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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
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35.フェレル視点「早く帰りたい」

1週間の野宿が終わり色々思う事はあるが、何はともあれ、やっと家に帰れる。


私は案外、ルカラウカのことが好きだったようだ。リリとレンジャー達がいてくれるから不安は無いが、少し心配はあるから早く顔が見たい。あの子の「おはよう」と「おやすみ」が無い日々は寂しかった。


それに、リリとレンジャー達にも会いたい。


今日くらいはリリも匂いを嗅がせてくれるだろうか? リリは私に掴まれてもくれないからね。サッと逃げる姿も可愛いから、ついつい捕まえようとしてしまうんだけれどね。


逃げた後、眉間に皺を寄せて見てくるモモンガと、そんなモモンガを笑顔にし一緒に遊ぶルカラウカを思い浮かべ、つい頬が緩んでしまう。


出入国門の横にある広場で短い労いの言葉を聞き、「解散」の合図に各々が自由に動き出す。


全員が問題なく帰ってきたことや野宿の様子の報告は、今回のまとめ役だったAランクパーティーがしてくれる。だからAランクパーティー以外は、冒険者ギルドに寄る必要はなく、ここから真っ直ぐ帰ることができる。


さて、私も帰ろう。


「間に合った! フェレル、待ってくれ!」


大声をかけられ振り向くと、ギルド長とロントくん、そして、もう会いたくないと思っていた副ギルマスが居た。


ギルマスの大声に周りはギルマス達の姿を確認し、何やら囁き合っている。変に目立ちたくないのだから、本当に勘弁してほしい。


あれ? ロントくんて、こんなに元気のない子だったかな? もっとシャキッとしている印象だったけれどね。彼も働きすぎて疲れているのかもね。


「私に何か用事ですか?」


「いやな、そのな、昨日大きな事件があってな」


ふーん、そうなんだね。でも、それをどうして私に? ルカラウカが巻き込まれた?


まさか。そんなのリリとレンジャー達が許さないよ。


「大変だったんですね」


「あ、ああ、それで、その、今日の朝も、今度は捕まえた奴らが消えてな」


「逃げたんですか? よっぽど優秀な魔道士が仲間にいるんですね」


「いや、そうなんだろうが、それで、フェレルの意見が欲しくてな」


さっきからずっと歯切れが悪いギルマスを訝しんでしまうが、決して顔には出さない。可能な限り早く会話を終わらせて家に帰るためには、淡白であるべきだ。


「私はこの街に詳しくありませんし、簡単な魔法ならともかく、人を消せるような魔法は使えませんし知りませんから、今回も何も分かりませんよ。私より、魔道士の方々に意見を求められた方がいいのではありませんか?」


「もちろん魔道士の奴らにも意見はもらう。だが、フェレルからも欲しいんだ」


遠い目をしそうになるし、ため息だって吐きたくなる。でも、我慢だ、我慢。


「分かりました。どこに行けばいいですか?」


相手が引かないのなら、さっさと終わらせよう。ここで押し問答を繰り返している分、帰る時間が遅くなってしまうのだから。


「フェレルも疲れているだろう。だから、フェレルの家でというのはどうだ?」


「疲れてはいますので家には早く帰りたいですが、ギルマス達を招けるような準備をしていません。ですので私の家ではなく、冒険者ギルドか警ら隊の詰め所はどうでしょうか。詰め所はそこにありますから」


「しかしな、1週間頑張ってもらったから、フェレルにも休んでほしいんだよ」


だったら、私の意見は明日以降でもいいじゃないかい? ここで粘られている方が疲れるし、周りの視線もしんどいものがあるよ。


「でしたら、明日ギルドに伺いますので、その時に意見交換をいたしましょう」


「いや! 早期解決のためにも、意見は早く欲しいんだ」


困った。ギルマスは何が言いたいのだろうか? 早く意見が欲しいのなら、そこの詰め所で話をするのが1番だし、何より現場を見なくていいという部分が気になる。


一体、私は何を求められているんだろうか?


