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プロローグ『みんな俺の事好きすぎかよ!!』

彼は勇者のソーン=クリーガー。

かつて剣聖、拳王との名を欲しいままにした王国武闘派最強のマクラウルの息子である。


そんな彼には野望があった。

自らがリーダーを務めさせられているパーティ《セブンスヘブン》から追放をされる事。


時間をかけ着々と準備を整えて来たはずのソーンは今宵野望に終止符を打たんとすべく話し始めたのだった。


覚悟はしている。


罵倒も、失望も、きっと容赦はないだろう。


——自分は、居るだけの勇者なのだから。


それでもソーンは、震える指先を握りしめながら、口を開いた。


「なぁ、みんな。話があるんだ」


そう切り出したのは、今日の依頼を終えパーティの円卓でみんなでワイワイ酒を飲み交わしてる時だった。


「どうしたんだソーン?そんなに改まって」


ワイワイムードを切るように発したソーンの言葉に6人の仲間の視線が集中した。


「やっぱり俺思ったんだ。ただ居るだけの勇者なんて正直お荷物だろ」

「もっとまともに戦える奴も沢山いる。俺みたいなお飾り勇者はパーティを追放されても当然だと思う」


そんな思いもしない言葉にみんなはお互いの顔を見合わせる。



「俺はリーダーとは言え名ばかりで実際動かしてくれているのは《ルドル》だし」


「それに《リエル》見たいな強力な魔法も使えない」


「体力だって《ユンナ》には劣る」


「《リミティス》の様に広く周りを見れずみんなを危険に晒した事もある」


「この派手な格好のせいで《シセンド》の様な隠密にも向かない」


「もちろん《リンビア》のような頭脳もない」



「くくく」

「ふふ、ふふふ」

「あーっははは!!」


ソーンの神妙な空気とは裏腹に酒のせいもあり一斉に笑い出す。


(よし!ここまで分かりきった事を並べたんだ!「今更気づいたのかよ!」見たいな事を言われて、馬鹿にされた挙句要らないと言われ自然に追放される流れだ!)


「急にそんな真剣な顔で何を言い出すかと思えばそんな事か!」


夕焼けのような橙色をした短髪をガンガンに立て見るからに武闘派なルドルが、ソーンを小馬鹿にしたような笑顔で言う。


「そうよそうよー。突然そんな事を言うんだもの驚いちゃったじゃなーい!」


毛先まで綺麗に整った青みがかったロングヘアがよくお似合いの綺麗な顔立ちしている魔法使い《リエル》が続けて乗っかって来た。


残りの4人も「以下同文」と言わんばかりの顔で大きく頷いて見せる。


「そりゃあ、そうだよな…。みんな前から思ってたけど優しいから直接俺には言いにくかったんだよな」

「ごめん、言いたい事は分かってる。俺は今日で——」

「ソーン!!」


言い終わるのを待たずにルドルが割って入る。


「何でお前にそんな思いをさせちまったかは分からん」

「だがソーン!こちとらお前が居てくれるだけで助かってるんだ。お前が居てくれるからこそ俺達は頑張れる」

「リーダーだからとかじゃ無い、ソーンはソーンだろっ!」

「みんな得意不得意はあるし、なによりお前の事が好きでパーティを組んでるんだ」



「えっ?」



このパーティを組んでから3年が過ぎ、最初はぎこちなかった会話も自然と出来るようになり、戦いの中連携も上手く取れるほどになっていた。


だからこそ『極力』何もしないでそこに居るだけ勇者の俺が浮き彫りになり必要ない事が分かって追放する流れでは……?


「えーっと…俺は何もしない居るだけ勇者だよ?」


「そんな事ないわよ!」

「あなたがダンジョンや魔物が出て来る地で私達の最後尾を歩いてくれているだけで、とても安心感を持てるの!」

「それが既に凄い魔法みたいなものでしょ!」

「戦えるだけのイモクソ勇者なんてそこらじゅうに居るけど、あなたのような人は他には居ないわよ!」



(イモクソって言葉が汚くなってるよ、リエル…)



「そーだよ、ソーン。あたしも2人と一緒でそう思ってるぞ?」

「体力であたしに劣るのは当然だよ。あたしは『鬼族の末裔』なんだから!」

「それにお飾りなんて思っちゃいないよ。仮にお飾りなんだとしたらあたしセブンスヘブンの頂上に煌々と輝く、お星様のようなお飾りだよ」

「居てくれないとダメだし、居てくれてやっと完成するの」


ルンルンとした笑顔がトレードマークの少女ユンナが少し悲しそうな顔をして俺に訴える。



「ユンナまで…」



(いや、まだ大丈夫なはず…残りの3人が分かってくれているはずだ!!)


