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秘密がバレた見習いメイド

 大広間で椅子に座りながら、奥様に見下ろされている私。屋敷の主人を立たせるなて不敬な気がしてならないが、にっこりと笑っているはずなのに、とても怖い奥様に、何かを意見する勇気は私にはない。


「ミラちゃんは、自分が何をしたのかわかってる?」

「……窓から飛び降りました」

「違うわミラちゃん、三階の窓からよ?普通なら大怪我をするのよ?」

「すみませんでした」

「なぜ、あんなことをしたのか教えてくれるかしら?」

「はい」


 私は奥様に本館に誰もいなかったこと、自分が置いていかれてしまうのではと思ったことを伝えた。

 初めは険しかった奥様の表情もだんだんと悲しそうな顔になっていく。


「例え置いていかれそうでも、三階から飛び降りてはダメよ?」

「で、でも置いていかれたら……置いていかれたら……また一人になってしまいます」


 涙が目から溢れてくる。こんなに楽しい人たちと一緒にいることを知ってからでは、もう一人には戻れない。一人になってしまうと考えただけで、私は怖くて怖くてたまらなかった。


 涙を流す私を奥様が、優しくゆっくりと抱き寄せてくれる。服越しに伝わる奥様の温かさが心地いい。


「大丈夫よ。あなたを一人になんてさせないわ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ、というか誰にも渡さないわ!!」

「渡さない……?」

「あなたは私のものなの」

「ええっ?!そ、そうだったんですか!?」

「ふふふ」


 私は驚きでいっぱいの頭でメイド長を探す。右、いない。左、いない。あれ?


「誰を探しているんですか?」


 後ろにいたんですね。盲点でした。


「た、大変です。メイド長!私は伯爵様のものだったのに、いつも間にかお嬢様のものになってたと思ったら、奥様のものになってました!これが物々交換というやつですか!」

「違います」


 私がメイド長に力説していると、奥様から声がかかる。


「それで話は変わるのだけど、あの三階から降りたスキル?なのかしら、あれはなんなの?」

「そ、それは……」


 メイド長の顔をちらっと見る。メイド長曰くあれは私のスキルなのだそうだ。それを知った日に私はみんなに自慢したくて、本館へと向かおうとしたところ、メイド長に止めたれた。


