第十一章 妖の子
《こっちだ・・・・・・》
山津見たちオオカミが獣道を進む。
「こっちなんだね・・・・・・」
わたしは腰の太刀に手を置くと、彼らの後を追った。
《俺たちを信じろ》
山津見が思念を送ってくる。
「ミナグロが進むとなると・・・・・・・あの獣道かもしれないな」
雄太がそう言うと同時に近くの木の幹にとりついた。
「俺は先回りしている」
銃と短槍を背負ったまま、身軽に木の枝を伝って森の奥に姿を消す。
「雄太は身軽だなぁ・・・・・・・・・」
まるで森を自由に移動するサルみたい。
雄太の気配が消えた。
《行くぞ》
山津見が言い、わたしたちはさらに先へと動き出した。
歩き始めてしばらくたったころ・・・
「そういえば、また一人ミナグロに襲われたそうだ」
「また?」
雄太がわたしの元に戻ってきて言う。
「山から木を運び出す馬方らしい。夜になって馬しか帰ってこなくて、捜索したら土饅頭になってたそうだ」
言うには、すでに遺体はかじられた顔しか残っていなくて、とても人に見せられたものじゃないらしい。
「残酷なことだ。被害者には娘さんもいて、その子はまだ五歳なんだそうだ」
「残酷・・・ねぇ・・・」
わたしには親の記憶がない。育ててくれた雄太のお父さん―狼神社の神主さんが親みたいなものだ。神主さんが言うには、ある冬の日に神社の鳥居の前に捨てられていたらしい。
(だから・・・)
わたしの戸籍の父母の欄は空欄。生年月日も、捨てられていた日を暫定的に書いたもので本当の生年月日と年齢は今でも謎のままだ。
(まあ、雄太と見た目はほぼ同じだから、同じ年ごろなのは間違いないでしょ)
それと、わたしを目にした里犬たちは、なぜか威嚇するかおびえるかの二択の行動に出る。山津見が言うには「とても人とは思えない匂いがする」らしいけど、人間には分からないらしく、皆わたしを一人の人間として扱っている。
「でも、なんとなく感じるのよね~」
自分が本当は人じゃないんじゃないかっていうの。
「確かに、お前はどことなく人ならざる者の雰囲気があるな」
そう言って雄太は短槍の刃に息を吹きかけた。
「やっぱり?」
「ああ、匂いとか見た目は普通の人間なんだが、それにしてはどこか違和感があるんだよ。うまくは言えないけど」
あぁ、そういえば。と言って雄太が続ける。
「お父さんがお前を拾った時、お前の周りに無数のオオカミの足跡があったって言ってたな・・・」
山津見の方を見た。
「くるんでいた毛布にオオカミの毛が大量についてたともいうし。お前、何か知ってるんじゃないか?」
山津見の体が、少し跳ねたような気がした。
《俺は何も知らないぞ・・・》
そう言う思念も、どことなく震えているように感じる。
「本当か?」
山津見の顔を覗き込む雄太。
「愛美に関する隠し事があるなら、今のうちに言った方がいいんじゃないか?愛美ももう中学生。自分に関することを知っておいた方がいいころだ」
それに・・・。と前置きして雄太が言う。
「愛美の特殊能力・・・動物と話せたり、人にしては異常に夜目や鼻が利いたりするのも、アイツの生まれと何か関係があるんじゃないのか?」
言われてみれば確かに、わたしは他の人間に比べて身体能力が高い。自分にとってはこれが「普通」だったけど、昔から運動部やスポーツ大会の助っ人には引っ張りだこだった。
《ふぅ・・・》
山津見の口から短く息が漏れる。
《愛美。お前から感じるのは・・・》
少しずつ、言葉を選ぶように思念を送って言った。
《「妖気」と「神気」だ》
え・・・?
「神気と妖気?」
《そうだ》
わたしの問いにうなずくと、山津見は歩きながら説明を始める。
《まずは「妖気」。愛美からは、人間のような気配は感じない。だが、その代わりにどことなく妖や物の怪と人間が呼ぶようなものの気配がするんだ。いうなれば・・・》
化け狐や狸、化け猫のような・・・。と山津見はいう。
《で、次に「神気」。愛美からはただの妖のような気配だけは感じない。どことなく俺たちと同じ「眷属」の気配を感じる。それも・・・》
一眷属であるオオカミとは比べ物にならない、いうなら「神」そのものに近い神気だという山津見。
「そういえば、昔読んだオカルト関連の本で読んだことがあるな」
雄太が短槍を肩にかけなおして言う。
「半人半妖の人間の話。その話によると、妖と人の間に生まれた子は見た目や身体的特徴は父の種族から受け継ぎ、母方の種族からは特殊な能力や霊力を受け継ぐことが多いらしい」
と、いうことは・・・
「わたしは・・・」
「愛美は・・・」
二人同時につぶやく。
『・・・妖と人間のハーフ?』




