第19話『受付嬢さん、そんなかっこいい名前だったんだ… 』
ハッと目が覚めたのは知らない木造の天井の下だった。
辺りを見渡す。
特に人が周りにいるわけでもない。
でも奥の部屋から聞き覚えのある声が微かに聞こえる。
一つはソーン。
もう一つは元気な受付嬢だろう。
ここはギルドの簡易的な休憩室だった。
(俺は…)
記憶の断片を集める。
(あのデカいボス個体と戦っていて…)
「…ソーンが助けてくれた」
ーーー俺が倒れる寸前に奴との間に入ってきた
そこまでは思い出せた。
ギルドに配置されている医療版のお陰で、失われた体力は回復していた。
「よっ!」
ベッドからひょいと飛び降り体を伸ばす。
んーーー
「よし!バッチリだ!」
問題なく動くことを確認し、
声のする方へ向かった。
ガチャッ
「ルドル!」
「マフティスさん!」
奥から顔を出した俺にすぐ気づいて声を掛けてくれる二人。
「お、おう!」
なんだかちょっと気恥ずかしさがあった。
「大丈夫か?かなり消耗し切ったみたいだったけど」
「この通りピンピンだ!」
「私達の医療班は凄腕ですからね!」
「全くだぜ!最上の感謝を」
深くお辞儀をした。
「いえいえ、大事なこのギルドの冒険者さんですから!当然のサポートです!」
キラリンッ
「それに運んで来てくれたのがクリーガーさんですから!」
久々にソーンに会えたことが嬉しかったようだ。
森からここまでソーンが担いで運んできてくれていた。
「何はともあれ、回復したみたいでよかったよ!」
「ああ!そしてソーン!お前にも感謝してる」
「いや!別に俺は特別な事は…!」
「言わせてくれ」
「俺は敵の動きを見誤った…」
グッと拳に力が入る。
「そしてそこで力尽きた…」
「…ルドル」
「…」
「…でも」
「まだまだ俺には伸びしろがある!!」
「…え…?」
「それを知れた!感謝だぜー!!」
「う、うん!?」
ルドルは後悔より先を見てるタイプだった。
「キャハハ!流石マフティスさん!」
「お?」
ふと受付に乗っている大きな角を見た。
「この角…あいつのか…?」
「そーです!討伐の証しとしてクリーガーさんが採ってきてくれました!」
今見てもそのサイズは大きく写った。
「先程クリーガーさんには言ったのですが、改めて」
「お二人ともありがとうございました!」
「こんなに早く依頼をこなしてくれるとは思ってませんでした!」
受付嬢も深々とお辞儀をする。
「そして今回はルドルさんが凄かったって聞きましたよー!!敵の技を真似たとか!」
「うんうん」
隣で大きく頷くソーン。
「いやー、ぶっつけだったけど案外出来るもんだな!」
「普通出来ないでしょ!」
「私も見てみたかったです!その技!」
「まぁソーンの横に立つ男としてはあれくらいこなさないとな!」
ドヤ顔をするわけでもなく、
これからだと言わんばかりの笑顔。
ハッ!
ルドル脳裏に一つの事柄がよぎった。
サッと受付嬢に寄りヒソヒソと耳打ちした。
(この前言ったソーンの“勇者”についてですが…)
コクリ
受付嬢は小さく頷き、小声で返した。
(安心して下さい、言いそうになりましたが我慢しました!)
(ありがとう!)
「どうしたんだ?二人ともコソコソ話して?」
「あ、いや!何でもない!」
そそくさと元の位置に戻る。
「それでは!お二人が揃いましたので、今回の依頼の結果をご報告します!」
話を変えるように切り出す。
「あ、その前に一つ確認したいことが…!」
「はい、どうぞ?クリーガーさん!」
ーーー
ーー
赤黒くなる身体
異常な知性と気性の荒さ
突然の死亡
一部始終を話した。
「そんな鬼猪見たことも聞いたこともないです…」
(やっぱり何かおかしかったんだ)
「突然の死亡…?」
(そうか、ルドルもここは知らないか)
「そうなんだ。あの後、俺は“何も”してないんだ」
「俺は何もせずに相手が勝手に倒れただけ」
「そう。俺はそこに“居るだけ”だったんだ」
(出来るだけ自然にアピール!)
