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#11「マリオネットの糸」【2】

 魔王は不死身であると、多くの人々は信じている。それは真実であり、虚構でもある。この世における魔王の本体は『魔石』と呼ばれる赤い石で、次元の狭間に囚われた魔族の王と繋がっている。魔石は赤く輝きながら脈打つ心臓のような石で、光にかざすと血液のようなものが流れているのが見える。魔族の王と契約を交わし、魔石をその身に宿したものが魔王と呼ばれることになり、たとえ元が人間であっても、魔族社会で高い地位を得る。それは元の肉体が器としか見なされず、ヴァルハラでもこの世でもない場所にいる魔族の王こそが真の主と考えられているためだった。

 魔石と融合している限り、魔王は不老不死で不死身。しかしその融合は、魔族の王の意思一つで解除できる程度のもの。魔王はこの世界における魔族の王の代理人であり、器となった者の思考に介入する権限を持つ。融合が進めばその意思は魔族の王の支配下に堕ちる。同時に魔族の王の力を己のものとして扱えるようになり、その姿も次元の狭間の虜囚のものに近づいていく。

 そのような相手に対してエリオが用いたのは、エリシャの使っていた古代竜族の送還術だった。エルフのような次元侵略者をエネルギー体に変え、高次元に送り返すというもので、送還された生命体は低次元からも視認できる星のような輝きになる。幸運にも魔王ヴァルトゥースは魔族であったため、この方法で強引に融合を解くことができた。そこに辿り着くまでに一行は苦戦を強いられた。魔王と対峙したのはリゼットとエリオの二人だけで、護衛の騎士団は魔物相手に壊滅した。もっとも彼らはリゼットの真の目的を知らなかったので、魔王となった王女の姿を見ることがなかったのは不幸中の幸いといえるだろう。

 ヴァルトゥースに向かってエリオが手をかざすと、色とりどりの鉱石が虚空に飛び散った。魔力を秘めたそれらの石は魔王を囲むように高速で床に落ち、天に向かって輝きを放つ。古代竜族の宝石魔術。リゼットの知らない術だった。まるで光の牢獄に魔王を捕らえたかのようだ。魔王は光の粒子となってその場から消え失せる。やがて鉱石も光を失い、あとに残ったのは宙に浮かぶ魔石のみ。リゼットは赤く脈打つ魔石に手を伸ばした。

「異界の王よ、わたしがあなたの器になろう」

『簒奪者か。いいだろう』

 魔石がまばゆく輝き、リゼットの胸に融け込んだ。魔石と心臓が融合し、この世のものではない血液が全身に送り出される。同時に膨大な記憶が流れ込む。リゼットはこの血と記憶が自分自身を完全に消してくれることを望んだ。しかしどこまでいっても記憶は他人のものであり、血は幻想に過ぎなかった。それらに触れて際立つものは、自分自身の感情、思考、記憶、人格、消えてほしいものばかり。

 あれから三年の月日が流れた。当時はリゼットよりも小柄だったはずのエリオは、今やリゼットより背が高くなっていた。エルフの至宝『アヴァロンの鍵』を携えて戻ったエリオは、アンデッド化したドラゴンの群れと黒い甲冑を連れていた。アンデッドドラゴンはいずれも白骨化しているが、ブレスのような霊気を吐くことができるという。エリオはリゼットにいたわりの言葉をかけると、魔王軍の精鋭の集う浮遊島の眼下に広がる巨大都市に目を向けた。

「わたしの死者の軍勢に魔族の因子を持つものは存在いたしません」

「つまり聖柱結界を無傷で突破できるのですね」とリゼット。

「ええ。死者の軍勢に結界を内部から破壊させます。わたしは『賢者の指輪』を所持する大魔術師カイムと対峙いたします。しかし彼の魔力は指輪で増幅されているでしょう。なにせエルフの大賢者マーリンの錬成した禁呪の指輪なのですから……」

 エリオは楽しげに笑った。その表情は自由でありながら諦めに満ちているようにも見えた。

 リゼットは風に舞う金髪を指で押さえ、エリオに確認した。

「大魔術師カイムはあの白い塔にいるのですね」

「ええ、恐らくは最上階にいるでしょう。もしくはわたしがそこまで誘導いたします」

「結界が解け次第、加勢します」

「リゼット様のお手を煩わせることのないように致しましょう。……モルガン、わたしと一緒に来てください」

 エリオはエルフの狙撃手を呼び出すと、黒い甲冑を伴って、転移魔法でその場から消えた。彼はこの世から失われたはずの転移魔法を修得していた。『エリシャの書』に記されていたのだと彼はリゼットに説明した。彼の言うところによると、転移魔法はリスクが高く、石の中に転移すればたちどころに死に至るし、高所に転移すれば墜落死しかねないという。エリオが転移魔法を使うのは、少人数で移動するときのみだった。

 アンデッドドラゴンの群れが浮遊島を離れ、下界の街に降下する。

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