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 Side:橘八重



 目を覚ますと、そこは見慣れた天蓋だった。

 つまり、またもやエルトアリアさんのベッドで俺は寝ていたらしい。

 そして眠る前の記憶は朧気にあるくらいだ。


 確か………異界の中で<発掘地形>に行って、それでクソドワーフを殺したんだっけ?

 で、手に入れた指環を着けたら………そう、心臓が痛いぐらいにドクドク言い始めたんで、慌てて外に出たんだったはず。


 その後エルトアリアさんに会って………どうしたんだ?

 ここで寝てるって事は無事に助かったのは事実だろう。

 とはいえ……気絶したのかな?


 ガチャッ!


 「ようやく起きたか。

 魂の反応が変わったからすぐに気づいたが、随分と寝ていたな。

 まあ、我とコヤツも含めて連続だったからな。

 流石に精力回復の指環を着けていても時間が掛かろう」


 「起きたみたいだけど、素晴らしかったわね。

 強固な理性を持って、自分から襲って来ないって聞いてたからどうかと思ってたけど、完全な獣(けだもの)じゃないの。

 素晴らしかったわ!」


 「は、はあ………」


 何を言ってるんだか、意味が分からない。

 俺が寝ていた間に何かあったんだろうか?


 「正確に言えば、寝ていたのではなく気絶していただけだ。

 八重が着けた指環は、着けた本人の性欲を過剰に増大させて暴走させる指環だった。

 で、その増大した性欲で暴走、我が襲われたという訳だな」


 「えっ? ………す、すみませんでしたーー!!!」


 俺は思わずジャンピング土下座に移行した。

 性欲が増大したって言われても、女性を襲うとか完全に犯罪じゃないか。

 何やってんだ、俺!!


 「何か勘違いしておるな?

 そもそも八重が襲って来たところで、我が簡単に捻り潰せるに決まっておろう。

 それをせぬという事は、最初から抵抗する気は無かったという事だ。

 そもそもあれだけ襲えと言っておったのに、襲って来ん八重が悪いのだぞ?」


 「そうそう。

 女性側が襲ってきてって言ってるのに、襲わないのは礼儀に反するわよ。

 人間だとそうなんでしょうけど、悪魔としてはバカにされたというか、侮辱されたと思われても仕方のない事だと理解しなさい」


 「ええっ!? いや、侮辱するつもりなんて……!!!」


 「だから人間だとそうなんでしょうけど、って言ったのよ。

 誘って手を出さないなんて、お前には手を出す価値も無い。

 そう言ってるのと変わらないの。

 人間の価値観だと違うんでしょうけど、悪魔には悪魔の価値観があるから気をつけなさいね」


 「は、はい!」


 まさかそんな意味に受け取られるとは………全く知らなかった。

 知っていても俺から襲うってハードルが高すぎる気がするけど、それでも………?


 「なんだこれ? 太ももに模様がついてる?」


 「ああ、それは私の施した契約印です。

 女王が契約された後で確認すると、未だに魂の空きがありましたので」


 「そうそう。ついでに私も契約しましたよ」


 「うぇっ!? エギルターサさんとグラドウェムさんもですか!?

 ………それって、俺大丈夫なんですかね?

 もしかしたら耐えられないとか、寿命が削れるとか……」


 「あるわけなかろう。

 足りないのであれば、大した助力も出来ぬほど契約が小さくなるだけだ。

 それより、あれから虚界で2日ほど経っておる。

 流石にお腹も空いておるだろうから、地球に戻る準備をせねばな」


 「2日も経ってたんですか? そんなに寝てたとは思いませんでした。

 いや、気絶してたんだっけ?」


 流石に2日も気絶するっていうのは、ちょっとマズかもしれない。

 日本に帰ったら一度病院に行った方がいいかな?

 色々と検査をしてもらった方がいいかもしれないし……


 「健康に問題はない。

 さっきも言ったように指環で暴走して我を襲ったのだが、その後に気絶しているそなたに精力回復の指環と性欲暴走の指環を着けたのだ。

 で、今度は契約を終えた女王を襲わせた。その次はエギルターサで、最後がグラドウェムだ。

 だから2日経っておる」


 「………」


 あれ? もしかして、これ幸いと暴走させられて喰われただけ?

 暴走して襲ったとか言われたけど、実際には貪られただけのような……?


