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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
29/64

7.みんな、子供が好きですね

んん? 子供の笑い声が聞こえる気がする……うーん……まだ眠たいなぁ。ああ、でも、何がそんなに楽しいのか気になる。でも、まだ寝ていたい。でも、何をしているのか気になる。


大きな欠伸をしながら起きると、至る所に植物がある部屋で、ぼんやりと昨日ウスリーの街に入ったことを思い出した。


氷の蝶々が飛んでる?


なんてね、そんなことないない。いや、でもなぁ、どう見ても、冷気を纏いながら氷の蝶々が飛んでいるんだよなぁ。


あ、夢か。これ夢だわ。だって、昨日寝たのベッドの上だもの。この部屋じゃなかった。もう一度目を閉じて開けたら、きちんと目覚められるはず。


「リリ、起きたー? おはよう」


私の顔を覗き込むためだろう。ルカくんの顔が、斜め上から目前に差し込まれた。


普通にビックリした。ってか、ちょっと頬に赤みがさしているけど、どした? 旅の疲れを一気に感じちゃって、熱出したとかじゃないよね? ホワイトさん呼ぼうか?


「おはようございます。ん? ソファ?」


顔を両手でカシカシしながら起き上がり、寝惚けて勘違いしていたのではなく、1階にあったソファの上だと気付いた。


「うん! 僕が降りてくる時に、一緒に降りてきたの。起きて誰もいなかったら寂しいでしょ。だからね、ソファで眠っていたんだよ」


「そうだったんですね。ありがとうございます」


昨日の話を聞いていなければ「心が豊かな優しい子、尊い」で終わってた。でも、「起きて誰もいなかったら寂しい」は、ルカくんが経験をして胸に深く刻まれてしまったことなんだろう。今はもう「心が豊かな優しい子、尊い、泣ける」になってしまっている。


「つめたっ!」


急に頬に冷たさを感じ、飛び跳ねて逃げると、私が丸まっていた所に氷の蝶々が飛んでいる。どうやら氷の蝶々も、夢ではなかったらしい。


「この蝶々さんね、ブルーさんが出してくれたの。追いかけっこして遊んでたんだよ」


え? これ、ブルーさんの魔法なの!? ブルーさん、どこ? どこにいらっしゃるの?


キョロキョロ見回すと、円錐形の帽子を耳の間に乗せ、木の枝の杖を振るっているブルーさんは、陽当たりのいい窓の枠に立っていた。


ブルーさんの横では、グリーンさんが目尻を垂らしながらルカくんを見ている。


そのルカくんはというと、さっき私の頬に突撃してきた蝶々を「待てー」と追いかけている。そして、時々蝶々に顔や手に止まるように触れられ、「冷たい」と可笑しそうに笑っている。


もしかして、ブルーさん。ルカくんと遊んでくれていたの? なんてデキたシッターさんなんでしょう。子供は遊んで体力をつけるって言うもんね。遊びながらって大切だよね。ルカくんの頬が上気しているのも、楽しみすぎているせいなのね。体調不良じゃなくてよかった。


グリーンさんは、広いって言っても部屋の中だから、ルカくんが怪我をしないように見守ってくれているのね。配慮が完璧すぎる。そして、絶対に子供が好きですよね。


というか、他の皆さんは、どこにいらっしゃるのでしょうか?


「ルカくん、レッドさん達を知りませんか?」


「えっとね、ピンクさんは洗濯をしてくれていて、レッドさんとイエローさんは向こうのテーブルで座ってるよ」


はて? ブルーさんとグリーンさんが困ったように首を横に振っているということは、何かあったのかな? いや、「やれやれ」ってされる何かって何? 直接、聞きに行くかな。


