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#3「遠い約束」【2】

「いったい何を言っている……」

 言葉に力が入らない。訊くまでもない質問だからだった。早鐘を打つ心臓がその理由を物語る。この男の言葉は真実で、自分の信じてきたものはただの虚構に過ぎないのではないか。理性を越えた領域からそんな確信がこみ上げて、足元が崩れそうになる。リゼットという名の魔王の存在は初耳だったが、エリオと名乗る若い男が世界の真実の一端を握っていることは確かなのだろう。何故ならこの男は大賢者マーリンなのだから。

 ランスロットは一呼吸置き、冷静になろうとした。

 自分の信じてきたものが虚構に過ぎなかったとして、それがいったいなんだというのか。目の前の男、かつてマーリンとして知られた男が大賢者と呼ぶに相応しい叡智の持ち主であったことに変わりはない。ならば今すべきことは、目の前の男からより多くの知識を得ることだ。エルフ族の未来のために。

 ランスロットは目を伏せてわずかにかぶりを振ると、落ち着いた様子で再びエリオを見た。

「……いや、訊きたいことはそうではない。あなたはいったい何者なのです?」

「わたくしについては今しがた申し上げたとおりです。ですが本質的なことを申せば、わたしは何者でもありません。最初の生は古代魔族……、古代竜族の時代に生まれた名もなき奉仕種族でした」

「魔族か……。だから魔王に仕えている、そういう事情だったのですね」

「いいえ、そうではありません。現在、魔族として知られている種は異界から訪れた次元侵略者。魔王についても同様です。一方の古代魔族は、古代竜族の生み出した人工生命体。古代竜族が自らの奴隷として使役すべく創造した奉仕種族で、魔族の名を有していても両者はまったくの別ものです」

 次元侵略者。人工生命体。なじみのない言葉だった。しかしマーリンは昔からエルフにはなじみのない、おそらくは古代竜族由来の言葉を使うことがあった。こうして話を聞いていると、やはりこの男はマーリンなのだ、ランスロットは改めて納得せざるを得なかった。

「あなたの目的は何なのです?」

「わたしは永遠の命が欲しい」

「それはすでに成し得ているでしょう。その転生術は永遠の命と呼ぶに相応しい」

「いいえ。わたしのしていることはただの人格や記憶の保存と復元に過ぎません。しかも復元後の生は、復元先の肉体の気質の影響を受けるばかりか、その生を存続し得るだけの環境に依存しなければならない、ひどく脆弱なもの。こんなもの、とうてい永遠の命とは呼べない。わたしの望む生命とは、人類が滅び、魔族が滅び、次の種が台頭しては滅び、太陽が死に、大地が消え失せ、あらゆる生命が死に絶えてもなお存続し得るようなものでなければならないのです」

「それは生命と呼べるのでしょうか」

 ランスロットの素朴な疑問にエリオは穏やかな笑みで答えた。

「ええ。彼女はそのような状態で生きているのですから。……ランスロット卿、どうか許してくださいね。わたしは永遠の命を得たい。宇宙が終わる瞬間までこの世に存在し続ける彼女に寄り添いたいのです」

「その相手がリゼットなのですね」

「いいえ。リゼットはただの友人です。立場上は主ですが、主と呼ぶには不安定であまりにも頼りない」

 エリオの顔に浮かんだ笑みが妖しく翳る。エリオとリゼットの関係は、従者を名乗る当人の語るようなものではないのだろうが、ランスロットはそこには触れないことにした。エリオはランスロットの内心を知ってか知らずか言葉を続ける。

「わたしの真の主は古代竜族の魔導師エリシャです」

 エリオの背後の空間が歪み、一人の少女が現れた。赤いドレスを纏った華奢な黒髪の少女だった。不思議なことにランスロットにはその色彩がはっきりと見えた。ほの暗い地下遺跡ではすべての色が曖昧になる。しかし少女の肌の白さ、宙に舞う癖のない髪の黒さ、いかなる国や種族のものとも異なる意匠のドレスの赤、月明かりの射す湖のような暗い青の瞳、それらすべての彩りがランスロットには見えていた。視覚ではなく脳に直接映像を送り込まれたかのようだった。彼女はこの世のものではない。ランスロットは直感した。エリオは嫣然と微笑みながらランスロットに手を伸ばす。

「さて、ランスロット卿。アヴァロンの鍵をいただきましょうか」

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