあ………でも私、<正統なる鬼の血筋>と言われたんですけど、という事は魔力じゃなく妖力とかでは?
それともアレは魔力と同じなのかな?」
「その妖力というのがよく分からないけど、貴女に必要なのは魔力に馴染んだ体で間違いないわ。
今後も暇があったらエルトアリアの部屋に行くから、そこで待ってなさい。
行為を行えば行うほどに馴染んで行くでしょう。
そうすれば進化できるから、焦らないようにね」
「いえ、焦りはしませんけどっ!?」
話している最中にまたキスされた。
別にイヤじゃないんだけど、こうも熱烈だと勘違いしそうになる。
「チュッ! ……せっかく契約したんだもの、簡単に死んでもらったら困るのよ。
だから生きなさい?」
「え、ええ。
もちろん私だって死にたくないですけど………これって普通は女同士でする事じゃないですよね?」
「私は色欲の悪魔よ?
人間みたいに肉体に依存していないから、特に何の問題も無いわね。
子供も作れるし」
「あ! そういえばそうなのか………悪魔の人達は男同士でも子供が作れるから、一部のアレな人達が騒いでいたし」
「そういえば、そんなの居たわね。
私には何がいいのかサッパリ不明だし、なんかキラキラしていたのが気持ち悪いのよね。
男同士でも、恋愛はもっとドロドロしているものよ?」
「まあ、現実の恋愛と考えれば、日本にいるそっち系の人達も実際はそうでしょうけどね。
あれらは単なる読み物ですし、そういう女性の妄想を具現化した物でしかありませんから」
確かに恋愛と考えれば、あんなキラキラしてるなんてあり得ないのよね。
男と女でもドロドロするし、お尻の愛人が当たり前だった昔だってドロドロしてたって聞くもの。
もっと愛憎渦巻く物語じゃないとおかしいのよね。
男と女の間ぐらい醜くないと。
「それはともかくとして、<共魂の契約印>と違って肉体に強く出るから気をつけなさい?
今の貴方の身体能力は思っているより上がってるわよ」
「えっ? <共魂の契約印>より………?
という事は<共魂の契約印>って、そんなに身体能力が上がらないんですか?」
「あれは身体能力を上げるというより、限界を引き上げるが正しいんだけど………もしかしてエルトアリアも知らないの?」
「ええっと………初めて聞きました」
「…………あの長老達が異常だったと言うべきか、それともエルトアリアの興味が無かった事が原因か。
どちらかは知らないけれど、これは私の持つ知識も教えておいた方が良さそうね?」
どうやら魔王様も知らない事が多いみたい。
あの魔王様でもかー………?!
「うむっ!? ん。ちゅ………はぁ……あむ」
「チュッ! ……私が目の前に居るのに、随分とエルトアリアの事を考えるわねえ?
これはちょっと、私の良さをじっくりと思い知らせてあげないといけないわ」
「えっ? ちょ、ちょっと! また!?」
「当たり前でしょう!
私の事しか考えられないようにしてあげるわ!!」
「えぇー………」
この人、急に何を言ってるの? それとこれとは関係ないでしょうに。
単に虚界十三傑で最強の魔王様でも、知らない事があるんだなと思っただけじゃない。
もしかして私、嫉妬されてる?
「自分で言うのもなんだけど、嫉妬とは違うわね。
あいつらになる気なんて無いし。
それに、どちらかと言うと愛欲と言った方が正しいわ。
だって誰かに渡す気なんて無いもの!」
魔王様と同じ村の出身で同じように作られたんだし、魔王様の橘君に対する執着と似ているような……?




