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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
54/64

33.ビアナちゃんの悩み事

「おやすみなさい」


「……おやすみぃ」


シャワーを浴び終わり、リビングに戻ってきたパニカくんは、欠伸をして目を擦っていた。一緒に入っていたロントさんが「寝かせてきます」とパニカくんを抱き上げたので、「ロントさんも、そのまま休んでくださって大丈夫ですよ」と伝えている。さっきのは、パニカくんとしたおやすみの挨拶である。


「ルカくんは、まだ大丈夫ですか?」


「うん。いつもまだ起きている時間だから大丈夫だよ」


今はビアナちゃんが入浴中なので、ルカくんは順番待ちをしている。そして、私とコネクトフォーの対戦中でもある。


「ルカくん、本当にそこでいいんですか?」


「リリこそ、そこは止めた方がいいと思うよ」


なんて無駄に言い合い、そこそこ白熱した試合は、ルカくんが2連勝するという結果で幕を閉じた。


神様、どうして私は勝てないんでしょうか? 相手7歳ですよ。一切手を抜いていないんですよ。なのに、どうして負けてしまうんでしょうか?


心の中で涙していると、ビアナちゃんがお風呂から上がってきた。


「兄さん達は?」


わちゃわちゃした夕食の間に、ビアナちゃんもいつの間か敬語が取れていたのである。仲良くなれたみたいで嬉しいね。


「パニカくんがおねむで、ベッドに行かれましたよ。ロントさんも、そのまま休まれると思います」


「リリとルカは何をしていたの?」


「コネクトフォーという色を4つ並べるゲームですね」


「面白そう。あたしもやっていい?」


「いいですよ。ルカくんがシャワーを浴びている間、対戦しましょう」


ルカくんが「僕、お風呂に入ってくるね」と席を立ち、ビアナちゃんがルカくんが居た場所に腰を下ろした。


「交互に自分の色を落としていくんです。そして、縦・横・斜めのどれかで、4つ色が並べば勝ちです」


「うんうん、簡単でよかった。リリ、勝負よ」


「負けませんよ」


「あたしだって」


キリッとさせた顔を合わせ、ジャンケンをする。


そう、何を隠そう私はジャンケンも弱い。この世界で、まだ1回も勝てていない。不思議である。


「先行、後攻、どっちがいいですか?」


「んー、後攻で」


「分かりました。私から落としますね」


ちなみに、このコネクトフォーにも番号がふられている。左上から1番になり、右下が42番で終わる。私が知っているコネクトフォーは穴が向こう側まで貫通しているのだが、グレーさんが作ってくれたコネクトフォーは穴は空いているが貫通していない。だから、穴の中に番号が書かれている。その番号を言うだけで、コマがモモンガになって移動してくれるのだ。


「39番」


「プクプク」


「え? やば! すご!」


兄妹って似るんだね。リバーシをした時のロントさんも、盤面にめっちゃ顔を近付けて驚いていたよ。今のビアナちゃんと一緒。そっくり。


「38番。あのさ、聞き流してほしいんだけど」


「31番。はい、どうぞ」


「32番。勉強できなくてもお金を稼げる職業って、なんだと思う?」


「37番。私はモモンガですので、その辺の事情には疎いんです。すみません。ビアナちゃんは冒険者になりたいんじゃなかったんですか?」


「40番。んー、なりたいというか、兄さんを見ていたら、冒険者でも安定して稼げるのかなって思ったの。でも、危険だってことも分かってるつもり。お父さんとお母さんは元気に出かけたのに帰って来なかったから。だから、兄さんが反対していることも知ってる。後、言ったことないけど、あたしも兄さんには冒険者を辞めてほしい」


なるほど。モモンガが簡単に答えられない、難しい問題がきてしまった。


「どのような職業が安全なのかは分からないですけど、冒険者じゃなくてもギルドで働くとかはできないんでしょうか? 受付や事務の方がいらっしゃいますよね?」


「受付の人か……商業ギルドは試験が難しいって噂があるけど、冒険者ギルドの方はどうなんだろ? 私、簡単な読み書きしかできないんだよね」


「教えてくれたのはロントさんですか?」


「そう。パニカには、そろそろあたしが教えないとなとは思ってる」


フェレルさんの説明で、学校はあると聞いている。全員が全員通えるわけじゃないという追加説明もあったから、ビアナちゃんとパニカくんが通っていなくても不思議じゃない。どうして通っていないかは、ロントさんに聞かなきゃね。お金の問題だったら、ビアナちゃんに言わせられない。