「お、おう」
(何かソーンの圧が強いな…)
「それなら尚の事、お二人が無事で本当に良かったです!」
少し目を潤ませながら言った。
「もし、またこういう事があれば依頼なんて気にせず、ご自分の命を大切にしてくださいね!」
「こちらでも調査してみます!」
「ご報告ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「ではでは、依頼の結果です!」
ーー討伐速度 S
ーー被害状況 S
ーー戦闘技術 A
ーー危機対応 S
ーー総合評価 S
「流石はセブンスヘブンですね!」
「おっしゃー!S評価!!」
大きくガッツポーズを見せる。
「ルドルのおかげだな」
「何言ってんだ!」
「ソーンが居なかったらそもそも達成出来なかったぜ!ありがとな!」
にこやかなムードが流れる。
「報酬はこちらです!換金よろしくお願いします!」
報酬を受け取る。
小切手には“950”ジューロンと書かれていた。
「あの!これちょっと値段間違えてませんか?」
どれどれー?
と、ルドルも覗く。
「いえ、総合評価とプラスの危険度を考慮しても妥当です!」
「むしろ安すぎと言われてしまうくらいしか乗せられなくてすいません…」
初めてだった。
受付嬢さんの顔が少し曇った。
だが次の瞬間、いつも通りパッと明るくなる。
「そして!代わりというわけでもないんですが」
「私、《ウィンク=スターリング》からの特別な贈り物です!」
受付台の中をガサゴソする。
(受付嬢さん、そんなかっこいい名前だったんだ…)
「ちょっと待って下さい」
ルドルが止める。
「はい?」
「受付嬢さん…」
…
…
凄く溜める。
「めっっっっちゃカッコいい名前じゃないですか!!!」
「あ、え!?」
突然のハイテンションに戸惑う。
「そ、そうですか…?」
「ウィンク=スターリングさん…!!」
「是非、我が天を駆けしセブンスヘブンとご一緒しませんか!」
(世界観強めに勧誘しないで…)
「それは楽しそうですけど、一つのパーティーに肩入れは出来ないんです!」
「くそー!残念だ!最上に近づけたのに!」
「まあまあ」
軽くなだめた。
「それで贈り物って何ですか?」
「それはこちらです!」
ゴト
「こちらは《ギルド専用装備ピロピロ銃》です!」
ーーピロピロ銃
ある程度の冒険者達に配られる銃。
危険を知らせるための信号弾が搭載されている。
ーーー
「今回の様な突然の危険が迫った時に、空に向けて撃ってください」
「そうすると即座に居場所が分かり、ギルドの傭兵部隊が駆けつけます!」
「へー!そんなのあるんですね!」
(ソーン…名前ダサくないか…?)
(しっ!聞こえるぞ!)
「今は人数なくて一つになっちゃうんですけど…」
「それで大丈夫です!これは俺持たなくて」
モガモガッ!
変なことを言いそうだったルドルの口を押さえ止める。
「ありがとうございます!」
「俺がしっかりと使わせていただきますから!」
(これはいいぞ!使えるぞ!!)
キリッと受け取る
「でも、本当は使われないのが一番なんですけどね!」
キラリンッ☆
「本日はお疲れ様でした!」
「お二人とも無事で本当に良かったです!」
「「色々ありがとうございました!」」
二人とも声を合わてお礼を言う。
ギィーッ。
ギルドの木製の扉がきしみ開いた。
入ってきたのは、青い髪の女性だった。
受付へと歩いてくるその姿は優雅で美しい。
腰ほどまである髪。
遊ばせた毛先が、歩くたびにくるくると軽やかに踊る。
細身の身体にぴたりと合う服装。
フォーマルドレスのようなその装いは、
この街のギルドには少しばかり場違いに見えた。
コツコツ。
コツ…。
二人には見向きもせず、ウィンクの前へ立つ。
ーーーあんな美女居たか?
ーーー居たら俺が忘れるわけないだろ
ーーー綺麗だ…
「こんにちわ!リエルさん!」
…
「その顔は…」
…
「やっぱり王国のギルドはやだよーーーーー」
!?
さっきまで凛としていた女性が、
突然子供のように机に突っ伏した。