『それは暴動が加速するので秘密にしてください』


 ということだった。暴動というのはよくわからないが、なんでも大変なことらしいので、今まで黙っていたわけなのだけど。


「話していいですよ」

「い、いいのですか?」

「ええ、どうせ明日には王都へ立ちますから」

「わかりました!」


 私は椅子から降りて、奥様の前で腰に手を当てる。


「あれは私のスキルというものです!」

「なんていうスキルなのかしら?」

「知りません!」


 私の返答が予想外だったのか、奥様含めみんな固まってしまった。


「そんな難しいことは聞いてないのよ?スキルの名前を教えて欲しいの」

「わかりません!」

「本当に?」

「本当です!ちなみにこのスキルには更なる秘密があります!」


 私はそう言って、手足に力を込めていく。


「うぅぅぅん」


 手足に込めた力を全身に巡らせ、『はあ!』と気合の入った声を出すと、頭とお尻からそれは現れる。


「ジャジャーン!猫になれるのです!」


 尻尾をフリフリと動かしながら、みんなに猫のポーズをとる。しかし、悲しいことに無反応。


「メイド長、何か変でしょうか?」

「いえいえ、いつも通りとても可愛らしいと思いますよ?」

「えへへ、えへへへ」


 奥様がゆらりゆらりと、近づいていたかと思うと急に抱きしめてきた。


「かっ…」

「か?」

「可愛い〜!!」

「ぎゃぁぁぁ」


 急な大きな声に、敏感になった耳が悲鳴をあげる。キーンという音が頭に響き目が回りそうになる。


「ああ、ごめんなさい。もしかして耳も良くなってるの?」

「はい……。なのであまり大きな声を出されてしまうと、頭がキーンと痛くなります」

「そうなのね。その耳、触ってもいいかしら?」

「もちろんです。メイド長もよく触ってくれます!」


 ピシッという音が聞こえた気がした。


「……ふふ、ニーナ。後で私の部屋にいらっしゃい」

「いえ、明日は早いのでミラを寝かしつけないといけませんから」

「メイド長、私は一人でも寝れますよ?」

「じゃあ、今日は三人で寝ましょう!ミラちゃん、今日はご飯もお風呂も一緒よ!」

「い、いいのでしょうか?」

「もちろんよ!わああ、このままフワフワで気持ちいいわ」


 少しだけザワザワするが、耳を撫でられるのは気持ちいい。


「えへへ、たまにメイド長のお膝に座って撫でてもらっています」

「……へぇ、そうなのね。ニーナ?」

「この前はメイド長の頭を私が撫で撫でしてあげました!」

「……へぇ……誰か、執事長を読んでくれるかしら?」

「お、奥様!?それだけは、それだけはどうか」

「ホッホッホ、お奥様呼びですかな?」


 メイド長の後ろはさっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にかいた執事長がニコニコと笑っている。