「もうギルマス。さっきから立ち話が長いですわ。フェレルは疲れているんですもの。早く家に連れて行ってあげましょう」


今日も胸を当ててこようとする副ギルマスから1歩、後ろに下がる。深められる笑みが怖いが、こちらも負けじと微笑む。


「1人で帰れますし、話があるのなら、もうここでおうかがいします。他の皆様もいらっしゃいますから、有益な意見も出るんじゃないでしょうか?」


「でも、家で待っている子供が心配でしょう。私達も一緒に行けば早く帰られるし、私の事をあの賢い子供に紹介できるしで、一石二鳥だと思わない?」


ん? 賢い子供?


確かにルカラウカは賢いが、どうしてそれを胸しか取り柄のない副ギルマスが知っているのかな?


「副ギルマスは、ルカラウカに会ったことありませんよね?」


「ええ、ないわよ」


おかしい。会ったことないと断言できるのに、賢い子供だなんて言い切れるものかな?


私からルカラウカの話をしたことはない。そんな仲ではないからね。もしギルマスが話していたとしても、「“あの”賢い子供」という言い方には違和感がある。


はぁ……まぁ、今、考えることじゃないよね。とにかく、こんな不毛な立ち話は終えたいね。


「とりあえず、今日話すか、明日話すか、決定してください」


「今日、話そう」


「分かりました。詰め所の一室を貸してもらいましょう」


「い、いや、フェレルの家に向かおう」


さっきから私の家ばかりだね。さすがにもう寝不足の私でも分かったよ。ギルマス達は私の意見を求めている訳じゃない。ただ私の家、正確には師匠の家の中に入りたいんだね。


「何度もお伝えしますが、我が家は無理です。子供も居ますので、機密事項の多い仕事の話は家ではできないんです」


別に家の中に入れることに問題はないよ。ルカラウカとリリには庭で遊んでもらい、レンジャーのみんなには消えていてもらえばいいだけだからね。


ただね、家の中に何かを仕掛けられそうで嫌なんだよね。そんなことをしない保証なんて、ここまでしつこい人達はゼロに近いだろ。


「どうして頑なに家は嫌がるんだ? 何かを隠しているのか?」


「逆に、どうして私の家に来たいのですか?」


「行きたいとかではなくてだな。フェレルの体調を気遣ってだな」


「気遣ってくださるなら、今日はもう帰らせてください。明日、ギルドに行きますので」


「だから、意見はきょ——


「ギルマス。こんなことを言いたくありませんが、ファグレスに苦情を入れてもいいんですよ。私の師はSランク冒険者でしてね。私もファグレスの方々とは、何度もお会いしたことがあるんですよ」


本当は1回しか会ったことないけれどね。


師匠が、えっと、誰だったかな? お一人、仲がいい方がいらっしゃるんだよね。豪快なお婆さんだったけど、まだ在籍されているはず。


まぁ、脅しだから、本当に連絡はしないよ。


「私の何を疑っているのかは分かりませんが、私は過去の一度も犯罪を犯していません。やったことがあるのは、好きな子を虐めるという可愛いものです。ギルマスにも、それくらいの罪はありますよね?」


「いや、俺は、全く……」


頭まで真っ赤にするって、何を想像したんだい?


私が言う虐めるは意地悪のようなもので、「それ取って」「取ってほしかったらキスして」や「引っ付かれると料理できない」って言われるけれど抱きついて離れないとかだよ。ベッドの上では意地悪なんてしないからね。


ふむ。昔を懐かしんでいる間も何も話さないってことは、もう帰ってもよさそうだね。


副ギルマスの「フェレルになら私も虐められてみたいわ」っていう言葉は、気持ち悪いから聞こえていないよ。きっと空耳だね。


「では、私は今度こそ帰らせてもらいますね。明日、ギルドには顔を出すと思いますので。失礼いたします」


「フェレル! 待て!」


聞こえないよ、聞こえない。これ以上付き合う必要はない。


私の態度が気に入らなくて、冒険者の経歴に問題有りのイエローバッジやレッドバッジを付けたかったら、お好きにどうぞ。


冒険者をできなくなったら、稼ぐ方法は他にあるからね。商業ギルドの方に登録をして、香水を売るようにしても問題ないんだしね。


ただ冒険者の方が入れる地域が多いから、冒険者をやっているだけなんだよ、私はね。






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