 「まあ、間違ってはおりません。

 実際には獣(けだもの)のようになった八重様に襲われた訳ですが………大変美味しゅうございました」


 「ええ、ああいうのって良いですよね。

 <精魂の雫>だからか非常に強い精が流れ込んできますし、その状態で好き勝手にされるのも……」


 なんだか本当に喰われたのが正しいっぽい。

 自分が犯罪者になったような気分だったけど、少しマシになったような気もする。


 「そもそも我らを襲ったとて罪悪感を持つ方がおかしい。

 嫌なら簡単に捻り潰せるのだ、その我らが悦んで受け入れておる事を理解せよ。

 それが女心ぞ」


 「は、はあ………」


 「まあ、経験が足りないのだから仕方ないんじゃない? これからよ、これから。

 それよりもそろそろ戻らないとマズいんじゃないの?

 長く戻らなければ、探索者は死亡扱いされるのよね?」


 「そうだ! 早く戻らないと!」


 「それならば問題ありません。

 SCCには私から言っておきましたので、どれだけ時が掛かっても死亡扱いにしないよう言ってあります。

 それよりも、お聞きしたい事があるので聞いてからですね」


 「聞きたいこと?」


 俺は用意されていた、綺麗に洗濯された下着を履いて服を着つつ聞き返す。

 すると、聞きたいのは指環と枝の事だった。


 「そなたが異界で手に入れた指環と枝だ。

 指環も枝も、異界で手に入る物としては風変わりなもの。

 そこから考えるに<発掘地形>、つまり<異界内異世界>に行ったな?」


 「<発掘地形>には行きましたけど、<異界内異世界>ってなんですか?」


 「異界の中は様々な異世界に通じておってな。

 探索者が<発掘地形>と呼んでおるのは、異界内で繋がった別の異世界なのだよ。

 だから異界とは違う所であったであろう?」


 「…………異世界って事は、異世界の人を俺は殺したって事ですか?」


 今更ながらに自分のやった事がヤバいと気づいた。

 あれが異界の中のバケモノじゃなくて生きている人だとしたら、俺がやった事は完全に殺人じゃないか……!!


 「そこまで気にせんでもよいがな?

 そもそも言葉が通じんかったのではないか?

 なれば争いしか起こらぬし、そうなれば相手を殺すのは当たり前の事だぞ。

 躊躇(ちゅうちょ)していれば死ぬ」


 「いえ、そうではなくて………。

 家が飛んでたんで撃ち落としたんですよ。

 <発掘地形>なので、何か手に入らないかと。

 まさか異世界の人だなんて知らなかった……!」


 思わず頭を抱えてしまう。

 生きている人だって知ってたら、あんな事なんてしなかったのに!


 「それも気にせずともよいがな?

 そもそもだが、異界で繋がっておる異世界は一つだけではないぞ?

 つまり向こうからこちらに来る者もおるという事よ。

 そやつらも当然こちらから略奪していくであろう。そこは何も変わらん」


 「そもそも異界で繋がってるっていう時点で、こちらからのみ都合よく攻められるなんてあり得ないのよね。

 現に強欲の国には意味不明な連中が襲って来た事があるらしいし。

 なんでもトカゲ? みたいな姿の気持ち悪い生き物だったらしいわ。

 おそらくそれが異界で繋がった所の連中なんでしょうね」


 向こうが攻めて来たからって、こっちも襲っていいわけじゃない。

 でもこっちだって侵略される恐れがあるんだし、お互い様でもある。


 俺から攻撃した訳だけど、あのドワーフだって地球に来たら問答無用の可能性は十分にある訳で……


 でも最初に襲ったのは俺だ。

 …………この事はどう考えればいいんだろうか?


 とりあえず、まずは地球に戻ろう。

 動画が出回るだろうし、配信しながら説明をした方がいいだろう。

 犯罪者だと言われたら、それで構わないし。


 「特に問題ないのですから、犯罪者だなどと言ってきたら虚界に来ればいいのですよ。

 それなら合法ですし、私達は何とも思いませんので」


 「そうだな。亡命? とかいうのをすればいいのだ。

 こちらに居れば何も問題はないのだし、気にする必要もない。

 色欲の国の者となれば良いだけだ」


 「貴方なら喜んで歓迎するわよ。当然だけどね」


 「なので、有象無象が騒いでも気にする必要なんてありません。

 だいたい人間同士であれだけ殺しあいをしておいて、今の時代だけ綺麗事を言うのも……って感じでしょう」


 まあ、なるようになるか。

 今さら悩んだところで、やってしまった事は取り返しがつかない。


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