 その声を聞くや否やメイド長の顔はどんどん青くなっていく。


「ミラちゃんのことで、ニーナとお話ししてくれるかしら?」

「ホッホッホ、かしこまりました。では参りましょうか?」

「……はい」

「執事長と秘密とお話なんてずるいです!私も話したいです!」

「ホッホッホ、ではニーナとのお話が終わりましたら伺いますから、その時に話しましょう」

「はい、約束ですよ!」


 執事長は笑いながら、メイド長は黙ったままで大広間から出て行った。

 安心したからか、力が抜けて耳と尻尾がまるで煙のように消えた。


「あー、可愛かったのに」

「すみません、気を抜くと戻っちゃうんです」

「そうなのね、不思議だわ。あんなスキル見たことも聞いたこともないもの。他にはどんな事ができるの?」

「わかりません!」

「何かない?面白いのがいいわ!」

「うーん、音を立てないこととかですかね?」

「音?」

「ちょっと待っててくださいね」


 そう言って大広間の端へと向かう。


「目を閉じてくださーい」


 みんなが目を閉じたことを確認して、私は音のない世界に入る。ものの数秒で一番離れていた奥様の後ろに回る。

 奥様の肩をトンと叩くと奥様は肩を振るわせるほどにびっくりしていた。


「……全然気づかなかったわ」

「えへへ、これはとても役に立ちます!」

「どんなことに使うのかしら?」

「メイド長の目を盗んで、料理長からパンをもらったりします!」

「他には?」

「メイド長に気づかれずに、パンを小鳥や小さな動物にあげられます!」

「ふふふ、そうなのね」


 そんな話をしていると私のお腹が『グゥゥゥ』となった。


「すみません。パンの話をしたらお腹が空きました」

「ウフフ、そうね。では、食事しましょう。このまま向かいましょうね」


 そういうと、奥様は私をヒョイっと抱き上げる。


「そ、そんな奥様に、恐れ多いです!」

「あら、ダメよ。それとも私の抱っこは嫌だったかしら?」

「そんなことないです!ですが、奥様に歩かせて、私が歩かないのは不敬なのでは……」

「私が不敬なんて言ったかしら?」

「い、いえ、言ってません」

「ならいいのよ。それとさっきのお耳、また出せるかしら?」

「わかりました!ふん、ふぬぅぅぅぅ」


 ぴょこぴょこと出てきた私の耳を奥様は撫でながら、大広間から出ていくのだった。



★★★★★★

ニーナside


「ホッホッホ、これくらいですかね」

「……この度は申し訳ございませんでした」


 三日間寝ずに仕事をしたときくらいの疲れが、私に襲いかかる。


「この程度で根を上げるほど、あなたは弱くはないでしょう?」

「……それとこれとは別です。執事長に敵うはずもありません」

「ホッホッホ、私はただの隠居なのですがね」

「……こんな隠居はいません」


 私は持っていた訓練用の木剣をまたあった棚へと戻す。こちらは少し息が上がっているというのに、執事長は息が上がっていないどころか、服にシワすらない。格が違いすぎる。


「それで、ニーナさん。ミラさんのあの能力についてですが」

「はい、おそらくはスキルの類かと思われます。ですが、あの様なスキルは見たことも聞いたこともありません」

「そうですね。これは私の推測ですが、あのスキルはまだ未覚醒で未成熟なのだと思います」

「それはなぜそう思うのでしょうか?」


 執事長は訓練場にあるテーブルに座ると私も座る様に促してくる。席に着くとその理由について話し始めた。


「我々がスキルを授かるとき、その大まかな能力が頭の中に流れ込んできます。なので我々はそのスキルを授かった瞬間から使うことができる」

「なるほど、つまりスキルの使い方を理解していない彼女のスキルは、まだ未覚醒で未成熟であるということですね」

「そうです」

「しかし、未覚醒または未成熟のスキルなんてあり得るのですか?」

「スキルは女神様から賜るものです。分からないこともまだまだ多い。ないとは言い切れないでしょう」

 

 未覚醒で未成熟なスキル。そんな奇天烈なことがあるとは思えませんが、ミラの顔を思い浮かべると不思議とないとは言い切れない自分がいた。


「ニーナさん、あのスキルが王都で知れ渡ることがあれば、悪辣な手段を用いる者たちに彼女は狙われます。あなたが近くにいれば、問題はないと思いますが、くれぐれもご注意を」

「もちろんです。私の全てを持ってミラに手を出す者には鉄槌を下します」

「ホッホッホ、さすがは元Aランク冒険者様ですね。期待してますよ」


 王都は広い。何があるか分からない以上、ミラの味方は多いほうがいいでしょう。古巣に頼るのは気が引けますが、ミラの顔を繋いでおく程度なら問題はないでしょう。


「旦那様は動いてくれるでしょうか?」

「ホッホッホ、おそらく動いてはくれるでしょうが、ミラさんはなんの成果もない平民ですからね。動かす人にも限界はあるでしょう」

「なんの成果もない?旦那様はあの出来事をなんの成果でもないと思っているのですか!?」


 聞き捨てならない言葉に、思わず勢いよく立ち上がり声を荒げてしまう。


「落ち着きなさい。旦那様はもちろんのこと、この伯爵家の全ての人があの出来事をなんでもないなんて思ってありません」

「では、なぜ?」

「ドラゴンの攻撃を空から落ちてきた平民の少女が防いだと聞いて、誰が信じてくれますか?」

「そ、それは……」

「そして、当の本人は自分がしたことに気づいてもいない。これでは証明のしようもないでしょう」

「……そうですね」


 あの光景は今も私の脳裏に焼きついている。ブラックドラゴンのあの赤い瞳は今でも恐ろしい。

 ブレスを吐き出された瞬間は死を覚悟した。空間の振動、迫り来る光源が今でもたまに夢に見る。


「ホッホッホ、あれはまさに奇跡なのです。旦那様も頭を抱えてましたが、学生時代の親友である国王様にはお話しなさったそうです」

「国王様はなんと?」

「頭を抱えてしまったそうです」

「……そうでしょうね」


 実際あの光景を見た私を含む、この屋敷の人間はミラがやったことを見たがなぜ防げているのかは、分からなかった。

 ドラゴンのブレスは間違いなく彼女に当たったのに、無かったことになったのだから。


「あれもスキルなのでしょうか?」

「おそらくはそうでしょうね。しかし、あれほどのものが未覚醒のスキルとは思えませんからね。考えられることは一つです」

「生まれ持ったスキルということですか」

「そうでしょうね」


 明日には王都へ向かうというのに、彼女がトラブルに巻き込まれる可能性しか見えない現状に私は溜め息を漏らすのだった。

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