0012
Side:橘八重
俺は救護所の責任者であるリティオルさんに挨拶した後、救護所を出て家へと戻る。
SDを売るにはSCCに行くしかないんだけど、SDをそのまま持ち続ける事は可能だ。
ちなみにSCCに行かなければ売れないのは、安全にSDを取り出す為には専用の魔機械を使うしかないからだ。
無理矢理に奪う事は不可能じゃないらしいけど、出来る悪魔は限られているらしい。
相当に高位の悪魔しか出来ない事なんだと講習で聞いた。
俺は電車に乗り、文京区のオンボロアパートへと帰る。
今日は疲れたし、明日はゆっくりしよう。
普通の異界探索者は一度行くと最低でも2日は休むと聞く。
とはいえ今の疲れを考えると、その通りだとしか思えない。
それぐらいに疲れた。
特に精神的な疲れが重いからか、なんだかボンヤリした感じがしている。
首を絞めて持ち上げられた時には強く反応したけど、命の危険が無いとボンヤリとしてしまう。
これが精神的な疲れなんだろうが、初めてだからか結構キツい。
思っている以上に頭が回らない気がする。
そんなボンヤリした状態で文京区に戻り、オンボロアパートの近くのコンビニに行く。
適当に飲み物と弁当を買ったらアパートへ。
「お帰り。どうやら無事に帰ってこれたようね。
お疲れ様」
「はい。なんとか帰って来れました」
俺に挨拶をしてきたのは、このオンボロアパートの管理人である七尾さんだ。
正しくは七尾はるという、元探索者の人となる。
ちなみに大きな方を漏らして引退した方でもあるんだけど、それは本人の前で考えないようにしてる。
「なんだか頭がボンヤリするので、今日は部屋で大人しくしています」
「そう。となると早めに帰ってきたのね。
明日になれば回復しているはずだから、今日はゆっくりしているのがいいでしょう。
ただし寝ちゃうと、夜に寝られなくなるから気を付けて」
「はい。ありがとうございます」
俺は最後に会釈をして、部屋へと戻った。
ちなみに木造2階建てのアパートだが、俺は1階の入り口近くに住んでいる。
一応外壁というかアパートには囲いがあるのだが、俺の部屋は入り口から真っ直ぐだ。
なので車とかが突っ込んで来たら、俺の部屋まで突っ込んでくる。
正直に言って怖いんだが、ここが俺に宛がわれた場所なのでどうしようもない。
カチャカチャ、ガチャン!!
………ガチッ! ギギィーーー
鍵を開けてドアノブ回して入るんだけど、相変わらず凄くきしんだ音を出すんだよなぁ、この扉。
入居して一ヶ月くらい経つけど、未だにきしむこの音には慣れない。
帰ってきた我が家は四畳半が一室と、上下二段になった押し入れだけだ。
その押し入れの下段に着替えとかが入っていて、上段には電子レンジとかが置いてある。
格安の中古で買ってきた物だけど、これがないと弁当が温められないから買うしかなかった。
流石に冷たい弁当は美味しくないので、レンジだけは渋々買ったんだ。
お金が勿体ないなぁと思ったけど、値段は3700円だったから飛びついたよ。
とりあえず使えるんで助かってる。
俺としたら温められるだけで十分だし。
ちなみに中古の理由は長年使われてきたのと、温める機能しかないからだ。
最近の高いのは色々な調理なんかが出来るらしいけど、男の一人暮らしでそんなの必要ないしね。
おまけに四畳半のアパートで料理なんてしない。
だってキッチンなんて付いてないし。
共同キッチンは付いてるけど、今や下手に自炊するより弁当買ってきた方が安くつく時代だからなぁ。
このアパートでも、ほとんど誰も使っていない。
昔は必要だったんだろうけど、今は無用の長物と化してる。
お湯が欲しけりゃ電気ケトルかポットを買えば済むし。
むしろ水を入れに行く時に使うくらいだ。
俺は弁当を押し入れの上段に置き、買ってきたコーラのキャップを捻って開ける。
魔法科学が出来ても便利なペットボトルは何も変わっていないし、他にも変わっていない物は多い。
俺は体の中の情報化端末を呼び出し、適当な掲示板のスレを読んでいく。
この情報化端末はインターネットにも繋げるし、探索者はタダで使える。
代わりに使用するのにSDが必要になるんだけどな。
最初にSDを支給されて使った時には感動したよ。