「私、レッドさん達の所に居ますね」


「運ぶ?」


「大じょ……運んでもらえますか? あの机高くて大変なんです」


「うん!」


これからは、ルカくんの申し出は極力受け入れよう。どっちでもいいことで、悲しそうな顔をさせる必要はない。


ルカくんの肩に乗って運んでもらうと、レッドさんとイエローさんは陰を背負いながら机の上で丸まっていた。


私がテーブルの上に降りると、ルカくんはニッコリ顔で頷き、隣の部屋に戻っていった。まだまだ氷の蝶々と遊ぶのだろう。子供は夢中になると、何回も何十回も繰り返す体力お化けだものね。


たださ、庭があるんだから、庭じゃダメなのかなって思うんだよね。道からは見えなさそうだったし。後でブルーさんとグリーンさんに相談してみよ。


私は、見るからに落ち込んでいるレッドさんとイエローさんの側に行き、まずは朝の挨拶をした。


「レッドさん、イエローさん、おはようございます。お二方共、どうされました?」


『やることがない』


『レッドに同じである』


そうか。活躍の場がなくて落ち込んでいたのか。


「もうすぐお昼じゃないんですか? イエローさんは腕の見せ所ですよね?」


『食材が何も無いある。調味料もほとんど無いあるよ』


なるほど。確かに、今日買いに行こうって言っていたな。


「ん? そういえばフェレルさんは?」


あの人もやっとベッドで眠れただろうから、まだ眠っているのかな?


『出掛けたある。冒険者ギルドに行った帰りに、その足で食材を買ってくるって言ってたあるな。あっち達がいるし、何かあったらリリを起こせって、ルカに言ってたあるよ』


……あの人の危機管理能力って。いや、まぁ、もう仕事で外泊する宣言もされているしな。きっと壊れてるんだよ。


本当に今後は、私もルカくんと同じ生活リズムになるようにしなきゃな。レッドさん達がいるとはいえ、会話はできないものね。モモンガは夜行性だけどね。おかしな時間帯に活動する私が、頑張ればいいのよ。


「イエローさんは、フェレルさんが帰ってきたら出番ですね。ルカくんの『美味しい』を引き出しちゃってください」


『そうあるな。頬っぺた落としてやらないとある』


うんうん、元気が出たようでよかったよかった。で、問題はレッドさんだな。


「レッドさん。敵がいない方が、ルカくんにとっては良い事なんですから」


『分かっている』


「でも、現れることもあります。その時に傷一つなく守るために、今はスーパーヒーローへと進化するための時間なんじゃないでしょうか? 必殺技の開発とかも、時間がある時にしかできませんよ」


ぴょこっと顔を上げてくれてよかったよ。溶けてしまいそうなほど項垂れていたから。ランランと輝き出した顔が、可愛いったらありゃしない。


『必殺技か! カッコいいな!』


元気になったレッドさんは、『クックク(訓練だ)』と、グローブをはめている両前足でシャドウボクシングを始めた。


レッドさんも、もう大丈夫なようだ。洗濯をしているらしいピンクさんにも、顔を見せにいかないとな。


「ピンクさんは、どちらにいらっしゃいますか?」


『庭だな』


庭ですか。自動洗濯乾燥がありそうと思っていたけど、そんなことないのかな。洗って干してって、大変だと思うけどなぁ。


どこから外に出ようかとキョロキョロして、キッチンの壁にある窓が開いていることに気付いた。そこから外の木に向かってジャンプをし、何とか地面スレスレの幹の部分に飛び移れた。


地面に降りて、木まで駆けたらよかったんじゃね? と思わなくもないが、そんなの結果論だ。私だって、こんな下になるなんて思わなかった。


と、まぁ、ヨジヨジヨジと木の上までよじ登り、少し遠いが隣の木に滑空で飛び移る。


これも「え? 地面走ればよくない? 庭でしょ」とお思いでしょう。私も窓から飛んだ時に、あることに気付いていなかったら、そう思ってたよ。ツッコんでた。


でもね、実はこの家の庭……草がボーボーすぎて、地面を走ろうものなら、前が見えない状態なんですよ。もしかしたら、草で怪我をするかもしれない。怖い。だから、何が何でも木を伝ってピンクさんを探したいんです。






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