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「ねぇ、アルベルト。なんで私に求婚したの?」

「な、なんでとは」


 ねっとりと意地悪く追い詰めれば、震え声が返ってきた。


「答えられないの?」

「……ぅ、いや」

「はっきり仰いな」


 意識して酷薄な笑みを浮かべて、赤らんだままの顔から足の先までゆっくりと視線を動かす。品定めするような私の眼差しに舐められて、アルベルトは動揺したように瞳を揺らし、更に頬に朱を登らせた。イイ反応だ。きちんと腐も嗜んでいた私の目利きによれば、アルベルトには受けの才能がある。まぁこの場には私しかいないのだけれど。


「なぜ私と結婚したいの?私という天才聖女がいれば便利だから?聖なる乙女に認められた皇帝と箔がつくからかしら?こんなに協力してあげたのに、死ぬまで搾り尽くそうっていうの?まぁ、舐められたものねぇ」


 唇をにゅるりと歪めながら嘲笑まじりに見下す。追い詰められたアルベルトは、青い顔で必死に首を振った。


「い、や、そんな……!」

「あら、それ以外にあるのかしら?」

「そ、れは」


 口籠ったアルベルトが、チラチラと私を見上げながら何度も薄く唇を開いては閉じる。しかし私が追及の手を緩めないと理解すると、観念したように口を開いた。


「す……」

「す?」

「す、きだ、からだ、俺が、お前を」


 切れ切れの言葉を絞り出し、真っ赤な顔をしたアルベルトが私を睨みつけてきた。負けを認めるようで悔しいのだろう。震える唇と潤んだ目。そのそそられる顔を見て、つい。


「……っくふ、ほほぉ」


 思わず色欲爺みたいなため息が漏れてしまった。何よ、もう!アルベルトったらいかにも雄って感じのイイカラダしてるくせに、なんていうヒロイン顔なのかしら。今にも「くっ殺せ!」て叫びそう。これは……うぅん、イイ。虐め(可愛がり)甲斐がある。


「えー、ほんとにぃ?」

「なぜ疑う!?」


 内心でそんな非道なことを考えながら、とりあえず胡乱な眼差しで目の前の可哀想なイケメンを見返せば、私の不誠実な態度にアルベルトは真っ赤な顔で噛み付いてきた。かわゆい。その素直さが愛しいわ。


「いや、だって、そんな素ぶりゼロだったじゃない」

「そんなこと……だ、だって、じゃあどんな態度を取れば良かったんだよ!俺が側に在ることを許したんだ、分かれよ!」

「そうきたか」


 なるほど、これまでは女の方から寄ってきていたから、口説き方とか女への接し方とか知らないわけね。メンタルがこじらせ童貞かよ。

 これまでは「近寄ることを許す。喜べ、俺の寵を与えよう」みたいなノリで労力もなくベッドにGOだったのに、突然こんな規格外の転生女の相手は確かに難しかろう。仕方ない、誘導してやろう。


「まぁいいわ、じゃあ聞かせて?アナタ、一体いつから私に惚れてたの?」

「うぅ…………最初から、だ……」


 余裕に満ちた微笑を浮かべて尋ねる私に、アルベルトは悔しそうに呻いてから答えた。でも、最初から?へぇ?本当かぁ?


「最初ぉ?感謝も謝罪も請求されるまで口にしないような、見下された対応をされていた気がするのだけれど?」

「ぐっ、あ、あの時は……悪かった……俺にとってはアレが普通だったんだ」

「生まれつきのオージサマは、礼儀知らずなのね」


 呆れたわ、とため息混じりに吐き捨てれば、アルベルトは小声で「そういうところだ」と呟いた。やけにキラキラとした顔をこちらに向け、はにかむようにアルベルトは表情を緩める。


「こんな風に、ちゃんと俺を叱ってくれる(ひと)は……初めてだ」

「はぁ?」


 思いがけない方向からの純真な感動の眼差しに、私は多少たじろいだ。そんなピュアな目で見てこられても困る。こっちはサディスティックに虐めているつもりだったのだぞ。罪悪感が湧くじゃないか。