だって初めてのインターネットだったし。
そもそもここ近年で一気に普及してきたのがインターネットだ。
4年前である1999年の年末に悪魔が来て、そしてその一年後にあのクソ親が死んだ。
そしてその後に三年間中学に通って今の俺。
インターネットは2001年ごろから一気に普及したとか言われてる。
元になった物はアメリカが持ってたらしいんだけど、それを悪魔が全世界に公開。
そして悪魔と人間の科学者が知恵を結集して、今の情報化端末とインターネット網を整備した。
なんでもSCLという物で繋がってるらしく、物質とか空間を跳躍してるんだってさ。
意味がサッパリ分からないけど、魔法科学ってそんなもんだ。
バカが考えたって分からないし意味が無い。
ま、人間の科学者も理解不能らしいけどね。
魔力とか魔法に関する知識がほぼ無いから。
「うぇ………俺の動画が<せきらら動画>に早速上がってるけど、探索者アンチが叩きまくってるじゃん。
とはいえ掲示板の方はあんまり……チッ!」
いちいちムカツクが、どうやら俺の声を聴いて、小中と同じ学校だったヤツが情報を晒しやがった。
俺は既に実家を出たからいいが、実家の祖父母に何かしてみろ。お前らの情報も晒してやるぞ。
そんな事を考えていたら急に書き込みが無くなったのか、そいつを叩いていた奴らも潮が引くように話題にしなくなった。
ついでに俺の個人情報も消されてるな? おそらく悪魔の人が消したんだろう。
インターネット空間って、そもそも悪魔に完全に支配されてるからなぁ。
だから匿名なんて有って無いようなものだ。
悪魔の人達は全て分かってるし、いつでも特定できる。
しかもその特定は一瞬で可能らしいから、使えないように遮断されたんだと思う。
ネット空間にアクセス出来ないようにするのも自由自在らしいからな。
余計な事を書いたバカが悪い、で終わる話だ。
それよりベテランの中でも嫌われてる人が動画の方に書き込んでるな。
相当に叩いてるけど、誰も乗らないから諦めたらしい。
下手な戦い方を教える形でバカにすれば、悪魔達も目くじら立てないのを知っているからだろう。
といっても、最後の方の【疑似魔法】から何も書き込んでない。
おそらくアレは馬鹿にできないからだな。
俺もまさか魔性貴族の人の【魔法】だとは思わなかったけど、それぐらい強力ならあんなにSDを消費するのも仕方ないんだろう。
実際に肉骨戦車が一撃で倒せるくらいだし、相当の高火力なのは間違いない。
他のスレ、うん?
目の前のARに通信許可要請が表示されてる。
いったい誰からだ? 俺はまだ自分の端末を誰にも教えていないはずなんだが……
「………もしもし、どちら様でしょうか?」
「………私だ、ウェルモネヌ・アロハヌスだ。
先程は申し訳なかった。
冷静になってみると、碌な事をしていないのを思い出してな。
あんな事をしておきながらと思うかもしれないが、頼みがある」
「……なんでしょう?」
「警戒するのは分かる。
だが、頼みというのは難しい事ではない。
我が家に来て兄上の事を話してほしいのと、兄上から受け継いだであろう【火炎嵐】を【疑似魔法】として使ってくれ。
兄上の【火炎嵐】には兄上特有の癖があるらしい。
それを見れば兄上かどうかは分かるそうだ」
「はあ、分かりました。
しかし……場所が分かりません」
「心配するな、虚界に来てくれればいい。
こちらから迎えを出すのですぐに分かるはずだ」
「虚界にですか………分かりました」
「すまないな。
あの時に冷静であれば、すぐに虚界に来てくれと言えたのだが……」
「いえ、すぐに行きます。
それじゃ移動しますので」
「重ね重ね、申し訳ない」
そう言って通信が切れた。
こちらから切るとまた怒られそうなので、切りたくても切れなかったんだよなー。
さて、面倒臭いけど、行きますか。
心を読まれるから、しっかりと心を強く持たないと殺されかねない。
流石に異界でもないのに、命の危険があるとは思わなかったよ。
とはいえ、交通事故なんかも変わらないのか。
………本当に理不尽って碌でもないな。
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