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 Side:橘八重



 動画が流れた次の日、俺は朝から配信を始めている。

 ゲームはしてなくて、エルトアリアさん、エギルターサさん、グラドウェムさん、そして七尾さんが居る。

 その中で早速コメントに枝の事が書かれた。


 『あの魔法が出る枝って量産する事は出来ないんですか?

 アレがあれば異界探索は楽になると思うんですけど……』


 「量産出来るか出来ぬかで言えば、出来ると答えよう。

 しかしおそらくだが、どこの悪魔もそれは許容すまい。

 理由は人間同士の争いに使うからだ。

 我ら悪魔に対してアレを持ち出しても意味は無い。

 そもそも大した威力でもないし、防ぐ必要もないからな」


 「とはいえ私達からすれば、いたずらに人間の数が減るのも困る訳です。

 せっかくの食料が無駄に減るのも困りますし、虚界の各国でも人間牧場の建築は始まりました。

 今は各国ともに建設と家畜候補を連れて行く段階でしょう」


 「最初の候補は重犯罪者でしょうが、徐々に軽度の犯罪でも連れて行くと思いますよ。

 その方が良いでしょうし、人間の作った刑務所で悠々自適にしている者とか居ますからね。

 そういう者が確実に罰を受けるとなれば、悪い事ではないでしょう?」


 グラドウェムさんがそう言うと、拍手喝采みたいに大量のコメントが書かれた。

 誰も彼もが罰が足りないと思ってたのがよく分かる。

 なんで自分は真面目に生きているのに、あんな犯罪を犯したヤツが出所してのうのうと生きてるんだ? という思いは誰だって持つ。


 それに何度も何度も犯罪を犯していながら死刑にならない連中もだ。

 あんな奴らを生かしているから、いつまで経っても被害を受ける人が後を絶たない。

 そう思う人は一人や二人じゃないってよく分かる。

 社会の与える罰が緩すぎたんだ、今までは。


 『罰が大きく強くなるのは良い事ですし、虚界に行ったらこっちに戻れないのはありがたいです。

 でも、家を落として焼き殺したアレは犯罪では?』


 「掲示板とやらに書いていた者もいたが、異界の中は日本ではない。

 ならば異界の中の出来事に日本の法律を持ち出す事自体がおかしいのだ。

 ああ、人道とか言うなよ? 縊(くび)り殺したくなる」


 「そもそも人道とか言うなら、彼以外の全ても批判し続けなければおかしいですからね。

 その割には叩きやすい相手を叩いているだけの者しか見えませんし、物が言いたいなら我々悪魔の前で言ってみればいいのですよ。

 その内面を見て思想信条を貫けているなら納得しましょう。

 貫けているならね」


 『それは無理。

 こういう綺麗事を言うヤツは、いっつも口先だけでしかない。

 何の行動も努力もしないで綺麗事を言ってるんだけど、とどのつまり相手を見下したいだけの差別主義者ばっかりだ。

 反吐が出る』


 『分かる。

 同じ犯罪でも男性がしたら叩いて、女性がしたら擁護するヤツとか居るしな。

 同じ犯罪なのにだぜ? そういう奴らが居る以上、綺麗事を言うヤツなんて信用できるかよ』


 『お前達になんて聞いてない!!』


 「我らはとっくに答えてやったし、貴様らはどこの誰かを把握されている事を理解しておけよ。

 その情報は警察などに与えてやってもいいのだぞ?

 そうすれば警察が貴様らを捕まえ、虚界に送ってくるからな」


 エルトアリアさんがそう言うと、コメント欄で言い合いをしていた奴らは黙った。

 流石に虚界に連れて行かれたくはないだろうし、黙るしかないのは当然だ。


 「我らとしては八重が行った事は何らの罪に問われる事は無いと思うておる。

 なにより日本の歴史を見れば、略奪など幾らでもあった。

 殺して奪うなどというのもな。

 己らにだけ都合のいい事をホザくのは止めよ、我はそのようにしか思わん」


 「私達からすれば略奪者の子孫でしかありませんしね。

 そんな奴らが何を言っているのか? で終わる話なんですよ。

 八重様が人道的に問題だと言っても、それは何らの法律にも抵触していない事でしかありません。

 だったら貴方がたの祖先を揶揄されるのも変わらないのです」


 「自分と祖先は違うと思っているかもしれませんが、貴方の祖先が誰かを殺して奪った食料の御蔭で、貴方まで命が繋がっているのです。

 完全に否定する事など出来ませんし、法律で問題のない事を問題視するとはそういう事ですよ?」


 『まあ、当時は略奪が当たり前なうえ、取り締まる法もあったけど有耶無耶だもんなぁ。

 橘みたいにそんな法なんて絶対に無い異界内だと、むしろ祖先よりはマシか?』


 「一応言っておくと、人間達が<発掘地形>と呼んでいる場所だが、我らは<異界内異世界>と呼んでおる。

 異界の中は無数の世界に繋がっていてな、おそらく八重が行ったのもその内の一つであろう」


 『ならば、そこにはそこの法があるでしょう!!!』


 「それをどうやって把握するのだ?