「初めてなんだ、悪いことを悪いと、叱ってもらえたのが」

「……あら。それはまた、不幸なご身分ねぇ。可哀想に」

「優しいな、……ありがとう」


 なんでありがとうなんだ?別に気を遣って言った訳じゃないぞ。ただの感想だ。急に私に対してポジティブな色眼鏡をかけるのやめて欲しい。内心の焦燥を隠して平静を装いながらも、私は顔が引き攣りそうだ。


「ユリアは本当にいつも優しい……間違えたら正してくれるし、悪いことをしたら叱ってくれるし、危ないことをしたら心配してくれる。そんな女……どころか、そんな人間、俺の周りにはこれまでいなかったんだ」


 え、まさかこいつマザコンとかシスコン?心配して叱ってくれる年上女にキュンとくるの?いやまぁ男はみんなマザコンて言うけど。


「これまで誰も俺を叱ってくれる者はいなかった。そして皇帝になった今、コレから先もいないだろう」

「それはそうでしょうね」


 なにせ今や、体に幾千幾万の矢を受けながら聖女を守り抜き、暴虐帝を弑した英雄帝……などと崇め奉られているアルベルトだ。この男に一言言ってやれるのは、最初に一緒に国外逃亡を企てていた騎士君たちしかいないだろう。だがあの男性陣はアルベルトに心酔しているからなぁ。命懸けの諫言とかはしに来ても、アルベルトを叱責したりはしないだろう。


「君に嘲笑われて、その度に俺は身体中に痺れが……神のお告げのように、電撃が走ったんだ。そして気づいたんだ!これが愛の女神の矢に打たれた時に感じる、一目惚れの衝撃というやつなのだと」

「電撃かぁ」


 それはどちらかと言えば、キューピッドの矢というより、神の裁きっぽいけどな。まぁいいや、あまり突っ込むと、必死にかき口説いてくれているアルベルトに悪い。


「ユリア、もう一度頼む。どうか……俺の女神になってくれ」

「おぅふ」


 俺様プロポーズから、ドMの素質ありまくりな下僕系プロポーズに進化した。恥じらいに頬を赤らめ、真摯にこちらを見つめてくる瞳は、私の中の意地の悪い魔獣を刺激してやまない。まぁ有体に言えば、大変そそられた。この可愛い大型獣を、今私は、可愛がってやりたくて仕方ない。


「うーん、なるほどねぇ、……まぁ一考の余地はあるけど」

「一考の余地くらいしかないのか!?」


 私が熟考の果てに出した返答に、アルベルトが目を見開いて衝撃を受ける。そして私の足元に膝をつくと、まるで縋り付くように私の手を取った。


「だ、だめか?俺にはお前が、お前のような女が必要なんだ」

「へー」


 ふわっとやる気のない返事を放り投げる私に、アルベルトが泣かんばかりの切実さで希った。私が欲しいと。


「どうしたら俺と結婚してくれるんだ……!?結婚してくれるのならば、俺は何でもする!」

「……へえ?」


 その言葉、忘れないでね?


「妃ねぇ。それはもちろん、唯一無二の正妃よね?」

「え?」


 一夫多妻どころかハレムを形成するのが当たり前のこの国で生まれ育ったアルベルトには、私の要求が理解できないらしい。私はニンマリと笑うと、噛み砕いて説明してやった。


「私、平民出身だから、他にも女がいる男と番う気にはなれないのよ。側室や愛妾なんて置いたら許さないわ」

「ほ、法改正をしよう!」

「時間かかりそう〜」

「じゃあ俺の代では後宮を潰すと神殿に誓約書を出す!それでどうだ!」

「うーん、まぁそれならいいかな」

「本当か!?」


 私が婚姻に乗り気になってきたと見て、アルベルトが嬉々として提案をする。私も尻尾をブンブン振り回していそうな可愛らしい姿に頬が緩んだ。可愛い雄のワンコを飼い慣らすのは、きっと楽しいだろう。


「良いわよ、あなたと結婚してあげるわ」

「ユリア!!」


 感極まって私に抱きついてきたアルベルトに、私はにっこり笑って襟元を両手で掴み、ぐっと引き寄せた。


「さぁ、アルベルト。今日からアナタは、私のモノよ」

「へ?……んっ」


 ぐっと引っ張り、目の前の顔にぶつけるように顔を寄せる。食らいついた唇は分厚くて、食べ応えがありそうだった。




 

レッツ朝チュン

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