「あ、でも、誘拐犯が捕まったから、学校に通えるかも」


なーんだ。お金の問題じゃなかったよ。ホッとした。


改めて、レンジャーの皆さん、悪い奴らを捕まえてくださり、ありがとうございます。


「行方不明事件のせいで通えなかったんですか?」


「あたしはパニカの面倒を見なきゃいけなかったからだけど、パニカが通う時に一緒に通ってもって話だったの。でも、1時間は歩かないとダメだから、誘拐犯が捕まるまでは通えないってなったのよ」


「学校って、パニカくんみたいな小さい子も通えるんですか?」


「7歳からは勉強が中心になるけど、それまでは広場で遊べるらしいわ」


なんと! 幼稚園らしきものもあるのね。


「一度、ロントさんとお話しされるのが1番ですね。学校のこともですし、ギルドじゃなくて販売するお仕事の伝手とかあるかもですし」


「兄さんとかぁ。『俺が見つけてきてやる』って、あたしの意見全無視で『決まったぞ』とか言いそうで嫌なんだよね」


「そこは話し合いの時に、『勝手に決めるなら冒険者にしかならない』とか言ってみたらいいですよ」


こういう脅しみたいな行為は誉められたものじゃないけど、時と場合ってあるからね。暴走する人相手になら、使っていいと思うのよ。


「んー、そうしてみる」


「リリー、出たよー」


ひょこっと顔を見せたルカくんの可愛さったら、もう天使も顔負けのキュートさよ。


「あれ? 2回目?」


私を撫でにきたルカくんが、全然積み重ねられていないコネクトフォーを見て首を傾げている。


話していたせいで途中から対戦していなかった状況に、私はビアナちゃんと「あ!」っと顔を合わせ、笑い合ったのだった。


ビアナちゃんと2階の廊下で別れ、私はルカくんのベッドの端を陣取った。枕に少し被るか被らないかの位置、ルカくんが私を撫でやすい場所だ。ルカくんは、いつも私を撫でながら眠りにつくからね。


「リリが居てくれて、僕は幸せだよ。おやすみ、リリ。明日も一緒に居てね」


ん? ルカくん、どうしたの? 今すっごく切なく感じたよ。私、胸が苦しくなったよ。


「私も幸せですよ」


「嬉しい」


柔らかく微笑んでから瞳を閉じたルカくんを、私は見続けた。瞼を下ろすと涙が落ちそうだったのだ。「今日、何か見落としちゃったのかな」と、ルカくんの手を尻尾で撫でた。


*****


酷く焦っている2人の男性が、路地裏の暗闇で震えている。


「お、おい、どうなってんだよ」


「俺が知るわけないだろ」


「まずいよ……1人も誘拐できない……使っていた駒はいなくなった……こんなのバレたら俺達……」


「ああ、確実に殺されるだろうな」


「どうすんだよ。死にたくねぇよ」


「逃げるしかねぇだろ」


相手の瞳だけが薄らと見えている空間で、視線を合わせ頷き合ったその時……見ていたはずの瞳が消えるのと同時に、人が倒れる音がした。


「お、おい! おい! どうした!?」


「あんた達さー、こんなにも不甲斐ないことしといて、逃げるなんてバカじゃないの?」


少し高めの女の子の声が、どこから聞こえたのか分からない。右からなのか左からなのか、はたまた後ろ、いや、前や上からかもしれない。全方向から聞こえたと言われたら信じてしまうだろう。それ程までに、一切の距離感が掴めない。


「だ、だれだ!」


「あっはー、見えてないの? これだから下等な奴らは、生きている価値すらないんだよねぇ」


「どこにいる!」


「うるさーい。実験体を用意できなかったんだから、てめぇらが実験体にならないとねってことだよねぇ。逃すわけないよねぇ」


「な、なに——


ズザッという音が響き、男性の声は聞こえなくなった。


「こいつらを連れて行かないとなんて、だるぅ。殺せばいいのにー」


「ルーラナ。文句ばかり言っていると怒られますよ」


男性。いや、女性……どちらとも取れる声が増えるが、倒れている男性達にはもう聞こえていない。


「あ! オーレアっち! そっちはどうだった?」


「何も掴めませんでした。一体、誰が私達の計画を阻んでいるのでしょう」


「わっかんなーい。でもさ、どうせ弱っちぃ奴らだよ。堂々としてないじゃん」


「弱いかどうかは分かりませんが、私達が負けることはありませんからね。怒られそうですが、帰りますか」


「さんせー。こんな暗い所、大っ嫌い」


暗闇で輪郭さえ分からなかった者達は、倒れている男性2名と一緒に、忽然と姿を消した。






リアクション・ブックマーク登録・読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。


来週→1話更新です。

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