「私もみんなに同意だ」

君のその儚さもあり心強くもあり、何より真のある素敵な笑顔に支えられているよ」

「時に私は君の母であり、時には姉であり、そして何より妻として側で守り抜くと決めた」

「だから君は何もしなくても良い、できない事は全て私がやる」

「だからそんな事を言わずにずっと私のそばにいて欲しい」


セブンスヘブンの凄腕狙撃手ミリティスが静かなトーンでかつ真剣な眼差しで諭す様に言う。


「くっ…ミリティス…」


(1番冷静に場を把握できていると思っていたのに!)(他人なのに母とか姉とか妻とか1番よくわからない事を言い出してるよおおぉ)


そんな最中ソーンのすぐ横を風が吹いたかと思うと、背中から気配を感じた。


「私だってあなたと…ソーンと一緒ならもっと変われるし強くもなれる」

「ソーンが居なくなっちゃったら暗くて寂しい世界にまた1人ぼっち」

「話したい事もいっぱいあるし、冒険だっていっぱいしたい」

「もっともっと一緒に居たい。居られるなら里の長直伝の隠密術教えてもいいから……」


遥か遠くにある忍者の里からやって来た、緊張強いの少女シセンドが俺の背中から涙ながらに抱きしめて呟くように言った。


「シセンド…泣かせてごめんな…」


(うん、泣かせたのは確かに俺が悪い)

(でもこう言う事になるとは思っていなかったんだよ、シセンドよ)

(ってか、普段は緊張で姿見えないし声は聞こえないのに、酒のお陰が大丈夫そうだな。今はよく見えるし、よく聞こえるし、しかも饒舌だ)


だが!!まだ追放の可能性は残されている!!

この最後の1人!我らが縁の下の力持ちスーパー科学者リビアンがいる!!


「私も反対ッスねー」


ズザーーーーッッ!!全然俺の作戦が上手くいかなーい!!

心の中の俺がどこか高い所から盛大に滑り落ちた。


「だってそーじゃないッスか!ソーンさんが居なくなったら誰が私の実験の被験者になってくれるんすか!!」

「剣聖と拳王であるお父上に鍛え上げられたその身体!実験してもし足りない!」

「特に耐久実験…あぁーー。今からでもすぐに部屋に連れ込みたいっ!!」

「ソーンさんこの後私とどうッスか??なんなら頭良くなる装置作るッスから!」


(よく考えればそうか)


(リビアンは科学者で依頼には同行する事も少ないし)


(さらに被験者である俺が、いや俺の身体が無くなるのはつまらないか)


(だがそれくらいなら追放されても出来る!)


「リンビアあの」

「はーい、あのもそのもないッスー」

「」我々セブンスヘブンの総意で『ソーンさんは必要』なんスから!この話は終わりッスよ」

「お酒は楽しく飲まないと!」


言い終わるとリビアンは持っていた酒の入ってるグラスを高らかに上げた。

 

「ああ!終わり終わり!もしまたなんか悩み事があったらいつでも聞くぜ、親友よ!!」

「そうね。私だっていつでも魔法で素敵なリラクゼーションを届けるわ」

「そうだなー、あたしはー。一緒に森で遊ぼう!そうすれば悩みなんてひとっ飛びだぞ」

「私は母として姉として何より妻として、いっぱいの愛で包み込むよ」


言い終わるとみんな同様にグラスを上げる。


「私はいつでもそばにいる!…ギュー」

「ほらほらシセンドこっちに戻って来ないと乾杯出来ないっすよー」


席に戻るように促すリビアンとシセンドの目は合わなかったが、素直に従った。


「…うん」


後ろ髪を引かれながらも元の席に戻ると、小さめのグラスを精一杯上げた。


(はぁー。このままじゃパーティ追放どころか一生この仕事していかなきゃならなくなってしまう…)



そんな気持ちは露知らずキラキラした目線がソーンに集まる。


あっ。

俺だけまだグラスを上げていなかった。


「すまん」


グラスを同じ高さまで上げる。


「そしてみんな…ありがとう」


全員が満遍の笑みになる。


それではーー。


「「かんぱーい!!」」


一同声を合わせ再び騒がしく楽しく酒を飲み始めた。


ソーンの居るだけ勇者追放作戦がここにて敗れた。


そしてパーティのみんなのソーンへの愛情は分かった。


ってか、どんだけみんな俺の事大好きなんだよ!!


一生懸命やってるけどの使えない奴になっていたはずなのに。


何処がいけなかったんだろうか…


いや、まだだ。


まだ手はある。


もっと完璧に、もっと自然に、 誰にも傷つかれずに追放される方法があるはずだ。


待ってろよ、セブンスヘブン。

次こそ俺は――

必ず追放されてみせる


そう思うたびに、父の顔が浮かぶ。


そうして、ソーンはここに来るまでの今までの事を思い出す。



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