34.お預かりしますよ
「リリ、起きて」
うーん……誰かが私を揺らしている……もう少しだけ……もう少し……瞼が開くまで待ってください……
「まだ眠たいよね。ごめんね」
ルカくんかな? 待ってね。ちゃんと起きるからね。
大きな欠伸をしながら目を覚ますと、ベッドで顔が半分見えていない、ルカくんの申し訳なさそうな面持ちが目の前にあった。どうやらルカくんはすでにバッチリ起きていて、ベッド横でしゃがんでいるようだ。
「リリ、起こしてごめんね」
「大丈夫ですよ。おはようございます、ルカくん」
「おはよう。ロントさんがね、リリに挨拶をしたいって言っているの」
「ロントさん?」
あ! 昨日泊まってもらったんだった。寝惚けすぎてて、頭から抜け落ちてたよ。
「起きます。ルカくん、起こしてくださってありがとうございました」
「ううん。僕は起こさなくてもって思ったんだけど、ピンクさんが起こした方がいいって伝えてきたんだ」
それはありがとう、ルカくん。今起きられていなかったら、後からお説教されていたかもしれなかったよ。回避できてよかった。本当にありがとうね。
「ルカくんは優しいですね。ありがとうございます」
ルカくんの顔に擦り寄ると、擽ったそうな小さな笑い声が聞こえた。きっと笑顔が戻ったことだろう。
私が頑張ればいいことで、ルカくんを落ち込ませる必要はないんだから。でも、お昼寝の時間は、いつもよりもらおう。
ルカくんの肩に乗って1階に下りると、ロントさん達3人はソファに座っていた。私達を見るなりロントさんが立ち上がり、ビアナちゃんとパニカくんも続いて腰を上げている。
「リリ、起こしてすみません。けど、ギルドに顔を出しに行かなきゃいけないし、その前にビアナ達を家に送り届けたいしで、我が儘を言って起こしてもらいました」
「いえいえ、気にされなくて大丈夫ですよ。私もお話ししたいことがあったので、起こしてもらえてよかったです」
「俺達に話ですか?」
「はい。心配いらないと思いますが、私とレンジャーの皆さんのことは、絶対に秘密でお願いします」
「もちろんです」
ロントさんの言葉に、ビアナちゃんとパニカくんが頷いている。だが、2人はまだまだ子供。念押しさせてもらう。
「もしバレたりしたら、怖い貴族の人達に追いかけ回されたり、珍しいからって実験動物にされてお腹を裂かれるかもしれません。私はまだまだルカくんと一緒にいたいので、本当に内緒でお願いします」
ビアナちゃんはさっきと変わらずしっかりと頷いてくれ、パニカくんは目を丸くしながら必死に首を縦に振ってくれた。
ただ単に「言わないで」とお願いするより、きちんとどう問題なのか話しておくべきだ。ダメな理由が分からないと、口は緩くなってしまうものだからね。
「それと、ロントさん。今日はフェレルさんが帰って来られる日ですから、後からまた来られますよね?」
「はい。フェレルさんがお疲れじゃなければ、相談に乗ってほしいことがありますから」
「でしたら、ビアナちゃんとパニカくんは、ここでお預かりしていますよ」
「いいえ! 昨日も散々お世話になったのに、今日もだなんて厚かましすぎます」
「全然ですよ。2人共いい子ですから。庭の遊具で遊んでいたら、あっという間にロントさんが来られる時間になるはずです」
「しかし……」
「ビアナちゃんとパニカくんを家に残したまま、どれだけ時間がかかるか分からない相談なんて、気が気じゃなくなりますよ。簡単に解決できる憂いなんて必要ありませんから」
「では……ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
浅く頭を下げたロントさんの横で、ビアナちゃんとパニカくんが顔を輝かせている。嬉しそうにニマニマしてる。
2人も、本当に手がかからないいい子達だと思うよ。怒鳴りたくなるほど元気があり余っている子なら、私が提案した時に「遊ぶー」って騒ぎ出していたはずだもん。今だって静かに会話が終わるの待っているんだから。
「はい、任されました」
元気よく手を上げると、ようやくロントさんにも笑顔が戻った。
「ロントさん。1つ疑問なんですが、朝早くにギルドに行くって、依頼を受けられるんですか?」
「違いますよ。まぁ、朝に依頼が更新されるので、朝イチでギルドに行く冒険者は多いです。早い者勝ちですからね。俺も簡単な依頼は受けたりしますが、基本ギルマスの駒使いですね。各所に書類を届けたり、必要な物を買いに行ったり」
「行かない日もあるんですか?」
「ほとんどないですよ。日銭を稼がなきゃなので、数をこなしたいんです。だから、昨日の午後、一回も顔を出していないのを怪しまれているかもって思って、今日の朝は何が何でも行かなきゃなんです。昨日、あれだけのことがありましたから」
あーね、うん、めちゃくちゃ五月蝿そうだな。頑張って。
「フェレルさん達、警備の冒険者達の帰還もありますから、今日は大忙しだと思います」
あーね、うん、大事が重なると、てんてこまいだろうね。猫の手ならぬ、モモンガの手は貸してあげられないしね。ごめんね、頑張って。
ロントさんは、「はしゃぎすぎるなよ」とビアナちゃんとパニカくんの頭を撫でてから、ギルドに向かって出発した。門から出ていく背中に「行きたくない」と書いていたような気がする。
彼はきっと今日、ものすごく苦労するだろう。昨日の事件の処理が終わっているはずがない。怪しまれないためにいつも通りの振る舞いをするのなら、昨日の分もハゲの相手をしなければいけない。
大変だ。陰々鬱々だ。そりゃ背中に「行きたくない」の文字を背負うはずだ。
だから、私は心の中で何度も「頑張れ」と応援しとくよ。頑張れ。
来週はフェレルさん視点になります。
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