 言葉も通じない相手に、どのような法律があるか聞けるのか?

 確かに八重は一方的に家を撃ったが、一方的に撃ち殺されておる可能性もあった。

 八重が絶対に悪いと妄想しておれば、そういう事は考えられんのであろうがな」


 『さっきから喚いているのって正義警察か?

 そもそも橘自身が悪くないとは言ってないんだから、仕方のない事だったで終わらせるしかないだろ。

 それが気に入らないヤツは橘が行った地形まで行って、現地の人に法律を聞いて来いよ』


 「まあ、それが一番正しい行いだ。

 八重も異界内が異世界に通じているとは知らなんだし、知った時には頭を抱えていたからな。

 それに<発掘地形>で一方的に相手を殺して物を奪ったのは八重だけではない。

 他にも山ほどおるぞ? それら全てを問題視して糾弾(きゅうだん)しろ。

 話はそれからだ」


 『そういえば、今までに何百回と<発掘地形>は出て来てるしな。

 今回たまたま橘が行った所が人間型だったっていうだけで、今までの場所だってそこで生きている知的生命体を殺して奪ってるわけだ。

 確かに魔王様が言う通り、全てを問題視しないと辻褄が合わないな』


 『正義警察か何かは知らないが、既に把握されているだろうし、そのうち消えるんじゃね?

 放っておきゃいいさ。

 悪魔の人達に喰われたいみたいだし』


 『私は弁護士の立場として言いますが、確かに彼を裁く法律が無いのは間違いありません。

 日本の法が届くのは日本の領土内だけです。

 他国には他国の法律がありますし、何より今までの<発掘地形>での行動は問題視されていません。

 法の不遡及(そきゅう)と同じです』


 『法律が適用される以前の犯罪については、新しく出来た法律を遡及(そきゅう)して適用してはならない。

 一応は近代法の大原則と言われてるはず』


 「なら余計に八重様は問題ありませんね。

 何より八重様を人道で責めたてるなら、今まで<発掘地形>で略奪してきた全ての者を責めなければいけません。

 先程から喚いていた者は早くそれをしなさい」


 グラドウェムさんがそう言ったものの、返答が無いところ見るに、おそらく逃亡したんだと思う。

 自分が正義だと思い込み、悦に入って叩く人って本当に多いな。


 「己を正義と思い込んで、他者を叩いて悦に入る。

 むしろ先程のようなヤツほど<人道に悖(もと)る>のではないのか?

 我は不思議で仕方ないがな」


 『魔王様の言われる通りなんですけど、頭のおかしいのはどこにでも居るんですよね。

 気持ちの悪い思想を撒き散らしている者も居ますんで』


 「我らが潰した者の中にも左様な者がおったな。

 今頃は尻を掘られているか、クライヴィッセル卿に愛でられているか、もしくは他の悪魔から拷問を受けておるであろう。

 別に色欲の国といえど、他の種の悪魔がおらぬわけではないからな」


 『普通にケツを掘られるか、それとも女装させられて愛でられるか、それとも拷問されるか。

 どれが一番マシなんだ? 人によるのかもしれないけど……』


 『拷問よりもケツの方がまだマシかな? 流石に拷問は……』


 「まあ、クライヴィッセル卿を真っ先に外す気持ちは分かります。

 インキュバスでも帰って来なくなる者が居ますからね」


 そういう意味では確かに一番恐ろしいな。

 それにしても、思ったよりも俺に対する風当たりが強くないみたいだ。

 エルトアリアさん達が居る御蔭なのと、俺を叩くと今まで<発掘地形>に行った探索者全員を叩かなきゃいけなくなるからかね?


 俺が嫌いでも、別の探索者のファンという事もあるからな。

 むしろファンだからこそ、ポッと出で注目されてる俺を叩きたかったのかもしれない。


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